※ご注意 以下のいずれかの項目に該当する方は、直ちにリセットしてください。 ・これから「XakⅢ」をゾンブンに楽しもうと思っておられる方 ・今現在、「XakⅢ」の世界にどっぷりつかっておられる方 ・今しがた「XakⅢ」を解き終え、感動の余韻に浸っておられる方 ・「XakⅢ」が死ぬほど好きな方 ・ガンコでジョーダンの通じない方 なお、注意をお守りいただけなかった場合の一切の責任は当社では負いかねます。 りとる☆ちぇいさぁ - Xak番外編Ⅳ - 宿屋の一室を利用してつくられたその料亭は、ちょうど昼時分であることもあいまって、 様々ないでたちの人々でごったがえしていた。 その一角、入口近くのテーブルで、早くも空のジョッキを山積みにしている、気忙な荒 くれ者の一団を押し退けるように、ひとりの少女がひょっこりと顔をのぞかせる。 すこし黄色味をおびた麻布の服に身をつつみ、白い前かけの胸元に揺れる大きな真紅の リボンが特徴的である。容貌はまだ幼く、どう見ても十歳そこそことしか思えない。 まわりの荒くれ者など気にする様子もなく、少女はテーブルに身を乗り上げると、くり くりとしたブラウンの瞳を忙しなく動かして、あたりを探りはじめる。 この状況下で、酔いのまわった荒くれ者たちが黙っていようハズがない。 「うぅ~おぉ~い、じょお~ちゃん、じゃあぁ~まぁだぁ、どぉけぇ~い」 「そぉ~だぁ~、わしぃ~ら、ガキのしゃくは、いらんぞぉぉぉ~!!」 荒くれ者の無遠慮な声に、今度は少女が黙っていなかった。 「私はガキじゃないわよ! それよりも・・・ あっ!!」 ふり向いてキッと荒くれ者たちを睨めつけようとした少女の瞳が、男の肩越しに探して いたものを見つけて、大きく見開かれる。 こくりと息をのむ少女。 なおも男たちは口々になにやら喚きたてているが、少女の耳には一向に届いていないら しい。ただ一心に、奥のカウンターで固めのパンにかじりついている戦士姿の青年の横顔 を見つめている。 「・・・見つけたわ。とうとう見つけたわよ、ラトク・カート・・・」 まわりの男たちが怪訝な表情でのぞき込んでいることなど気にもとめず、少女は不敵に 呟いた。 「じょお~ちゃん、いぃ~かぁ~げんにしねぇ~とぉ~・・・」 酔いが完全にまわったのか、それとも年端のいかぬ少女に無視されたことに腹を立てた のか、とにかく男たちは酔顔をさらに紅潮させ、目の前の少女にくってかかろうとする。 それすらかまわず、少女はよっこらせとテーブルによじのぼると、今度は低い声でなに やらブツブツと呟きはじめた。 「おじさ~ん、お水もう一杯ね」 空になったコップを店の主人に差し出すと、ラトク・カートはまた一口、パンにかじり ついた。 ラトクは今、上機嫌だった。 このところ事件らしき事件もなく、そればかりかここから数日ばかりの旅程にある町に、 高名な薬剤師がいるというウワサ話を耳にしたのである。 もしかすると母さんの眼を治す薬を調合してもらえるかもしれない、そしたらエリスに 何かお土産でも買って、一旦フェアレスに戻るのも悪くはないな、などと頭の中で郷愁を ふくらませるラトクであった。 なみなみと水の注がれたコップを受け取ると、口の中のなかなか噛み切れないパンのか けらごと一気に飲みくだそうと、口に運んだちょうどその時―――― 「ラトク・カート、かくごぉぉぉっ!!」 ぶっ☆ 唐突に背後から自分の名を呼ばれ、思わずラトクはのどを詰まらせそうになる。 何事かとふり向く間もあらばこそ―――― 「くらえっ、サンダァァァ――――ッ!!」 どこかでそう叫ぶ声がしたかと思うと、突如として頭上に沸き起こった光のエネルギー が、ラトクめがけて迸る。 「でぇわおぇぇぇっ!!」 意味不明の絶叫をあげて、イスから転げ落ちるラトク。かわりに彼が今まで腰かけてい たイスが、光の痛烈な洗礼を浴びて黒コゲとなる。 「ちちぃっ、逃がしたかっ」 舌打ちをもらす少女の声にラトクはふり返る。 と、少し離れたテーブルの上に仁王立ちになって、ひとりの少女が自分の方をいかにも 憎々しげに見つめているではないか。 ――――それはともかく。 直接的な被害こそなかったものの、すぐ近くで勃発した突然の惨事に巻き込まれては大 変と、カウンターにいた客たちが一斉に出口へと殺到する。逆にテーブルにいた客は、昼 間のアトラクションか何かかと取り違え、好奇心丸出しでカウンターへ押し寄せようとす るから、たまったものではない。アッという間にそこここで、やれ肩が触れただの、やれ 料理を落としただのと乱闘がおっぱじまる。 そんな周囲の喧噪をヨソに、少女は毅然とラトクに向かって言い放つ。 「ふん、よく今のをかわしたわね。だけど、今度はどうかしら!?」 少女が口の中でなにやらゴニョゴニョ唱え出すと、ゆっくりと右手の人さし指を天に向 かって突きあげる。 ほとんど同時に、身に危険を感じたラトクが左へ跳ぶ。 一瞬ののちには、その床を小型の雷が抉り取っていた。 あぶないあぶないと心の中で呟くラトク。 が、次の瞬間―――― ずどべばっしゃ――――ん☆ 「ふ~っふっふっふっふっ、回避行動をも頭に入れたうえで、あなたを油ツボで転ばすと いう私の作戦、見事成功ね。 ふっ、やっぱ私ってば天才!」 えっへん、と胸を張る少女に対して何か言いたそうにしながら、ラトクは空っぽの油ツ ボから左足を引き抜いて立ち上がる。 「まだ懲りてないようね。さっきの2発はワザとはずしてあげたけど、今度こそ手加減な しでいくわよっ! それっ、ファイ・・・・・・」 「くぉぉぉぉぉらっ、嬢ちゃんっ!!」 天井すら崩れ落ちんばかりの大音声が、少女の背後から轟きわたる。 「ひゃぁっ!!」 短く叫びをあげた少女の身体が、少しずつ宙へと浮き上がっていく。 ・・・よくよく見ると、それまで沈黙を保っていた店の主人が、憤怒の形相で少女の首 根っこをつまんで持ち上げているのだった。 「わ・・・たしの店・・・を・・・」 主人の肩がブルブルと震えている。鬼とも見惑う形相に加え、少女を片手で吊り上げる 怪力、そして大柄な肉体。これでは少女でなくても、大抵の者がビビってしまうに違いな い。 「永年の冒険生活でたくわえた金で、ようやく念願の店を持てたというのに・・・それを、 それをよくもぉ・・・」 少女の顔に、主人の凄まじいばかりの鬼面が迫る、迫る、迫る! 「・・・あ、あのね、おぢさん。 これにはふっかぁぁぁ~~~いワケが・・・」 「問答無用!!」 その後の展開については、あまりの凄惨さに描写をひかえたい。 むろん、この騒ぎに乗じて、ラトクがコソコソと(メシ代も払わずに)逃げ出していた のは言うまでもない。 「ラトク・カート! 昨日はよくもこの私を狡猾なワナにおとしいれてくれたわねっ!」 森を横切って、北の街道へ出ようとしたラトクの前に、先日の少女が立ちはだかる。 昨日会ったときのままの服装に、『ロマンス亭』なんぞというロゴの入ったエプロンを つけているところを見ると、どうやらあのいかつい主人のもとでウェイトレスでもやらさ れていたのだろう。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。 お嬢ちゃんはいったい、ボクになんの用があるんだい?」 まるで腫れ物にでもさわるかのように、優しく優しぃ~くラトクが問い質す。 が、少女は最初っから聞く耳もたぬといったそぶりで軽く目を閉じると、口の中で何や ら呟き始める。 そして―――― 「ファイアー!!」 少女の手を離れた魔法の火の玉がラトクを襲う。 すんでのところで、それを横っ跳びにかわす。 なおも続けざまに魔力を解放する少女。 反撃が可能なら、相手を黙らせるのは容易い。しかし、いくら理由も言わず呪文を唱え てくるとは言え、相手はまだ年端もいかぬ少女である。ヘタに鎮めようとしてケガでもさ せようものなら、それこそ大問題となりかねない。 結局、ラトクは逃げをうつことに決めた。 やがてふたりは森の中の、変にそこだけ開けた場所へと出てきた。 ふたりが対峙するあたりを中心に、半径20メートルほどのエリアだけが、立ち木も歩 行の障害となるような雑草もなく、平坦な土地となっている。 少女はそこで足を止めると、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。 「ふふふ、かかったわね、ラトク・カート」 「何だって!?」 「ここまではジャマになる木が多くて、私の実力を存分に見せてあげられなかったけど・ ・・」 とんでもない。 ふたりが通ってきた道すじは・・・そう、それこそドラゴンの子供がブレスをしゃぎゃ しゃぎゃやりながら、縦横無尽に走りまわったかの如く、くっきりと破壊の跡が浮かび上 がっている。とうてい呪文の使用をセーブしていたとは思えない。 「今この場で、私が実験に実験を重ねて編み出した、究極の魔法をあなたに見せてあげる わ!」 言って少女は両手をバッとふり上げる。 すると、それを合図にラトクの周囲6ヶ所から、一斉に火柱が立ちのぼったかと思うと、 またたく間に一分の隙間もない炎のヴェールとなって、ラトクを包み込む。 「こ、これは・・・」 「ふふふ、名づけて『火炎包殺陣』! あなたはもはやどうすることもできず、地獄の業火にその身を焼かれて、ジワジワと悶 え死ぬのよっ」 哄笑をあげる少女。 が、ラトクの方も驚いたのは一瞬だけで、一応ぐるりを見回して、歩いて通り抜けられ るだけの隙間がないことを確認すると、少女のいない方を向いておもむろに剣を抜く。 「ムダよ! この私の術から逃れられるとでも思って!?」 少女の言葉を気にもとめず、白刃一閃。 すると、剣先から迸り出た清冽な光のエネルギーが、地表の下草を抉りながら、炎の壁 を突き破る。 あとには地肌をムキ出しにした一本の道。 小さく頷いて剣を鞘におさめると、「じゃ」とか何とか言って、ラトクは呆然と立ちつ くす少女を横目に、何事もなかったかのようにスタスタと歩み去っていくのだった。 さらに一夜明けて翌日。ようやく目ざす町まであと一日の旅程となり、連日ワケのわか らぬ少女に追いまわされていたことなど、もうすっかり忘れてしまったように上機嫌なラ トク。にこやかな笑みさえ浮かべ、小ぢんまりとしたメシ屋の“スペシャルメニュー”と 称する骨つき肉のランチをぱくついていた。 ウワサでは、これからラトクが訪ねようとしている薬剤師は、ウデは確かではるばる遠 方から客がやって来たりするほどらしいが、かなりの気分屋でなかなか注文にも応じない そうである。そればかりか、酒に付き合えと誘っておいては朝までさんざっぱら飲みたお し、あげくに勘定も払わずに姿をくらませたり、無理難題をふっかけては、客に盗賊団の ねぐらへ宝物を盗みに忍びこませたり・・・と、聞けば聞くほどアタマの痛くなるような ウワサばかりが、次から次へと耳に飛び込んでくる。 それでもまぁ、こちらが誠心誠意たのめば、むこうも決して悪人じゃなし、きっと聞き 入れてくれるだろう、などと身勝手に納得しているところへ―――― 「あら、ラトクさんじゃない!?」 ぎっくぅぅぅ――――っ!! よもや、またしても例の少女の追撃か、と眉をひそめたラトクだが、よくよく考えてみ ると、今の声は確かに若い女のものには違いないが、もうすこぉ~し年齢が上のような気 がする。 ラトクが恐る恐るふり向くと―――― 「あーっ、やっぱりラトクさんだー! 久しぶりー。ねー、あたしのコト覚えてる?」 そう言ってラトクに近付いてきたのは、18歳ぐらいの少女。しかし、胸元を覆うなめ し皮の鎧や、腰に佩いた細身の剣からは、『可憐』『おしとやか』というよりも、『お転 婆』『男勝り』といったイメージの方が強い。 確かにラトクはその少女を知っていた。 すこし前に立ち寄った村で、女だてらになかなか侮れない剣の腕前と、それに負けず劣 らず強烈な個性を見せつけてくれた少女。そうそう簡単に忘れられるものではない。 たしかそこの村長の娘で、名前をテスといったハズだが・・・ 「テッ、テスちゃんじゃないか!? どうしてこんなところに・・・!?」 ラトクのあいさつに、テスがぷぅっと頬をふくらませる。 「ん、もう。 “ちゃん”づけはよしてよ。あたしだって、もうリッパなオトナなんだから」 一瞬考え込むラトク。 が、少女の険悪なまなざしに気付き、あわてて場をとり繕う。 「ゴ、ゴメンよ。 で、どうしてキミがこんなトコまで・・・!?」 テスの村は、ここからだと山ひとつ越えた向こうにある。「ちょっと買物に」というに は遠すぎる距離である。 「それなのよ。 ホラ、あたしの村って小さくって、とくにこれといったウリモノもないでしょ。で、こ のままだと村がどんどん先細りしていっちゃうからってんで、お父さんがね、なにか事業 をおこすんだって。 宿屋建てたり、森を切り拓いたりなんかして、けっこう大がかりなコトやる気みたいよ。 で、あたしがそのための技術者や人夫をさがしに、はるばるやって来たってワケ。 ・・・ホントはこの前みたいなコトもあったから、お父さんには反対されてたんだけど、 ホラ、お父さんはお父さんで手いっぱいだし・・・」 (あ、相変わらずこのコはよくしゃべる・・・) そう心の中で呟きながらも、父のため、村のために献身的にはたらく少女の姿に、思わ ず笑みを漏らすラトクであった。 「・・・そうか、みんな必死なんだな。キミなら、きっと立派にお父さんのサポート役を つとめられるハズだよ」 「そ、そんなぁ~、照れるじゃない。 ・・・くすっ☆ それにしてもラトクさん、相変わらずね」 テスはラトクの姿を見回して、軽く微笑む。 「?」 「だって、あちこち泥やススでいっぱいなんだもの。 ねっ、ねっ、今はどんな冒険をしてるの?」 思わず苦笑するラトク。 年端のいかぬ魔法使いの少女に連日追い回されているなんて、とても言えたものではな い。 ――――と、そこへ。 唐突にメシ屋の扉がバァ――――ンと勢いよく開け放たれたかと思うと、そこに例の小 っちゃなシルエットが現れたのだった。 「らぁとぉくぅ、かぁあぁとぉ~、みぃ~つぅ~けぇ~たぁ~わぁ~よぉぉぉ~!!」 長く尾をひく不気味な声に、その場にいあわせた者たちの好奇に満ち満ちた目が一斉に 注がれる。 少女から発せられたその声は、ややしゃがれ気味。しかも、その特徴的な大きな瞳のま わりは、赤ぼったく腫れあがっている。 ・・・が、それでもラトクに向けられた憎悪の念は、一向にうすらいだようには思われ なかった。 (ちょっとかわいそうなコトしたかな・・・) きっと、自分があまりに素っ気なくしたため、小さなプライドを傷つけられて一晩泣き 明かしていたのだろう。そう思ってはみたものの、だからと言って・・・。 「・・・ね、ねぇ、ラトクさん。 あのおチビちゃん、知り合い? ・・・って、ちょっと!? どうしたの、顔色が悪いわよ!?」 事情が呑みこめず狼狽するテスに、ラトクはぱたぱたと手をふって、『大丈夫だよ』と 答える。 が、そんな状況など全くおかまいなしに、少女はつかつかとラトクたちのテーブルへ歩 み寄ると・・・ 「ラトク・カート、昨日は運よく私の術から逃げおおせたようだけど、さぁて、今回はど うかしらねぇ。 そろそろあなたも、自分の犯したツミの重さに気付きはじめたんじゃなくって!?」 頭をかかえてうな垂れるラトクに、少女は胸を反り返らせて傲然と言い放つ。 「あ、あのね、前にも言ったように、ボクはキミに命を狙われるようなコトをした覚えは、 これっぽっちもないんだ。 もしかしたら人ちがいかもしれないし・・・ 一度くわしく、そのヘンの事情を聞かせてくれないかい?」 ラトクはなるべく少女を刺激しないようにと言葉をえらびえらび、慎重に尋ねかける。 「今さらそんな調子のいいコト言って責任逃れしようというのっ!? ・・・いいわ。いいわよ、言ってやるわよ。 万人が認めてやまないあなたの罪状を、この場で私が白日のもとに晒してあげるわっ!」 びしぃっとラトクを指さす少女。 さすがにラトクも、息を呑んで自分の過去に想いをめぐらす。 「ラトク・カート。 あなたの犯した最大の罪は・・・」 ごくっ☆ いつの間にやら、そこにいた者すべてが事情の判然としないまま話に引きこまれ、少女 の次の言葉を息を殺して待っていた。 「この・・・」 少女の小さな口から、ムリに感情をおし殺そうとしているのがハッキリと感じられる、 震えた声が漏れる。 「・・・この・・・ この私から、最愛のフレイさんをうばったことよっ!!」 どんぐわらぐわっしゃぁぁぁ――――ん☆ まだ半分も手をつけていない料理の皿を豪快に吹き飛ばしながら、ラトクはテーブルに つっ伏した。テスを含め、まわりの者たちはただただ呆然と顔を見合わせるばかりである。 少女はなおも続ける。その肩がブルブルと小刻みに震えていた。 「・・・そうよ・・・ あなたさえいなければ・・・ あなたなんかがいなければ、フレイさんはずっとずっと、ずぅぅぅ――――っと、私ひ とりだけのものだったのにぃぃぃ――――っ!!」 押さえきれなくなった感情が一気にバクハツし、少女は恥も外聞もなく、わんわん泣き 始める。 が、それでもラトクの“罪状”とやらをつらつらと述べたてているのは、ほめてやるべ きか。 「・・・あのとき、町でフレイさんを一目見たときから、私の人生は変わったのよ。この ヒトしかいない、このヒトになら私のすべてをささげられる、と。 ・・・でも・・・それなのに、フレイさんは私の前から去っていった。『ラトク・カー トっていう名前の、ハンサムで男らしくって、やさしさに満ちあふれていて、頼りがいが あって、力強くって、それでいてちょっとはにかみ屋で、神の血をひく勇者でありながら 少しも自分の力におぼれることのない、最っっっ高にすてきなヒトのあとを追わなきゃな らないから』って言い残して!」 ラトクは下を向いて、頭をポリポリやってみる。 「私は悲しかった。 せっかく、またとない素晴らしい女性にめぐり会えたというのに、『出会いは別れのは じまり』そのままにフレイさんは私の前から姿を消した。 ・・・でもっ! そんなフレイさんが選んだほどの男性に一目会ってみて、もし納得い くほどの傑物なら・・・おとなしく諦めることにしよう、私は殊勝にもそう思った」 初対面でいきなり背後から呪文の嵐を浴びせかけようとしたり、何度も何度もあとをツ ケねらったりしておいて、『一目会ってみて』も『納得いく』も『おとなしく諦める』も あったものではない。 少女の怨み言は、まだまだ続いた。 「・・・それなのに、それなのによっ! 私もちょっとはあなたのコト、認めてあげてもいいかな~なぁんて思いかけていた矢先、 よりによって、こぉ――――んなあばずれ女と逢引きしてたなんてっ!」 「こぉぉぉらぁぁぁ――――っ、ちょっと待たんかぁ――――い、このくそガキゃあ!」 ラトクが黙っているのをいいことに、とどまるところを知らずエスカレートする少女の 悪口雑言に、テスが猛然とくってかかる。 「ちょっと、そこのくそガキ! 『あばずれ女』って、いったい誰のことよっ!?」 「ふんっ、聞くまでもないっ! あんたしかいないでしょっ、あ・ん・た・しかっ! それに私はガキじゃあないわよ!」 「キ――――ッ! こぉの、ヒトがおとなしくしてりゃあ、イイ気になって!」 「なにさ、このオバン!」 「なぁぁぁんですってぇぇぇっ!?」 今にも少女に飛びかからんとするテスを、不意に我にかえったラトクが、後ろから抱き 止める。 「よせ、テスっ! 落ち着け、落ち着くんだ! 相手はまだ子供じゃないか!」 ラトクの言葉に、今度は少女が憤然として抗議の声をあげる。 「ちょっとっ! さっきから私はガキじゃないって言ってるでしょっ! だいたい、あなたこそ何よっ! フレイさんの目が届かないのをいいことに、こんな所で、こぉ――――んなお下劣を絵 に描いたよーな売女と会ってるなんてっ! サイテーねっ!」 「だぁぁぁれが『売女』よっ、この鼻たれガキ! ガキはさっさとウチに帰ってママにおしめでも取りかえてもらいっ!」 「ひつっこいわねっ、だから私はガキじゃないって・・・」 ぎゃあぎゃあぎゃあ。 当分この騒ぎは収まりそうもない。 まわりの見物人たちも、しらけたように元の席に戻りながら、それぞれの感想なんかを 述べあっていたりする。 「返してよ! 私のフレイさんを返してよっ!」 「何よっ、このくそガキ! ラトクさんから離れなさいよぉっ!」 とうとうテスは腰のショートソードに手をかける。 少女も敏捷に跳びすさって、呪文の詠唱のかまえをとる。 2人の視線が、バチバチと火花を散らして激しくぶつかりあった。 「わ――――っ、テス――――っ! 頼む! 頼むから早まらないでくれ――――っ!」 そんなラトクの必死の願いが通じたのか、不意にテスの肩の力が抜ける。 「やっとわかってくれたんだねっ、テス」 ホッと安堵の息をついたのも束の間、振り向いたテスの凶悪な視線にたじろぐラトク。 「ところで、さっきから話に出てきてるフレイさんって誰なの!?」 ぎぎっくぅぅぅっ!!! 「い、いや、その、フレイは・・・ そのー、なんてゆーか・・・オレがまだ冒険者として駆け出しのころ、森で足をくじい て動けなくなっていたところを、偶然そばを通りがかったオレが助けて・・・」 「ウソよっ!」 ラトクのしどろもどろの釈明に、少女が「待った」の声をかける。 「フレイさんがこの場にいないからって、そんなデタラメでごまかそうなんて・・・。 オトナって汚いっ!」 さめざめと泣き出す少女。 「デタラメなんかじゃない。これは事実なんだ。」 「ウソッ! フレイさんは私にこう言ったわ! 『わたしがね、魔物の巣窟と化した悪意の渦の立ちこめる森の奥深くで、凶暴な怪物た ちに取り囲まれて絶体絶命のピンチのところへ、どこからともなく澄んだ笛の音とともに、 白馬にまたがったひとりの美剣士が颯爽とあらわれてね。 蝶が舞うような華麗な身のこなしの中にも、蜂が刺すような鋭さを秘めた一撃で、な みいる怪物の軍団をばったばったとなぎ倒すと、逆光の中に白い歯をのぞかせて《大丈夫 かい?》ってわたしに問うの。わたしがコクンとうなずくと、彼もニッコリ微笑み返して きてね。 そして2人を乗せた白馬は、光あふれる楽園の中を風のように駆け抜けていくの―― ――。 やんやんやん、フレイはずかぴぃ☆』 って! それはもう楽しそうに!!」 ・・・・・・。 少女、テス、そしてラトクが、三者三様の想いを胸に、複雑な面持ちで黙り込む。 その周囲では、早くもしこたま酒をかっくらい、顔を朱色に染めた大男の豪快な笑い声 が響き渡っていた。 「オレももう少し若ェころは、それこそ星の数ほどコレがいたもんだがよ・・・」 ラトクたち3人がいるテーブルの隣の席についている、口髭がなかなかシブイ感じの男 である。鼻の頭を真っ赤にしながら、小指をピッと立ててみせる。 「ヘッ、お前になびく女がそんなにいるわきゃねーだろ。ゴブリンやオーガのメスってん ならわかるけどよ。なぁ、ボブ」 ボブと呼ばれた大男は一瞬ムッとした表情になるが、毎度のことなのかさして腹を立て る様子もなく、テーブルの向かいのやや年若の相棒に教え諭すように声のトーンを低めて 言う。 「まぁ聞けや、ディック。 オレもあちこち渡り歩いて、数多くの女を泣かせたこともあったがよ。オレはその度に あと腐れがねェように、テメェでケリつけてきたつもりだ。 浮気ってなぁ、男の甲斐性だ。だが、しこりを残すのはいけねェや、なぁ、ディック。 男と女の出会いにもいろいろあらぁな。 激しく燃え上がる恋、一夜限りの甘く切ない想い出・・・。そして出会いがあれば別れ がある。どーせ別れるんなら、サッパリした気持ちで別れてェじゃねェか。オメェもそう 思うだろ!?」 段々と声のテンションが増してきたことに懸念をいだきつつも、ホラ、またいつもの悪 いクセが始まったと言わんばかり、ディックはお愛想で軽く首を振ってやる。 「そうっか! オメェもそう思うか! そーだろー、そーだろーともよ。なんせ、このオレが言ってんだからまちがいあんめェ! かっかっかっかっ」 店内中に響きわたる大音声。 さすがのディックも額に冷汗を浮かべ、大男を鎮めにかかる。 が、もともと血のめぐりの悪い大男、酒という強い友を得た今、恐れるものなど何もな い・・・いや、少なくとも、この時点ではそうであったろう。 「なぁ・・・なぁ、ボブよぉ。もうこのヘンにして出ねェか? ・・・ホラ、早く次の町へこの荷物とどけなきゃなんねェしよぉ」 どうやらこの二人、荷物運搬業者か何かを営んでいるらしい。 しかし、そう言ってディックがさし示した荷物とは、さして大きくもない木箱ただ一つ きりだった。 大男は鼻先で笑いとばすと、とうとうと説教の続きを垂れはじめた。 「男がいちいち、そんなこまけーコト気にしててどーする!? 男ってのはだなぁ、いつ だってこーして、デンとかまえてりゃあいいんだ。 ちったぁ、オレをみならえ! ああん!? ・・・だいたい二十歳かそこらのまだケツの青いガキが、そこいら中の女に手ェ出しま くってるたぁ、どーゆーこった!? ガキはガキらしく、ウチでおとなしくしてりゃあい いんだ」 さてさて、誰のコトを言っているのやら。 「ま、確かに最近の若ェ男は、軟弱でロクなのいやしねェがよ。何も男だけが変わったん じゃねェやな。 近頃じゃあ、女だってずいぶんとナマイキな口たたくようになったじゃねェかい。女の クセに似合わねェ武器ブラさげてよぉ、真っ昼間からギャアギャア大声で喚いてたんじゃ あ・・・ま、この世界中どーこ探したってヨメのもらい手なんざ、いやしねェってもんだ!」 じゃあ、真っ昼間から酒かっくらって、さんざんに喚きたてているアンタはいったい・ ・・!? 「そもそも最近の親が、娘を大切に育てねェのが原因だな。 聞いたかよ、ええ!? あんの小っこいのが、『あばずれ』だの『売女』だのとぬかし やがる。 いったい、どんな環境で育てられてきたんだか、親の顔が見てェってもんだ! かっかっかっかっ・・・へ?」 この時になってはじめて、大男は気がついた。 テーブルの向こうでイスから半分ズリ落ち、恐怖を顔に張りつかせながらこちらを指さ している相棒の姿と―――― その視線の先で、ムクムクとふくれあがる殺気に。 「純情青年キィィィック!!」 「眉目秀麗・箱入り娘疾風斬りっ!!」 「超絶美少女勧善超悪迅雷波っ!!」 「ほげどべめごぎでおぐわぁっ!!」 いっせいに3人の強力な超必殺技をくらい、大男はあたりのイスやテーブルをまき込ん でいきおいよくフッ飛ばされる。 相棒のディックはと言えば、いち早く危険を察してちゃっかり安全圏内へと待避してい る。なかなか抜け目のない男である。 しかし、さすがにタフなだけが取り柄の大男、あれだけの凄まじい攻撃を受けながらも、 粉々になったテーブルやイスの残骸をはね退け、上体を起こそうとする。 と、その頭上に凶々しいまでの気をはらんだ3つの影が覆いかぶさる。 「オ、オメェらは・・・!!」 大男の酔顔が、みごとなまでに蒼白く変色していく。 「やい、こらっ! 誰が『ケツの青いガキ』で、『そこいら中の女に手ェ出しまくってる』ってぇ!?」 「へ? い、いや、そのー・・・」 「そんなコトより、あたしが『ヨメのもらい手がない』なんて暴言を今すぐ撤回してよね っ!!」 「あ・・・、あ・・・あのー・・・」 「それこそ、どーだっていいコトよ。 そ・れ・よ・り・も! この稀代の天才魔導士にむかって、よくも言いたいほーだい言 ってくれたわね。この心の痛み、あなたの命であがなってもらうわよっ!」 「・・・・・・」 顔面を引きつらせたまま、テーブル・イス・皿・コップその他もろもろの破片の山を、 にじり、にじりっと後退る大男。 「ものども・・・」 低く押えた口調で、ラトクが横の2人を促す。 「やっちめぇぇっ!!」 「おお――――っ!!」 元気よく腕なんぞ振り上げながら、腹を空かせた3頭の猛獣がエモノにいっせいに襲い かかる! 「ぎぃやぁぁあぁぁあぁぁ――――っ!!」 かくして―――― 大男の身も世もない絶叫が、果てることなくメシ屋の狭い店内を震わせ続けた。 たたかい(?)済んで日が暮れて。 ようやく西の空が赤みを帯びはじめた頃――― ラトクが大男の6本目の歯をへし折り、テスが最後の1本の髪の毛を引きむしり、少女 がいい加減、足のウラをこそばすのに飽きてくるに至って、ようやくその惨劇は終焉を迎 えた。 大男はいつの間にやら、白目を剥いて気を失っている。当然、店には他の客の姿などな く、残っている者と言えば―――― 「・・・お、お前ら、なにもそこまで・・・」 キッ!! いまだ興奮から冷めやらぬ血に飢えた6つの鋭い眼光が、ディックをぐっさりと射抜く。 「ひぃぃぃやぁぁぁっ!! オ、オレ・・・いや、私はただ、そのー・・・ あぁぁぁっ!!」 慌ててとり繕おうとしたディックの目に、とんでもないモノが映った。 四肢をぴくぴくケイレンさせながら床に長々と横たわる大男、その背中の下にあるのは ―――― 「ああああああっ!! だ、大事な荷物がぁぁぁっ!!」 ディックが身をよじって悲鳴を上げる。 「何よっ、文句があんのっ!? 何ならあなたもその箱のよーに、ギッタンギッタンのグ ッチャグチャにしてあげてもいーのよっ!!」 「お前ら・・・これが何だか知ってるのかっ!?」 眼前の恐怖以上に何かに怯えた様子で、震えながらに言うディック。 「知るわきゃないでしょ、そんなもん!」 「・・・い、いや、まぁ、そりゃあそうでしょうけど・・・。 と、とにかくっ! 聞いて驚くなっ! この箱の中身は・・・あのケフロス大先生のクスリだったんだぞっ!」 「それが何だってーのよっ!? ワケわかんないことゴチャゴチャ言ってると・・・」 「ちょっと待て!」 猛然とくってかかろうとするテスを、何か思い当たるフシでもあったのか、ラトクが慌 てて話に割って入る。 「何よ、いきなり・・・。こんなナマイキなやつ、さっさと・・・」 「いいから、ちょっと待ってくれっ! いま言ったケフロスって、あのマウティーゼ・アベルスグレン・デュ・ケフロス、別名 MAD“ドクター”ケフロスのことか!?」 「フッ、さすがに知ってるようだな。 ・・・その通り! これらはあの偏屈で意固地でヘソ曲がりな、Most Abnor mal and Dangerous“ドクター”ケフロスのじーさんが、よーやっと重 い腰を上げてこさえた“作品”の数々だったんだ。それを、それを・・・うううっ」 ディックはとうとう泣き出してしまった。 さっぱり事情の呑み込めないテスと少女は、怪訝な表情で互いの顔を見合わせるばかり。 「ねぇ、ラトクさん。誰なの? その、ケフ・・・何とかってヒト・・・」 「オレも最近知ったばかりなんだけど、かなり高名な薬剤師らしい。先生の調合した薬を 飲めば、死人すらよみがえるとウワサされている。 ・・・ただ、性格的にちょっとモンダイのある人物のようだが・・・」 そう言って、ラトクはチラとディックの方に哀れげな視線を落とす。 「・・・ホ、ホントはこんな仕事うけたくなかったんだ・・・。もし、道中で何かあった 場合、オレたちじゃあ一生かかって働いたって払えねェような金額ふっかけてくるに決ま ってる。あのじーさんなら絶対そーする。誓ってもいい! ああ・・・、放っておいてもいずれこのコトはじーさんの耳に入る。そしたらオレは・ ・・オレたちは・・・ ひひひ、ひひへひゃ、ひ――――ひゃはっはっはっへひゃぁぁぁ――――っ!!」 思考が自分の行く末にまで及ぶに至って、とうとう彼のセンサイな脳ミソは強迫観念に 耐えられなくなったらしい。 かわいそうな男である。 「ともあれ、これはちょっと厄介なコトになったな・・・」 跡形もなく砕け散った木箱を見つめながら、ラトクはポソリと呟いた。 「なんでよ? もとはと言えばこの人たちが悪いんだし、黙ってれば・・・」 臆面もなく口にするテス。 「いや、そうもいかない。 ・・・実を言うと、オレはこれからそのケフロス先生に会いに行くところだったんだ」 「な、な、なんだとぉぉぉぅっ!?」 ラトクの言葉に、先刻からけたたましく絶叫を続けていたディックの肩が、ビクンと跳 ね上がる。 「ま、まさかお前、このコトをじーさんに言うつもりじゃ・・・言って自分だけ助かろう ってハラだな!? いや、きっとそうに違いねェ。オレにはわかるんだ! 頼むっ! 後生だから、それだけはカンベンしてくれっ! オレぁまだ死にたくねェん だぁぁぁ――――っ! ・・・オレはそんな、ドラゴンの巣穴へ薬草とりに行かされたり、千匹のイモ虫といっ しょにフロへ入れられるなんてヤだかんなっ! 誰が何と言おうと、ぜったいぜったい、 ずぅぇ――――ったいヤだかんな――――っ!!」 錯乱状態のディックは、ラトクの腕にひしとしがみついて泣きじゃくる。 ラトクは仕方ないな、というように肩をすくめると、ワザと軽い口調で声をかける。 「ま、そう悲観しないで。非はこっちにあるんだし、ケリはオレがつけておきますよ。大 丈夫、決してあなたがたの悪いようにはしませんから」 ――――さて、その言葉が彼に通じたものかどうか。 相変わらず、ディックはあさっての方向に視線をやって、ひひへひひゃはは、と耳障り な笑い声を立てていた。 「ねぇー、もう終わったぁ?」 間延びした少女の声が、どこからともなくラトクを呼んだ。 「終わったって・・・何が?」 ラトクもまた間の抜けた声で応じる。 どうやらこっちでゴタゴタもめている間、少女は被害を逃れたイスに腰掛け、他人の飲 みかけのジュースをすすっていたらしい。 少女は小さく溜息を吐くと、ひょいっとイスから跳び起きる。 「だ・か・ら、そっちのハナシよ。 ・・・詳しいコトはよくわかんないけど、私もそのあばずれ女が言うように、知らんフ リして逃げた方が賢明だと思うな。 ・・・余計な忠告だけど」 少女の言葉に気色ばんだテスがずいと一歩踏み出すが、ラトクがそれを制する。 「忠告には感謝するよ。 ・・・だけど、それはできない。あの薬を心待ちにしてた人たちのことも考えるとね。 それに、これはオレ自身の問題でもあるんだ」 「ふぅ――――ん」 何やら意味ありげな笑みを浮かべて、少女はくるりとラトクに背を向ける。 「? どうした、続を始めるんじゃないのかい?」 「やめたわ」 振り返りもせず、少女はあっさりと言う。 「やめた?」 「そう、やめた。・・・悔しいけど、フレイさんのことは諦めるわ。 ・・・ただしっ!」 そこでクルッと後ろを向くと、右手の人さし指でラトクをさす。 「もしフレイさんを不幸にするようなコトがあったりしたら、その時はこの私が絶対黙っ ちゃいないからねっ!」 いたずらっぽく微笑むと、少女は店の扉を勢いよく押し開いて、早や夕陽の沈みかけた 西の山の端を見上げる。 「ん――――、明日も天気になるといいなっ」 扉に手をかけたまま眩しそうに夕空を仰ぐ少女の後ろ姿に、ラトクが遠慮がちに声をか ける。 「・・・あのさ、最後にキミの名前を教えてもらえないかな?」 「ん? 私の名前?」 真っ赤な夕焼けの中に、小っちゃなシルエットがふわりと浮かんだ。 「ミリアム・・・ミリアム・スィート。 ミリーって覚えといて☆」 「さってと、オレもそろそろ行かなきゃな」 ごく簡単に店内を片付け終えると、ラトクは荷物をひょいっと担ぎ上げた。 「ねぇ、ホントに行くの? やっぱ関わり合いにならない方が・・・」 「さっきも言ったろ? これはオレ自身の問題なんだ」 はぁっと一息吐いて、テスはさらに言いつのる。 「ねぇ、あたしも付いてっていい?」 「ダメだよ、キミはお父さんのおつかいでココに来てるんだろ? ・・・それに、あんまりお父さんを心配させるんじゃないよ」 逆にやり込められて、テスがちろっと舌を出す。 「ちぇっ、やぶヘビかぁ。 ・・・でも、ラトクさんならきっとそう言うと思ってた」 そうして二人は肩を並べるようにして店を出た。 外はもうすっかり陽が落ちている。ちょっと厄介な旅になりそうだ。 「じゃ、オレはこれで。キミはもう一晩泊まっていくんだろ?」 「・・・そうね、そうするしかないわね。女のコの夜の一人歩きはキケンだもんね。 ・・・ところで、ラトクさん?」 テスが意地悪そうな瞳をラトクに向ける。 「ん?」 「フレイさんって・・・かわいいコ?」 「@§◎☆〒♀$~~~~!! ・・・ま、まぁそりゃあ確かに・・・って、もうっ! どーだっていーだろ! じゃ、 オレはもう行くから!」 照れ隠しに大股で歩き始めたラトクの背に、テスが大きな声で呼びかける。 「それ聞いて安心した――――っ! だぁって、初めて名前聞いた時、フレイさんって、男の人かと思ったんだもの―――― っ!!」 ずぅるばべしゃぁぁぁっ☆ 負けるなラトク! がんばれラトク! 朝陽がキミを待っている! ・・・のだろーか・・・!? (りとる☆ちぇいさぁ:おわり) by いずみ まさと 1993. 3.17 ※上記の内容の一部あるいは全部を、著作権者の許諾を得ずに複写・転載することは禁じ られています。 (C)1993 株式会社マイクロキャビン