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悪魔のZ
~涙に濡れた油圧ジャッキ~
その日は朝から1日中雨だった。
見てないTVの音声からは大雨警報がなんたら…とかが聞こえる。
うっとおしい天気だ。こんな日にZは似合わない。
会社の四駆で帰って来ればよかったかな…なんて事もふと思う。
この日仕事が終わった後、彼女と食事に行く約束は以前からの予定だ。
”コレも仕事の内か…”なんて思ったとか思わないとか。
目的地の彼女の家までは、車で約5分あれば十分に到着する距離。
最短ルートはあるのだが、信号のタイミングの関係上からいつもとは違うルートを使用した。
若干、距離は長いが時間を優先した場合こっちのルートの方が早い。
もう、何十回と通った事のある裏道だ。
”目をつぶったって走れるぜ!”
そんなジョークもつい口から出るほどに。
裏通りの為、PM/7:00頃にも関わらず、外灯が少ないから視界が悪い。
Zから照射されるプロジェクターランプの配光の悪さはZオーナーの間では有名な話しだ。
視界の悪さは当然、雨も手伝っていた。
所々に橋が架かっている川沿いの1本道を行く。
車幅は車どうしのすれ違いがキツイぐらいか。
ゆっくりと徐行していると、1台の1BOXが橋を渡ってきた。
このままでは当然ぶつかる。
遮る建物などはなかったので、お互いの車は事前に十分確認できていた。
スピードもお互い出ていない。
カチ会う交差点に進入するのは相手が若干早かっただろうか。
しかしこちらの方が優先道路なのは車幅から見ても一目瞭然。
こちらには明記されていない、一旦停止サインも相手側には付いている。
優先の私は何事もないかの様に通過しようとした瞬間、
そいつまで何事もなかったように交差点に進入。そして左折。
キツめのブレーキを踏まされ、しばしぼーぜん。
あの~私の事など
Out of 眼中ですか?
「プチッ」
私の0.5Aのヒューズが飛ぶ。
ワァレェーー!コォラァーー!
ケツの○○から手ぇツッ込んで
奥歯ガタガタ言わしたろかぁぁ!
あぁぁん!!!
(よい子のみんなはマネしちゃダメだぞっっ)
猛烈に追いかけるも、すぐにT路地に突きあたる。
この道はけっこう広く、片側2車線の計4車線ある。
(余談だがこのT路地に犬吉がある。<電動歯ブラシのススメ>参照)
中央分離帯には縁石に囲まれた木々が植えられており
丁度、突き当たりには分離帯の切れ目がある。
信号はないが右折・左折の両方が可能だ。
彼女の家にに向かうならば右折だった。
”こいつが右に曲がったらカウンターアタックをしかけるぜ!”
前車の車体が右に寄って行く。
ヨシ来た!右かぁぁぁぁぁぁ!!!
Zも若干右へ寄せる。T路地にさしかかったその時、
1BOXは右へフェイントを入れて左折し、見事に逃げられた。
クソー!とか思いながらテールランプを目で追う。
しかたがない。右折しようとした道路の真ん中を横切った瞬間、
「ドガン!」
の音と共に右フロントに衝撃が走り、私とZは
夜空を飛んだ。
メーテルゥゥゥゥゥゥーーーー!
鉄郎ぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!
一瞬何が起こったのか把握出来なかったが、
どうやら縁石に乗り上げて飛んだようだ。
見事にK点を超えを達成し、着地も見事に成功。
(よそ見+雨の視界)×縁石=飛べる
らしい。
「あ~ビックリした。」
さすがに動揺したが、2秒で平常心を取り戻す。
いくつもの修羅場をくぐってきた私はこれぐらいでは取り乱さない。
その辺のガキンチョと同じと思ってもらっては困るな。
とりあえず彼女の家に向かうのが最優先。
着地地点から15m先の信号を左折すればもうすぐだ。
車体が若干右に傾いている気がしないこともないが、
気づかなかった事にする。
左車線に車を寄せようとするドライバーの意志に反抗するかの如く
車は右の中央分離帯に
勝手に吸い込まれていく。
必死にハンドルを左に切り、強引に左折が出来た。
この時点で車体は完全に傾いている。
右フロントタイヤがパンクしている事実を
そろそろ認めなくてはならないか。
ガギゴガギギガゴと音を出しながら何とか彼女の家に到着。
「パンク修理手伝って」
「ハァ??」
またもや状況が把握して頂けないようだ。
家を出てからこの5分間にあった出来事を説明し、
とりあえずパンク修理を開始する事に。
”備えあれば憂いなし。”
この日ほどこの言葉を実感した日は無い。
こんな事(?)もあろうかと、以前にオート○ックスにで購入し、
常に車に積んでいた2t油圧ジャッキを取り出す。
車載のアルミ製ジャッキを使ってもよかったが、外は雨。
あんなの手でいちいちクルクル回してる暇などない。
この段取りの良さに彼女のハートもオーバーレブ。
冷たく感じるのは視線ではなく雨だろう。
( いっちょイイ所をみせるか! )
女の子はこういったチェーン脱着やタイヤ交換中の男の子の姿にグッとくる…
そんな記事を思い出す。
油圧ジャッキを準備し、車体下にツッ込……
…めませんが何か?
おそるべしZ。自慢のワイド&ローの車体が憎たらしい。
ただでさえ車高の低いZ。パンクでさらに車高ダウン。
低い車高にでかい油圧ジャッキ。
どう考えても
入らない。
んでもって、油圧ジャッキの
意味を問いたい。
さらに冷たく感じる視線と雨を背中に感じ、結局は車載ジャッキを取り出す。
クルクルクル…。
クルクルクル…。
俺 「いや~さすがはZ!
アルミジャッキは軽くていいねぇ~~!」
彼女「お前はアホか!!」
濡れた体に浴びせる罵声。
泣くのには十分だった。
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