NEW TYPE ROLE PLAYING GAME
サバッシュ
対応機種 : SHARP X68000シリーズ
メディア : 5inch 2HD (3枚)
定価 : 8,800円 (税別)
発売日 : 1989年7月28日(5月上旬→6月中旬→7月中旬発売予定から延期)
開発 : グローディア
販売元 : 小学館/ポプコムソフト
GALLERY
PROMO WORD
何よりも、楽しめるRPGをっ!
との思いで、ポプコム編集部が総力を注ぎ込んだ超大河RPG。
満を持して、堂々の登場なのである。
魔王ダルグに襲われたトマの村。たったひとり生き残ったマーディは、復讐を神に誓った。
遊神プートスの助けを借りて旅立った、マーディと四人の仲間たち。剣の達人カーラマン、巨漢闘士グレッシ、俊足ランナーのビリンチ、そして魔法使いの娘サージ。
対するダルグは大軍勢をもってマーディを迎え撃つ。マーディたちを支えるのは、五人の強固なきずなのみ。
いま、サバッシュ(戦い)の旅は始まる!
ディスク二枚に、一五、〇〇〇画面分のマップを凝縮!一五万字分の会話データ、登場キャラ一二〇余りという超スペック。八方向スクロールのなめらかさも特筆もの。戦いの旅は、果てしなく続くのだ!
シミュレーションゲーム風の戦闘モード。プレイヤー側のキャラ、モンスターとも独自の思考ルーチンを持ち、11×11(121)マスのバトルフィールドをかけめぐる。
きめ細かな人物・状況設定、ゲームの進行にそって生起するさまざまなイベント。ストーリー重視のプレイヤーも大満足まちがいなしのシナリオ。これは、愛と勇気のRPGだ。
サバッシュ X68000版 について
サバッシュ(ZAVAS)は グローディア が NEC PC-8801mkⅡSR以降用として開発し 1988年10月(8月20日から延期)にポプコムソフト(小学館)から発売されたロールプレイングゲーム。ゲームデザイン・脚本は落語家の 三遊亭圓丈(さんゆうていえんじょう、1944年12月10日 - 2021年11月30日)さんが担当。プログラムは 池亀治(いけがめおさむ)さんが担当した。
SHARP X68000 版は移植作として、およそ1年後の1989年7月28日に発売された。X68000 版のプログラマーは 桑田浩之(くわたひろゆき)さん。パッケージデザインが一新され、表面のキャラクターは漫画家の 南辰真(みなみたつま)さんが描いている。(マニュアル内のイラストは PC-8801mkⅡSR以降版から同氏)
グローディア躍進の魁となったのはこのサバッシュだろう。次作となる エメラルドドラゴンの基礎になったゲームともいえるだろう。
原作として、三遊亭円丈さん(自称 元祖ゲーマー)を採用し、ゲーム内容はコミカルな部分があるもののストーリーは至って真面目に作成されている。しかし、ゲーム製作の8割が進行した段階で喧嘩別れし、最後のシナリオに関してはプログラマーの池亀氏を含む2人で製作された。また、キャラクターデザインはゲーム中に使用されている木村明広氏のイメージが強いが、マニュアル内のモンスターイラストは柳柊二さん(2003年没)、キャラクターイラストは南辰真さんだった。木村さん、南さんともにPCゲーム雑誌ポプコムとの繋がりが深い人物だった。
ゲームはかなり良くできているのだが、最大の問題があった。それは発売元が小学館だったことだろう。他のライバル雑誌で大きく取り上げるわけにもいかず、ポプコム内だけでの告知となった。また、ポプコムでは常に売上上位にサバッシュが含まれており、ヤラセ感もあり却って敬遠される要素にもなった。パソコンサンデーで1988年度下半期売上ベスト5を出させたときでもポプコムだけはサバッシュが1位になっていたのだ。この時期は基本的にイースⅡがベスト1位であり、山下章さんもやんわりとフォローしていたが、明らかに誰が見てもおかしいことは確かだった。ただし、それでも2万本は売れたというのだから優秀作であることは間違いないだろう。
ゲームシステムは、完全お使い型のロールプレイングゲームだ。小さなイベントが数多く存在し、いつになったら終わりを迎えるのか先の読めないゲームだった。
マップはフィールド面、ダンジョン面を合わせるとかなり広い。おおまかにまとめると大陸は2つ。「アランパルチャ大陸」「ドルゲスタン大陸」に分けられ、地方は「ファルガナ地方」「マラメイヤ地方」「ホークンモラー地方」「アルフール地方」「南ドルゲスタン地方」「北ドルゲスタン地方」の6つに分けられた。ただ、周りでも頻発していたのが、延々と同じ事の繰り返しに感じ物語の全容が全く掴めないところで飽きて投げ出してしまうことだろう。コミュニケーションの一つとしても、どこまで進んだかなどの話が行いづらく話のネタにもなりづらかった。
進行中に面倒なのがCTM(満足度)というパラメーターだ。キャンプの時に分け前や食料が無いと数値が下がり、戦闘時になまけたりする。チップを上げれば多少解消できるものの、基本食料などは常備が原則になってしまう。戦略的なパラメーターなら意味もあるのだろうが、これだけはゲームの進行を妨げるだけのものだった。当然、稼いだ金も全額自分の物にならずおよそ50%が自分の取り分となるという世知がない内容だった。当然、分配するまではお金も自由に使えないので、序盤は特に苦しめられる事になった。ただし、ユニークな点として仲間にビリンチがいれば、街に行かずともフードアイテム類を買い出しに行かせることができた。(ただし、なかなか帰ってこない。)また、次のアイテムがあればパラメータは下がらなかった。ピアス、ブレスレット、ネックレス、シルバーリング、アクアマリン、婚約指輪、ガントレット、ドラゴングリーブ、シップ・イン・ボトル、ディオニソスの酒、ファイターリヴェンジ、テスタメント、以上の12種だ。おおよそアイテム名から、どのキャラクターに相応しいか見当が付くだろう。
戦闘は基本的にオートバトルで、一応攻撃対象を選択することもできた。パット見ただけではエメラルドドラゴンとの違いも分からないだろう。効果音も含めて殆どが共通になっているため、特に同じ印象を受けやすい。オートバトルゆえ、固有の魔法の名前と効果を覚えたりといった面倒さは無く、とりあえず適当にボタンを叩いていればいいので楽だ。経験値を稼ぎたい時にはテレビでも見ながら適当にボタンさえ押していればよかった。
ただ、この戦闘と進行の連続が主でビジュアルシーンもない上にストーリー展開は無いに等しく盛り上がりに欠けたのが唯一の難点だった。ただし、ゲームらしいゲームといえるだろう。ベスト1は無くとも'88年の下半期ベスト5には入れてあげたい作品だった。
X68000へ移植されるにあたっては大幅なグラフィックの向上が挙げられるが、音楽面でも大幅なグレードアップを果たしている。全ての曲に新たなパートを追加しており、サバッシュの完成形といえるだろう。
特に音色の練り込みは凄まじく原曲のイメージを損なうことなく非常に澄んだ音を出している。こんな音が出せるのか!と当時最も驚いた作品だった。「ファルガナ地方」はその内の1曲でもあり非常に洗練された出来栄えに仕上がっている。
全曲、オリジナルのPC-8801mkⅡSR版よりキーが上がっているもののブラスの音色はボリュームつまみを真ん中あたりにしておかないと音が割れてしまうほどの分厚さだった。リズム関係はADPCMの同期演奏を行なっていないが、専用に新しく練り直された音が上手くマッチしている。また、X68000らしくステレオを効果的に使っているのも素晴らしい。
エメラルドドラゴンのような鳴きが入ったり、奮い立たせるような曲は少なかったが全ての曲の完成度が高かった。特に「アルフールの大要塞」や「ドラゴン小国」などエレキーギターのちょっとしたテクニックは逆にサバッシュのほうがレベルが高かった。また、最後のエンディング曲はシナリオと絡めてすっきりした曲で上手く纏めていた。
ストーリー
序章────時の始まり
その昔、大気と大地と水との区別のない頃。すべてが渾然として一体となり、宇宙の子どもは時代は、あるひとつの意識体として存在していた。世界、といったものもなく、ただひとつの存在だ。
あるとき、ひとつのものが他から分かれ、以来、すべてが分かれ、これと、それが区別できるようになった。だが、それを認識するものはいない。
永遠に近い歳月が流れ、大地と名づけられた土台の上に、人間が現れる。それまでに栄えた、巨大な竜族にとってかわって地上を治めることになる人間が出現したのだ。
人間たちは、あるときは協力し、外敵から身を守り、あるときにはおたがいに争い、といったことをくり返し、その歴史を作っている。その中で、神とは、いったいどんな存在なのであろうか。人類は常に神とともに生きてきた。この物語、『サバッシュ』にも、神というものが存在する。この物語は、神と人との物語といえる。
まずは、この世界の神話に目を通しておこう。
昔、世界に戦乱の絶えなかった頃。1人の子どもが生まれた。モラと名づけられたその子どもは、他の赤ん坊とは一見して大きなちがいがあった。まず、その大きさ。モラは、生まれたときには、大人の指1本ほどしかなかった。モラは、母親の乳を吸うことはなかった。何も食べぬまま、モラは成長していった。その成長もおそく、ようやくモラが、ふつうの赤ん坊と同じほどになるまでに、その母親と父親、そしてすべての兄弟がすでにその生命をまっとうしていた。
モラは、しかし常に周囲の人々に大切に育てられた。どんなときにも、最も大事にされた。それは、この子どもが将来、特別な人間になるだろうと期待されたためでもあるが、もうひとつには、この子どもが持つ不思議な能力に負うところもあった。この子どもは言葉は話さなかったが、人の心の中に語りかけ、人の心を読むことができた。人々は、この子どもの欲していることをしたいと願った。どんな人も、この子どもをにくむことはできなかった。
この子どもが成長していくうちに、不思議なことがわかってきた。その子どもの父親から数えて、5代も生まれては死んでいったが、その子どもは、まだ5歳にも達していないように見えた。不思議なことというのは、その子どもの重さが、少しもふえていないことであった。食べ物を口にせず、何も体からは出すこともなく、遅々たる成長ではあったが、その子どもは生きていた。それにもかかわらず、重さがふえないのである。重さがあるのかどうかも、その頃の人々にはわからなかったほどである。
モラの育つ部族は、となりの部族と常に抗争をくり返し、ときに勢力のある他の部族の侵略にも耐えていた。ダマイの部族の侵略はし烈を極め、モラの育つ部族は村を守ることがついにできなくなった。モラを中央にすえた部族の集まりで、翌日ダマイの攻撃で、ついに、この村も最期を迎えるのだ、と長老が残り少ない部族の者に語っていた。この頃にはすでに、数々の不思議な行い──モラの家の前に見たこともないようなりっぱな馬が3頭やって来たり、この世の鳥という鳥がモラの家に集まってきたり、といった──を通じてモラに不思議な力を見い出していた部族の者は、その場でモラに視線を集中し、ことばには出さずに、モラにこの危機から救い出してほしい、と願った。
眠られぬ夜を過ごし、翌朝を迎えた村人たちは、最期の戦いの準備をして、ダマイの攻撃を待った。だがダマイは、ついにやってこなかった。長老たちがおそるおそる、ダマイの陣に向かうと、そこにはたき火の跡と、食べ物のカスだけあった。なぜかはわからぬが、ダマイはこの朝を最後に、この村に近づくことはなかった。
人々は、モラの持つ不思議な力を魔力と名づけた。初めて、火を発見した人類のように、人々は、その魔力を喜んだ。
モラの部族は、モラの魔力を利用した。
初めは、村が危機に襲われたり、部族の娘が病にたおれたりしたときにしか使われなかった魔力は、しだいに、他の部族を攻めるための道具として使われるようになった。
こうなると、ものごとは加速度的に進むしかない。誰もが、モラの部族のものも、その他の部族のものも、モラの魔力を利用したがったのだ。モラの身柄は転々とした。そして様々な人々の願いを実現することになった。その結果は……。戦乱は、モラの力により、過激さを増し、この世界には、わずかな人々だけが残ることになった。モラの力は、ときには一部族をまたたく間に消滅させたりもした。ときには、地上を炎熱の地獄に変えさせもした。それでも、まだモラの力を使おうとするものは後を絶たなかった。
モラは、誰の願いもひとしく実現していたが、誰の目にも明らかな変化がモラに起こりつつあった。成長が速まったのである。生まれてから、200年もたって、やっと5歳ぐらいになったというのに、人々がモラに願いごとをすることが多くなるにつれて、モラの成長は速まっていったのである。もうひとつの変化も、これはごく少数の人にしかわからなかったが、起きていた。それはモラの顔に、少しだけ邪悪さが見えるようになったことである。
500年の歳月のあと、モラは成人しかけていたが、突如地上から姿を消した。その場に居合わせたと言い張る者の中には、光り輝く少女が、彼を連れて天界に向かった、とか、モラは1人で浮きあがり、そのまままっすぐ上昇を続けて、ついには消えてしまった、とかいう者もいたが、実際に何が起こったのかは誰も知らない、といってよかった。
だが、モラは、その後も存在した。どこかにいるモラに向かって心を通わす術を身につけた人間が現れた。彼は、マニと呼ばれ、その力を利用し、この世界全土に君臨した。
マニは、国王というものの分類に従えば暴君といえる。全世界に圧政をしき、すべてをわがものとしていた。
マニの子は、マニからモラの力を利用する術を学び、またその子に伝えた。こうして、何代にもわたる、マニ王朝は栄えた。そして、マニ王朝の20代目。ソクリ・マニという王は、それまでどの王よりも、モラの力を多く利用することができた。彼は、ついに、マニ家最大の願望をなしとげた王として名を留める。マニ家最大の願望とは、天界に昇り、モラと会うこと。そして、モラの力を奪うことであった。だが、ソクリ・マニは、モラの力を奪うことはしなかったという。ソクリは、確かにモラと合ったとされる。そして、そのまま帰ってきた。
ソクリ・マニの子は、オル・マニと呼ばれた。オルは、父のソクリにもましてモラの力を自由に使えた。彼は父から、モラの命がもうわずかしかない、ということだけ聞いて新たに王位についた。
50歳を起えたオルは、自らの死が確実に近づいているのを感じていた。この世の中で、どんなに栄華を極めても、死だけはさけられない。彼は、父と同じように、天界に向かうことを思いついた。彼は妃を連れ、天界に向かい、2度と戻ってこなかった。
そのようないきさつがあったかはわからないが、とにかくオルは天界に昇り、永遠の生命を得、天界から地上を支配することになったのだ。人々は、オルに最高という意味のことばをつけて、オルムズトと呼びならわした。
こうして、この世界には地上の王はいなくなった。
第1章────旅の仲間
雨足が強くなってきた。ぬかるんだ道はすべりやすくなっていて、何度もすべり落ちそうになる。だが、寒いとか疲れたといった感覚はみじんもない。怒りがすべての感覚を麻痺させていた。あの村を出て、もう2日も何も食べていない。寝たこともない。だが体も心も疲れを感じたことはなかった。道は暗く、うねうねと曲がりながら、ときになだらかに、ときに急角度に、上り坂になっている。そろそろ休まなくてはいけない。マーディは思っていた。怒りにまかせてこのアトス山の路肩に死体をさらすようなことは、あってはいけないことだった。もちろん、すでに命を惜しむ気持ちはない。ただ、犬死にしたくなかっただけだ。マーディの命は、2日前に絶えた。トマの村に置いてきた。父と母と、2人の姉、そして村の人々の死体といっしょに。アトス山の頂に僧院があるという話を聞いたことがある。早く、そこにたどり着き、軒を借りて寝なくてはいけない。眠さはなかったが、体力はすでに限界をこえてしまっているはずだった。
2日前。それは、マーディの村トマの祭りの日だった。娘たち、もちろんマーディの2人の姉、18のミナと、もうすぐ20歳になる、そして2週間後には、テマと婚礼をあげることになっていたラーナたちは美しく着飾り、長老たちも、ふだんのいかめしい顔つきをはずして、にこやかに浮かれさわいでいた。収穫を祝う祭り、この貧しい村では、年に1度の晴れの日だった。空もこの祭りを祝っているのか、雲のはけを数本はいただけの、まぶしいような青さ。村の広場に集まった人々は、この祭りの楽しさは、ひとつもとりこぼさないようにと、はしゃぎまくっていた。マーディも、もちろん16歳の少年として、年に1度の祭りを楽しんでいた。まだ、もちろん酒は許してもらえないが、それに似たものをふるまわれて、多少気分が悪くなっていた。それで、教会の建物の屋根に上って、ここちよい秋の日ざしと空気を味わっていたわけだ。屋根は、さほど広くはないが、大人が2人横たわるぐらいの場所はあった。まして、16歳のマーディが1人なら、ちょうどここちよい広さ、というやつだ。少しまどろみかけた。そのときだった。娘や、長老、そして、子どもたちの叫び声。騎馬の音。家畜たちの恐怖に満ちたいななき、そして野太い、戦士たちの、意味のつかめないかけ声。マーディは屋根から身をのり出して下をのぞいた。魔王の軍団か。黒い乗り物獣に乗った戦士3人が、まだ息のある者はいないかと、道端に横たわった人々にもう一度剣を突き刺してまわっている。しばらくして、彼らは立ち去った。マーディは身動きできぬまま、流れ出る汗にまみれていた。襲撃は終わったのだ。村にたくわえてあった食糧、それからおのおのの家にあるわずかなばかりの金を奪って。騎兵たちの姿が見えなくなって、マーディはようやく、体を動かせるようになった。そのときになって初めて、多分死をまぬがれてはいないであろう、家族のことに思い当たった。ひどい話かもしれないが、これが本当の話だ。マーディは、はしごを下りながら泣いた。大声で泣いた。そして、殺された人々を一人一人ならべていた。遊び仲間のラダのお母さん、長老のイシナ。まだ5歳になったばかりのユナ。ああ、みんな殺されてしまった。マーディは血にまみれ、涙にまみれ、そして汗にまみれながら死体をならべ終わった。2人の姉、そして、お父さんとお母さん、この4人は、いっしょにならべた。せめて、家族いっしょにしてあげたかった。ほかの家のものもなるべくそうしてあげた。ただ、顔がめちゃめちゃにされていて、誰だかわからない人もいた。マーディは、納屋に向かい、わらを両手にかかえてもどってきた。それを何度もくりかえし、全員の屍の上にかける。この作業が終わるころには、マーディの涙はすでにかれていて、妙に冷静になっていた。彼は、すべてのものから心を固く閉ざすことに成功したのだ。閉ざされた彼の心の扉に書かれていることば、それはZAVAS(サバッシュ。復讐の戦いを意味する)だった。彼は、わらに火をつけた。煙が立ちのぼり、肉が焼けるいやなにおいをかいだ。そうして、そのにおいを大きく吸いこんで、空を見上げた。すでに日はかたむいていたが、変わらぬ青い空に、煙が広がる。マーディの手には、彼らが奪いそこなった、ラーナの指輪がにぎりしめられていた。彼は、これから戦うために生きるのだと、感じていた。
アトス山の僧院には、長年修行を積んだ位の高い僧がいるという。魔王のことをきき出せるかもしれない。魔王がアランパルチャに異形の者たちを解き放ち、町の人々を襲ったりしているといううわさは聞いたことがある。だが、それはとなりの島のできごと、このドルゲスタンの島にまで、やって来ようとは思っていなかった。いったい魔王とは何なのか。それすら知らなかった。軒の下で、雨をしのぎ、マーディは寝入ろうとしている顔で、またこのことを考えていた。魔王とは何者だ。人間なのか、神なのか、なぜ悪業のかぎりをつくすのか。そして、たおす方法はあるのか……。
翌朝、目を覚ましたのは日の出のとき。最初の朝日がのぞいたときだった。体は疲れていたが意識ははっきりしている。門の前に立った。よごれてみすぼらしい自分の体を見やったがしかたがない。僧たちは、赤い衣をつけて、僧院の内外の掃除に余念がなかった。若い、まだ20歳にならないだろう、庭をはいている僧に声をかけた。
「失礼します。僧正さまに合わせていただけませんでしょうか」
若い僧は、マーディの顔と、血でよごれた服をけげんそうに見て、何の用で僧正さまに会いたいのかをたずねた。魔王のことで、と答えると、背を向けて、院内に入っていく。しばらくして、またさっきの若い僧がもどってきて、僧正さまはただいま病気でお会いできぬが副僧正さまが話を聞こうとおっしゃっているといった。その前に、院内の風呂を使うようすすめられた。服もありあわせのものだが、といってわたされた。
沐浴を終えて、副僧正さまの前にすわらされたマーディは、村が襲われたことを話した。そして、なんとか魔王をたおす方法はないものかとたずねた。そもそも魔王とは何なのか、とも。
「少年。そなたの話はわかった。魔王のうわさは聞いておったが、このドルゲスタンにまで現れたか」と副僧正は、目を細めて部屋の外──そこは小さな池になっていたが、その池の中には小さなほこらがしつらえられていた──のほうを見やった。「残念だが拙僧はそなたの疑問に答えてやれぬ。魔王のことは、わしらにも皆目わからぬ。ただ、このドルゲスタンとアランパルチャの土地にむかしからいた、ということだけじゃ。ことによると、この土地を造ったのは魔王なのかもしれん。このドルゲスタンと、アランパルチャが、外の世界から閉ざされてしまったことは知っていような」。マーディは知らなかった。とにかく、もともと、往来のはげしい村ではなかったのだ、トマという村は、僧正は、少しおどろいたが、すぐにこの世界の果て、というか終わりができてしまったことを知らせてくれた。それまで、船で往来していた地方からの船が来なくなった。こちらから外界に向かう船もことごとく、消息を絶った。アランパルチャに、魔物が出始めた1年前からのことだ。ちょうど、もっとむかしの人が考えていたように、海に終わりがあって、そこから滝のように水が落ちるようになってしまったのだと。
この世界がどうなっているのか。それはだいたいつかめてきた。だが、魔王のことは結局わからずじまいだった。マーディは、アランパルチャに向かう決心をした。そこに行けば、何かわかるかもしれない。砂漠を、森を、そして沼地を、彼は歩いた。日が昇ると歩き始め、日没に、星の下で眠る日々が続いた。そして10日目。──マーディは、森の木の根に横になっていた。夢を見た。いや、じつは夢ではなかったのだが。そして夢の中に1人の僧とも、仙人ともつかぬ老人が現れた。頭がはげ上がって、目はくるりと丸く、まゆが太い。もちろんまゆもヤギのようなひげもまっ白だ。彼が口を開くと、声はマーディの頭の中に響きわたる。
「魔王を探しているのはそなたか。魔王に合ってどうする」。マーディは、復讐するだけだと告げた。彼は、笑い転げ、おまえのような者に魔王をたおせるはずもないといった。
「聞け。魔王ダルグの力は絶大じゃ。もともと、魔王ダルグは、神王オルムズトさまとラクシュさまの間に生まれた、尊い血筋じゃ。じゃが、あるとき、父王をたおそうとして、この地の奥深く閉じこめられ、封印されたのじゃ。現在もなお、封印は解かれておらぬのだが、きゃつめの念の力は、やはり血のゆえか、おそろしく強いものじゃ。邪悪な心をもった魔物どもを支配下に入れ、各地で悪行を働かせている。彼らは、悪の力を、悪行を重ねることによってのばし、その力が魔王の封印を解くのを待っておるのじゃ。そのために、この地よりはなした。よそから、じゃま者が来ぬようにな。魔王は封印をはずしたら、真っ先にオルムズトさまを殺しに向かうはずじゃ。何百年も悪の力をためてきた魔王ダルグは、年老いた父王に勝てるかもしれん。そうなると、この世はおしまいじゃ」
老人は、こういうと、マーディの反応をうかがった。彼は、この話が本当だと思った。そして悪の神、魔王ダルグの強大さに思いをはせた。
「あなたは、いったい……」
マーディの声をさえぎるように老人が、
「わしの名はプートス。こう見えても、いちおう神のはしくれじゃ。そなたは魔王への復讐を誓った。だが、今のそなたのような者では、魔王の部下のいちばん弱いものと戰ってもすぐに殺されるだけじゃろうて。だが、どうしても魔王をたおしたくば、このわしが手助けできぬこともないぞよ」
マーディに否はなかった。何でもするからと、その老人、いや神に向かっていった。
「そなたに不死の体をあげよう。わしにできるのはそれだけじゃ。じゃが、もちろん不死の体があるだけでは、魔王はたおせない。そなた自身が手練の闘士になる必要がある。そうして、仲間も必要じゃ。そなたがどんなに強くなろうとも、ひとりでは魔王の軍団には立ち向かえまい。アランパルチャにはグレッシの血をひく者、これは体の大きな闘士の家系じゃ、それから、ジェラルディンの血をひく者、こっちは、俊敏に動きまわることのできる剣士の家系じゃ、そういう連中がうようよしているはず。まずは、そういうやからを仲間にするがよい。そうして、ずっと東に向かうと、ジャダという魔法使いが住んでおる。ジャダにわしのことを話すがよい。3人の娘のうち、どれかを貸してくれるはずじゃ。不思議な力をもった娘たちじゃ。魔王を探す旅で、なにかと役に立つじゃろうて。そなたは、不死の体がほしいか?」
マーディは、もちろん首を縦にふる。
「じゃが、よく考えよ。そなたに不死の体をあたえるのはいいのだが、そうなると、魔王をたおすまで、そなたの魂は生死をつかさどる神、ラモさまにお預けせにゃならんのだ。いわば魂を売り渡すわけじゃ。もし、魔王をたおせない場合は、そなた、生きながらにして死せるもの、すなわち魔の世界に入ることになるのじゃ。それでもよいかな……」
マーディは、もう一度首を縦にふった。次の瞬間、彼はものすごい気流に包まれていた。もはや、かの老人、プートスの姿はない。それどころか、この目で見ることができるのは、渦を巻く雲の流れだけだった……。
朝日をあびて、目を覚ましたマーディは、周囲を大勢の人がとり囲んでいるのに気づいた。みんなの目は好奇心に満ちている。マーディは自分の姿を見て、またおどろいた。革の胴着、鎖のついた腰当て、そしてずしりと重い剣。いっぱしの戦士の姿ではないか。マーディは昨夜の老人との会話を思い出していた。そう、ここがボージェントの町というのだろう。彼はもう一度、とり囲んでいる人たちを見まわした。なかに、いかにも力の強そうな男がいた。ここから私の冒険の旅が始まるのだ。サバッシュの旅が……。
登場人物
マーディ
いわずと知れた、このゲームの主人公キャラ。つまり、プレイヤーその人である。マーディ、というのは王家の血を引くもの、とされているが、このアランパルチャそのものには、すでに王というのは存在せず、いるのは各地域の豪族、領主のたぐいのみである。ではなぜ、彼が王家の血を引くものなのか?これは、ゲームを始めてのお楽しみである。ただ、あんまり深く考えなくてもいい。要するに、強力な意志をもった勇敢なキャラクターとだけ考えていただければけっこうである。体力、戦闘能力ともに中程度、バランスのとれたキャラである。魔法はいっさい使えない。
カーラマン
過去に勇名をはせた、ジェラルディン、というファイターの血をひく、剣のスペシャリストの家系の子。幼いころから道場に入り、家族と引きはなされて修行に専念している。道場はボージェントの町にあるが、ギャリバス兄弟のカーラマン狩りのおかげで、すっかり数が減り、残ったものも、地下にひそんでいる、ということである。戦闘の技は一級で、ジャンプ力もすぐれ、戦闘には欠かせないキャラだが、きまぐれ、わがまま、といった天才型に多く見られる欠点ももち合わせ、あつかいには多少の注意力と忍耐力が必要。大活躍のあとには、後方でひと休み、といったこともありうる。
グレッシ
土地のことばで、大食いを意味するタージ村の巨人闘士。月に数回行なわれるプロレスと相撲を合わせたような格闘技の大会に出場、賞金稼ぎに徹している。力もちで、素手でも強いが、ハンマーのほか、槍系の武器を得意とする。突進力にはすぐれるが小まわりは苦手。多少気の弱いところがあるが、おだてたり、なだめたりすれば、すぐその気になる。いいやつである。グレッシは、ほかにも、カベをこわす(ハンマー、ジャイアントハンマーで)という得意技があり、大半の砦は、カベをこわさないと進めなくなっているので、必然的に雇わざるをえないキャラとなっている。
ビリンチ
走るために生まれてきたベン・ジョンソンのような男たち、それがナーム村に住むビリンチである。とにかくナーム村でも朝から晩まで走りまくっていて、つかまえるのも大変なのである。勝手、いいかげん、アル中、無責任と、いろいろと難の多いキャラで、戦闘でもそう役に立つとは思えないが、いいところは足が速いということ。RPGでは、食料、薬といった日用品の管理が、けっこう頭を使うところで、いちいち街に買い物に行かないといけないのだが、このゲームではビリンチさえやとっておけば、これを使いに行かせることができる。帰ってこないこともあるにはあるが。
サージ
ジャダ3人娘・長女
シャフルナーズ
ジャダ3姉妹の長女。ひと言で評せば、見栄っぱりでわがまま。年も上なので、当然、最初からレベルが高いが、とにかくやきもきやきで、一度いい出したら、たとえ自分でまちがいと知っていても押し通す、といったタイプの女性である。そのかわり、3姉妹のなかでは一番のしっかり者でいざというときには気丈なところを見せ、グロテスクな敵にもひるまない。
宝石類を好むのは、3姉妹中一番。つねに装身具のたぐいをあたえ続けていないと、無愛想になったり、不きげんになる。プレゼントのほか、たまにはキャンプのさいにゆっくり話してあげるのも手である。
ジャダ3人娘・二女
ファラナーク
ジャダ3姉妹の二女。上と下に自己主張の強いのがいて、しかも両方しっかり者ときているので、当然真ん中は、すべて他人任せというか、すなおに人のいうことを聞くのに慣れている。その意味では性格はいいといえていて、こういうおとなしめの女の子が好きな人にはおすすめである。ただ、すべてがいい、というわけではなくて、気が弱い、ぐず、根性がない、という弱点も十分持ちあわせている。こちらを立てればあちらが立たず、というのが人の世のつねなのである。個人的には、J.D.としては、この娘がおすすめである。こういうおとなしい娘は、最近めずらしいのである。
ジャダ3人娘・三女
アルナワーズ
ジャダ3姉妹の末っ子。近所の悪ガキとばかり遊んでいたので、男の子のような性格になってしまった。まったく、女を感じさせない、といってもいい。年も若く、レベルは低い。だが根性と負けん気はだれにも負けず、後ろで治療の魔法をあやつるより、剣や弓を持って戦うのを好んだりする。よーく注意してないと、先頭にたって戦って、うっかり死にかねない。戦闘中魔女が死ぬと、形勢が圧倒的に不利になるので用心しすぎる、ということはない。サージは長い冒険の旅の伴侶になるキャラクターである。どうか慎重に選ぶことをおすすめする。その上で彼女を選ぶなら、ご自由に!
裏技の紹介
【ミュージックモード】
OPT2を押しながら起動する。
一部の曲はリストに入っていない。
【隠しメッセージ】
トリビア
TRACK LIST
ラジオ収録曲(FM音源)
音源チップ:YAMAHA YM2151(OPM)
01 IPL~サバッシュのテーマ
02 メイン・タイトル
03 ファルガナ地方
04 ファルガナ城
05 ショッピング
06 カルムの塔
07 カナートの財宝
08 アルフールの大要塞
09 マラメイヤ地方
10 悲劇のテーマ
11 ダルゾン帝国
12 ドルゲスタン大陸
13 トマ村
14 モンスターバトル
15 グールの館
16 ドラゴン小国
17 ブルバン要塞
18 ファイナルシューティング
19 エンド・タイトル
20 曲名不明 悪いイベント時の曲
21 曲名不明 良いイベント時の曲/スタッフロール
合計時間 : 33:08
作曲者 : 恋瀬信人(岡村宏美), 鈴木喜一
DISCOGRAPHY
サバッシュ全曲集
発売日: 1989年5月25日
価格: 2,884円(税込)
商品番号: H28X-10004
販売元: ポリスター
収録曲
01 オープニング組曲
02 サバッシュのテーマ
03 メイン・タイトル
04 モンスター・バトル
05 エンド・タイトル
06 悲劇のテーマ
07 ファイナル・シューティング
08 ショッピング
09 きずな
10 苦闘の果て
11 ファルガナ地方
12 ファルガナ城
13 カナートの財宝
14 アルフールの大要塞
15 カルムの塔
16 マラメイヤ地方
17 トマ村
18 ドルゲスタン大陸
19 ドラゴン小国
20 グールの館
21 ブルバン要塞
22 ダルゾン帝国
23 エンディング組曲
エンディングムービー
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