『王家の谷』について
◆『王家の谷』概要
『王家の谷』(King's VALLEY)はコナミが開発し1985年3月18日にMSX用として発売したリアルタイムアドベンチャーゲーム。現代では一般的にはアクションパズルゲームに位置づけられるが、当時はゲームジャンルの定義が各社曖昧で、コナミはアドベンチャーゲームとしている。直訳すれば冒険ゲームなわけで、間違っているわけではない。
なお、カシオブランドからも カシオMSXソフト・ライブラリー第10弾 として『王家の谷』がOEM(ゲーム内容はコナミ版と同じ)発売された。
◆発売されなかったフロッピーディスク版
同時期に、コンストラクション機能付とカタログに記載されている3.5"マイクロフロッピーディスク版(RA002)が発売予定だったがこちらは未発売だ。これは後に発売された、『コナミ ゲームコレクション Vol.1』と同等のように思われる。しかし、コレに関しては「秘蔵版(パッケージには「NEWバージョン」と記載)」となっている。
◆家庭用ゲーム機に移植されなかったオンリーワンのゲーム
ストーリーは紀元前16~11世紀のエジプトに作られた、遺跡の謎を冒険家「ビック」が明かすというもの。この作品は当時、任天堂 ファミリーコンピュータなどの家庭用ゲーム機へ移植されることもなかったオンリーワンのゲームだった。
ゲームルールは割と単純だ。画面上にある "秘宝珠" を全て集めれば扉が現れるので、扉の中へ入れば次のステージへ進むことができる。ルールは単純だが、ツルハシで床を掘り進むパズル要素が大きい。
地面を掘ってアイテムを取ったり抜け道を掘って攻略するのは、1983年にブローダーバンドからAppleⅡ版として発売された『ロードランナー』と非常によく似ている。しかし、『王家の谷』ではツルハシが有限であること、掘った場所が復活しない点が大きく異なる。そのため、クリア不可能になったり、掘った穴にはまって身動きが取れなくなることもあり、「F2」キーによる自殺コマンドが用意されていた。
また、プレイヤーにはアクションスキルも求められ、唯一の敵であるミイラ男はジャンプによる回避、もしくはナイフで攻撃しながら対応することになる。
攻略の肝となるツルハシにも『ロードランナー』と異なる特徴があった。使用法に関して取扱説明書にはほとんど記載されておらず、隠されたテクニック(上記の命名は便宜上勝手に付けたもの)がある。大きな違いは下には2ブロック分掘ることができるということだ。そして、ギリギリ半身を残してプレイヤーの足場そのものを掘るというテクニック。わかりにくいのが、左右に移動できない閉じ込められた状況のときのみ、真横の壁を2ブロック掘ることができるということだ。もちろん、色々な方法でクリアできるようになっており、幅広い攻略が可能となっていた。
◆優れたゲーム性、そしてMSXとは思えない美しさ
ステージは1画面(奇数ステージ)と左右2画面(偶数ステージ)のものが用意されている。ピラミッド内には一方通行の回転扉や、閉じてしまう壁など仕掛けが用意された。コンティニューがないのは非常に辛いが、それ故に攻略方法などが身に付くように上手く作られている。未だにプレイしてもはまり込んでしまう程の面白さで、ゲームは画面の美しさだけでは語れないものだとつくづく思う。
『王家の谷』で驚かされたのは単色ではない主人公のキャラクターだ。MSXで発売されるゲームはスプライトの制約からほとんど単色キャラなのに、この『王家の谷』は主人公キャラクターであるビックに細かい着色(とはいっても2色)が行われていて非常に驚かされた。MSXは制約上1つのスプライトには単色しか着色できず、他社の作品で表示されるキャラクターは、ファミリコンピュータに比べて明らかに劣った画面になってしまうのだ。(同社でもツインビーなどはわかりやすいだろう)
さすがに全キャラクターへの細かい着色は不可能だったようで、ミイラ男は単色で表示されている。これを逆手に取って、血液型別でカラーを分けた4人のミイラ男(実は5人いるが…)と表現した。挙動に性格を与えることによってゲームを面白くしたのだ。(血液型と記載することにより『パックマン』のモンスターに与えた性格と考えが完全に被るのを避けたのかもしれない)なお、血液型に対するカラーや性格は取扱説明書に記載されなかった。
◆名曲なのに謎のままになっている作曲者
『イー・アル・カンフー』に代表されるBGMによる世界観作りはこの『王家の谷』でも発揮されている。ピラミッド内を探索するいかにもな曲が多く、メインBGMに関してはその世界観をたった2音で表現している当時では屈指の曲だ。なのにチープさを感じさせないコナミの音楽センスは卓越しているものがあった。
しかしながら、ファンに恵まれたコナミ音楽の中でもMSXのゲーム群(特に1985年くらいまで)は作曲者不詳ものも少なくない。この『王家の谷』も名曲でありながら作曲者が不明なのは、家庭用ゲーム機であるファミリーコンピュータへ移植されず、コナミゲームミュージックなどのCDにも収録されなかったため、知名度も低くなり埋もれてしまったからではないかと思われる。
余談ではあるが、扉が出現したときのジングルは業務用基板の『ツタンカーム』で扉を開いたジングルとまったく同じものだ。なお、『コナミ ゲームコレクション Vol.1』にはエンディングBGMも追加されているのでこちらも同時収録した。
ストーリー
エジプト史上最も栄えた新王国時代、国王たちは豪華な埋葬品の盗掘を防ぐため人里はなれた山あいの中に秘かに墓を造った。墓はいずれも崖の面に深く掘った横穴式で王のミイラは主室の一段ひくい場所におかれた石棺におさめられた。以後歴代の国王や貴族が64もの墓をつくり、やがて『王家の谷』として国王たちの安眠の地となった。
だが被葬者たちの願いにもかかわらずツタンカーメンを除く全ての墓は盗掘され大部分は廃墟と化した。
しかし秘かに他に移された何人かの国王ミイラは、3400年もの時の中流れの中で、やがては神の国”太陽”への導きを与える秘宝珠を守り続けていたのである。
この秘宝珠を求めていま一人の男が王家の谷へと向った。英国マンチェスター生れの冒険家ビックである。はたして彼は、古代エジプト文明を結集した石室の謎とミイラ男たちの呪いを解き、封じ込められた秘宝珠を無事手に入れることができるのだろうか。