ハードボイルド・ADV
Gaudi(ガウディ)-バルセロナの風-
対応機種 : NEC PC-8801mkⅡSR以降
メディア : 5inch 2HD (3枚) / 5inch 2D (7枚)
定価 : 9,800円 (税別)
発売日 : 1989年6月1日(2HD版)(発売予定5月から延期)
1989年6月16日(2D版)
販売元 : ウルフ・チーム
○2ドライブ専用
○要ブランクディスク1枚
GALLERY
PROMO WORD
HRシステムと自由度の高いゲームシナリオによりオリジナルストーリーを
ユーザーライクに構築可能!!
OPS主体のシンプルオペレーションによりスムーズな操作環境!!
マウス、ジョイスティック対応!!
ジャズやフュージョンを中心とした渋いハードボイルドなサウンド!!
ADPCM対応によるリアルなサウンドとエフェクト!!
1992年、世界は目前に迫ったオリンピックに沸いていた。五輪参加国のほとんどは自国の威信を賭けた祭典に酔い、人々は平和を謳歌している。そんな喧騒を疎ましく思いながら、私はスペインはバルセロナに降り立った。もちろんオリンピックブームに乗っての観光ではない。スペイン共産党の鳩派連中が、政情不安を抑えるために私を招致したのだ。
私の名はヘンリー・ハワード。裏世界の情報網を扱って、要人や著名人達のトラブルを裁く仲介業が主な<情報コンサルタント>である。情報が生活を形成するこの現代に於いてそれの効果は計り知れない。
言うならば私は現代兵器に匹敵する「武器」を持っているのだ。
それがある以上この依頼は簡単に片がつくだろう、そう私は踏んでいたのだ。しかし、一人の男の‘ドゥエンデ’~妖気~に、私は知らず知らずの内に押し流される。その行き着く先が何であるのか、今の私には理解する術はない。バルセロナを吹き荒れる暑い風が私の頬を撫でていた…。
HRシステム【ヒストリー・リピート・システム】
現在のストーリー・コマンド上から前段階のコマンド地点までワンステップずつ戻ることを可能としたシステムで、最大20000ステップ(2HDディスク使用時)バック可能。これによりプレーヤーの辿ったストーリーを自由に逆行する事ができ、多種類のシナリオを味わうことができます。
OPS【オブジェクト・ポインティング・システム】
画面上に存在する任意のものをカーソルで指し示すとポップ・アップ・ウインドゥが開き、そこに示されたコマンドを選択することでストーリーを進行させるシステムです。
システム演出
ディスクアクセス中に、前に表示されていたビジュアルに対しハーフトーン処理やフェードアウト処理を施し、次のビジュアルが下からスクロールアップすることにより視覚的効果を高めています。
サウンド・スペック
サウンドボード2実装時にはFM6トラック、PSG2トラック、リズム、ADPCMをフルに活用した臨場感溢れるサウンドを堪能することができます。又サンプリングはもちろん従来のFM音源でも遜色のない音楽を楽しむことができます。
ストーリー
陽炎を激しく照り返す白い壁、その傍らにたたずむ黒い影。長きに渡る激動の時、それはかくも美しい遺品を育み続けた。
時に激しく、時に穏やかに、光の闇、分裂と融合。“ドゥエンデー”~魔力、妖気とも呼ばれる~は何処にひそむのか…。人はそれを知らないまま時に流される。
両極端なものが対立状態にある時、物事は「均衡」の名の元に調和する。そして偉大なる建築家ガウディはこう言った。
『共和制が統治されるときには“でたらめ”が行われ、またその理論は絶えず矛盾している。』
この言葉が意味するものは何なのか。
今、一人の英国人は全てを回想する。
彼の辿った道筋に絡みついた人々の思想、理想を謳い続けた者達、幸福、死……全てが終わった時に彼はそれらに対する「答え」を導くことになる……。
「私の名はヘンリー・ハワード……」
暗く雨雲が垂れ込める午後だった。 私は電灯もつけず、じっとベッドに座っていた。遠くの方で雷の低く響く音が聞こえたかと思った瞬間に、まるで爆弾が投下されたかのような閃光がひらめき、 今まで影が深く居座っていた空間を照らす。一瞬、家具やなにやらの輪郭が空に照らされた。
私はじっと暗を見つめていた。が、決心はつかなかった。
風が荒れ出した。うなり声を上げてビルの間を、木々の間を、そしてあらゆる野晒しの間を吹き抜けていく。 私はふと窓の外に注意を向けた。まだ雨は降り出していない。が、嵐になるのも時間の問題だろう。
私はじっと頸だけを回し外を見つめていた。が、まだ決心はつかなかった。
私はベッドの傍に置かれた電話に手を延ばした。受話器を外し、目は再び部屋の暗闇に据えた。受話器からは甲高い一定の信号が聞こえる。
私は意を決した。
今まで、だらんと下げていた右手に力を取り戻し、電話のフロントのプッシュボタンの所まで手を延ばす。
まったくこの手の通知をするのは、何回やっても嫌なものだ。こういう連絡の類の関係は相棒のリチャードが受け持ちの筈なのだが、死亡通知など気が滅いるような仕事は“デリケート”な俺様には向かない、などと言っていつものように私に押し付けたのだった。
重たい指でプッシュボタンを押し、受話器を耳に当てる。数秒間の静寂が続き、やがてコールベルがなる。相手は三回目のコールで出た。どうやら某かの電話が来る事は予想していたらしい。相手は姓を名乗った。女の声だった。たぶんやつの妻だろう。こちら側を誰何したが私は答えず、ただ用件だけを伝えた。
「あんたの旦那は死んだ。おたくのポストに500£入っている。奴が稼いだ金だ。それで当面のあんたらの生活を立ててくれ」
女はどういうことか狼狽した様子で問い正そうとしたが、私は「あんたの旦那は死んだ。ただそれだけだ。」
それだけ言うと受話器を置いた。しかし、彼女は私が語らなかった部分についての意味は分かっているだろう。彼女はそういう世界の男の妻なのだから……。
窓が軽く叩かれる音がした。私は滅入った頭を巡らせる。 悲しみに満ちた空がとうとう泣き出したらしい。大粒の涙が天より降り注ぎ、渇いた場上を潤していった。
オックスフォード通りに面した私のアパートから、リージェンド通りをちょっと行った所にある<オールド・カスタム>にたいした時間はかからなかった。 天は何も知らない無垢な少女のように、泣きやんだ。黒い雲は東の地平線の向こうに去っていこうとしていた。 反対側には今まで隠されていた無邪気な少年、太陽が残り少なくなった出番に少しでも地上を照らそうと躍起になっている。 赤と橙が混じった何とも言えないおぼろげな輝きは、消えていこうとする暗雲と相まって、全体がぼうっとした赤紫に光る雄大な自然の一幕を見せていた。
バー<オールド・カスタム>はソーホー地区にある潜りの店である。何故ならばここは不法行為を生業としている者たちの憩いの場であり、仕事場にもなっているからだ。かく言う私もそこを商売の拠点としているが、別に今まで違法だとは思った事はない。後ろめたい気持ちはないわけでもないが……。
私は基本的仕事がある時にしかそこには行かなかった。 酒はあまり飲まないし、それに店の雰囲気はやはり普通ではなく、そこにいるといつか世間から隔離されるのではないかという危機感を幾度か感じた事もあるからだ。
<オールド・カスタム>を意識的に避けている私がわざわざ出向いたわけは、当然仕事があったからだが、今の気分が陰鬱だということがそれに拍車をかけていた。リチャードは七時ぴったりに例の場所でマーティンが待っていると言ったが、時計を見ると既に十分を回っていた。
私の座っている席は店の一番奥に陣取ったテーブルだったが、ここの席はマスターとの契約で何日如何なる時でも私が利用できるように、普段は<予約席>という札が置かれている。この席は店の全体を見渡すことの出来る場所だったが、未だに入口から人の入ってくる気配は見えなかった。
リチャードが連絡をミスしたか……
その時、マーティンがドアを騒がしく開けて入ってきた。彼は真っすぐに私の方に向かってくる。
「やあハリー、遅れて済まない。ちょっとやる事があったんでね」彼は席に着き弁解がましく言った。
「約束通りに事は運んだ。私としては満足な結果ではなかったが」私がこの店に入った時に頼んだジンジャーエールをバーテンダーが運んできた。
それを見てマーティンは吹き出した。
「おいハリー、まだジンジャーエールかい?この店でそんな子供の飲むものを頼むのは、あんただけだぜ」彼はバーテンダーの帰り際にスコッチを注文した。
「話を戻すが、如は結局ああなるしかなかったと思うがね」彼は冷酷な笑みを口許に浮かべた。彼の目は冷たかった。鉄の冷たさとはまさにこういうことを言うのだろう。
「マフィアを不文律を犯す奴はああなるという、いい見本になるしな」「彼には家族がいた」私はエールを煽りながら陰気に言った。
「もういない」
「?」
彼はポケットから封筒を取り出した。そして私の前に差し出す。
「報酬だ。あんたはいつもいい仕事をしてくれるよ。これからもドンの為に便宜を図ってくれ。それと……」彼はもう一つの封筒を出した。そして癖のある笑みを浮かべる。
「これは死んだ人間達には不要なものだ。あんただろ、ハリー」
彼は別の封筒を差し出した。それはトーマスの家に郵便受けの中に入れておいたはずの£500の入った封筒だった。私は封筒を受け取る事を一瞬躊躇したが、私一人の報酬ではない事を思い出し受け取った。この報酬はリチャードと私のものなのだ。
私がリチャードの持つ多大な情報網を使って共に仕事を始めてかれこれ5年になる。その情報を売ることで生活する私を人は“情報コンサルタント”と呼んでいる。コンサルタントといっても実際仕事のほとんどは、世界の著名人や政治家、金持ちの都合のいいように情報操作(スキャンダルのもみ消し、逆情報を流す、など)することになっている。そしてその謝礼としてそれなりの成功報酬を受け取っているのだ。もちろん一介の庶民でも謝礼さえ用意してあれば依頼を受けることにはしている。
とにかく情報が生活を形成しているこの現代において、多大な情報網は実に強力なものになる。
それは使い様によっては恐ろしい武器にも、身を守る防具にもなりえるのだ。
たった一つの情報によって勝敗を決した戦争がいくつもあることはそれを顕著に示した例と言える。
そもそも私がこういった裏の仕事をやるようになったのは、ある事件がきっかけだった。
私はそのときまでは確かにスコットランドヤードの刑事だったのだ…。
「おい、ハリー。どうしたんだい、ぼうっとして。」
「いや、べつに……。」私は心の動揺を悟られないように、そっと顔を背けた。
やがて運ばれてきたスコッチを一気に飲んだマーティンは、これから少し忙しいんでね、と言うと店を早々に出ていった。
私はしばらく店を見つめながら奴のことを考えた。
一昨年のことだった。私は以前から付き合いのあるマフィアの幹部であるマーティンから仕事を依頼された。依頼の内容は組織内で、組織に関るある秘密を握った男が、マスコミに垂れ込みしようとしているので、適当な条件~いくらかの金~でその男を買収し、何としても情報が表に出るのを防いで欲しいというものだった。
情報を持ち逃げした男の名はトーマスといった。ロンドル郊外に住んでいるケチな運び屋だったが、私が彼を見つけたのは何かの巡り合わせかまさにこのバーだった。彼はこのバーの常連にいる<逃がし屋> ─海外ルートを確保し、金と引き替えに身柄を移す─と呼ばれる者たちを当てにしていたのだった。しかしどんな高条件で高飛びを依頼してもマフィアから追われている者に手を貸す者はいないだろう。
そこで私は<逃がし屋>と偽って彼に近付いた。彼が私を信用した所で私は身分を明かし、後にマフィアは身柄の安全と当座の金をだすことで買収したがっていると提示した。
しかし彼は私を信じようとしなかった。彼は銃を取り出すと私を消そうと銃を向けた。私が銃を抜くよりも早く、甲高い一発の銃声が店内に響き、彼は倒れた。即死だった。カウンターの所にはバーテンダーがライフルを持って立っていた。
彼は死んだ。もっとうまくやれるはずだった。私のミスだったのかも知れない。何故彼はいい取引を蹴ったのだろうか。その情報はとても重要なものだったのだろうか。調査が足りなかった……。あれだけの情報を持っていても、生かしきれなかったとは……。
冷たい夜気は、私の心を多少和らげてくれている。
私はウォータールーの橋の先で花束を四束買った。人の死はその理由はどうあれ、いつも私の心に疑問を投げかける。その問いはいつも違っていて、そしてその答えはいつも出すことができないでいる。
そして私自身が人を殺す事は理由はどうあれ許される事ではない。
言い訳がましいが、逃避行動と取られるかも知れないが、私が彼を買収していたとしても、やはり彼は生きていなかった様に思える。和平したように見せかけて安心した所で、闇に葬るのがマフィアの手口なのだから。
私はウォータールーの橋の上より、先程買った4束の花を投げた。
一つは我が亡き妻の為に、一つは四歳の誕生日を迎える事のできなかった我が息子の為に、一つは私の運命を替えたジョン青年の為に、そして最後はトーマス一家のために……。
ガウディ バルセロナの風について
バルセロナオリンピック開催に便乗した意欲的作品。
ガウディがアナーキストということになっていたり、バルセロナでテロが起こったりと他の国でやりたい放題。オリンピックがこれから開催されるのに内戦勃発なんていう不祥事ごとをゲームにし、国のイメージ自体を傷つけるタブーをウルフ・チームは犯した。幸いにも全然売れなかったようで、そこまで槍玉には上がっていなかったようだ。
シナリオはハードボイルドを貫こうとしているのだが、情報収集しながら観光して、テロが起こったのを見守るだけで終了。そんな空虚感が漂うストーリー。車を見るとウルフチームというロゴを貼った車が走っていたり、看板を見れば斬が開発中だったりと、おフザケ要素を入れたおかげで雰囲気も安物臭くなっている。
バルセロナをメインにしたシナリオの割には、主人公はガウディの作品そのものが嫌いで始まり嫌いで終わるというトンデモ仕様。色々な構造などの理屈から問題を語るのかと思うと、子供のような理由で文句しか言わない。途中でアンナがバルセロナを案内してくれる程度の安っぽい観光案内でなんとか雰囲気だけは出るが、アナーキーについて吹き込まれるなど、余計な事を喋り出す有様。随分偏った内容でもあるのでバルセロナという町を理解するには程遠い内容だった。何事にも世界観について語り始めないと読み手を引き込むのは難しいと思うのだが…。
システムとしてはウルフチームとしての初の試みが4つ用いられている。まずHR(ヒストリーリピート)システム。話を戻すことができるというもの。革新的ではあったが、プレイ時間自体も短く、そのシステムを必要とするまでのシナリオ内容ではなかった。また、分岐地点も数箇所、戻りたいステップ数値を入力という非常に使い辛い仕様でどうにも直前以外はまったく使い物にならなかった。
2つ目はストーリーの途中経過が行動によって変化するというもの。これにより、人が死んだり死ななかったりとストーリーに変化が起こる……んだけども、結末は同じなのが残念。
3つ目はOPS(オブジェクトポインティングシステム)。画面の色々な部分を見たり調べたりすることが可能なのだが、1980年代初頭に見るようなコマンドの返答ぶり。何故に木を撃つとか、建物を移動する必要があるのか。しかも、「そんなの無理だ」とか「意味が無い」というような無愛想な返答しか返ってこないという作っている側の面倒臭さが滲み出ている。システムの設計と作り手との噛み合いが巧くいっていない印象を受ける。
4つ目はグラフィック。独特の処理で手書きで描画されているそうなのだが、取り込みに近いようなそうでないような雰囲気。それにしてもアンナの顔は出てくるたびに変わるのが残念。アンナといえば後半の「もう駄目だわ」のシーン。ガウディといえば、ここの画面写真のイメージしか浮かばないくらい。
色々と粗はあるが、それでも今でこそ当たり前のように採用されている分岐システムや、シナリオの戻るシステムを当時で作成していたのは、発想として良かった。完全マルチエンディングではなく1つのエンディングなのだが、途中のシナリオが変化して再び1つの流れに戻るという面倒なことをやり遂げた作品では私のプレイした作品で初めてだったと思う。そういう意味では評価したい。
音楽は流石にウルフチームというべきだろうか。オープニングのウルフといわれる所以の一つに、演出の一つである曲の良さというものが挙げられる。今回の作品に関しても確実に仕留められたという感じだろうか。また、ゲーム中の曲もそれっぽく仕上げてあるので、音楽だけ聞いている分だと非常に気分が盛り上がってくるのだ。また、サンプリングが多用されており、完成度の高さを上げているのだが、プチノイズが取れきっていないのが残念。
曲に関して使用されているのが確認のとれないものは未使用とさせていただいた。もしかしたらデモディスクで使われていたのかもしれない。
いただいた情報
お疲れ様です 投稿者:位置や
投稿日: 2006年 6月20日(火)20時51分6秒
ガウディはプレイしてなかったのでレビューをよむだけでも価値がありました。
未来のはずの1992年がもう16年も昔ですか。。。
ガウディ 投稿者:あわん
投稿日: 2006年 6月20日(火)23時16分53秒
960本だったか何だったか、さっぱり売れなかったようで
ちなみにこれもセイクリッドファンタジーシリーズだそうで
たしかX68000でも出てましたね。
ユーザーディスク作成方法
ユーザーディスク作成モード(マニュアル記載)
COPYを押しながらディスク1で起動する。
TRACK LIST
ラジオ収録曲(FM音源+SSG+リズム音源+ADPCM)
サウンドボードⅡ
音源チップ:YAMAHA YM2608(OPNA)
01 IPL~オープニング
02 オールドカスタム
03 IN ENDLAND(MAIN BGM A)
04 喫茶店イーラム
05 狙撃犯との対峙
06 暗殺者
07 スペインへの旅立ち
08 IN SPAIN(MAIN BGM B)
09 暗殺者2
10 会合 -アベニーダ・パラス ホテル-
11 バルセロナ市内の案内
12 BAR
13 大道芸人
14 凶弾に倒れる
15 真実
16 アンナとの待ち合わせ
17 アンナとの一時
18 アンナの告白
19 エンディング
20 未使用曲1
21 未使用曲2
曲名は適当に付けたもので正式なものではない。
合計時間 : 32:01
作曲 : 塩生康範
エンディングムービー
■エンディングムービー