『ジェミニウイング』X68000版について
『ジェミニウイング』(Gemini Wing)はテクモが開発を行い、業務用基板として1987年に稼働した縦スクロール型シューティングゲーム。
SHARP X68000版はシステムサコムが移植・開発を行い1990年10月19日に発売した。当初は4月発売予定であったが、延期を繰り返しての発売だった。
家庭用ゲーム機にはその後30年間移植されず、それまでは唯一の移植作がX68000版『ジェミニウイング』だった。業務用基板はモニターを縦置き型として製作されていたが、X68000版は通常の横置きのみで移植されている。そのためキャラクターが本来より潰れた形で表示される。
移植を担当したプログラマーは関川雅道(Masamichi Sekikawa a.k.a ロリ関川)さん。過去には『ドーム』富士通 FM-7版の移植を手掛けている。また、X68000になり『ソフトでハードな物語』、『ソフトでハードな物語2』のサブプログラマーとして参加、また同年の『プロヴィデンス』ではゲームデザイン及びメインプログラマーを務めた。
X68000はアーケードゲームの移植が盛んに行われる機種であった、ということは割と知られていることだろう。しかし、そういったお株は電波新聞社(マイコンソフト)やシャープ(SPS)が中心であり、システムサコムは移植ではなく自社企画のオリジナル作品を開発するソフトハウスであった。それが、なぜ突然アーケードゲーム移植へ足を踏み入れることになったのかという経緯は不明だ。しかし、なぜ関川雅道さんが担当することになったのか。これには逸話が残されている。
システムサコムという会社の社長さんがテクモを訪問されて、「ジェミニウィング」をX68000に移植したいとの申し出がありました。何でジェミニウィングなんですか? と思って聞いてみると…
出典:『よしざわひでお (@yoshi_clonoa) / X』https://x.com/yoshi_clonoa/status/1335019753664991232(2020-12-05)
「プログラマに移植するなら何がいいか? と尋ねたら、ジェミニウィングがいい! と熱心に言うもので、失礼ですが私は存じ上げなかったんですが、彼は個人的に基板まで持っていて熟知しているので、いい物ができると思い、お願いに上がりました」
というのです。
当時テクモに在籍されていた吉沢秀雄(Hideo Yoshizawa)さんにより語られている逸話だ。こういった依頼事は営業企画などの担当者が行うものと思っていたので伊佐社長が直々に足を運んで依頼に伺っていたという話やその姿勢にも感銘を受けた。
当時のシステムサコムでX68000といえばノベルウェアシリーズというイメージだったのだが、この作品からアーケードの移植に踏み切る(ただし、後はアトミックロボキッドで打ち切る)。
当時ベーマガのメーカーページに斎藤学氏が毎月自社について語るページを持っていた。この作品を紹介するときにイスズのジェミニ(車)に羽根が生えた絵を載っけて「次回作はこれです」と書いてあった。アーケード移植なんて考えもしなかったメーカーだけに半信半疑だったのだ。ただし、選択したゲームが一般からすればかなりマイナーなゲームだ。私も実際に稼働しているのは数回見たことがある程度。あの火の棒を左右に振りながら敵を破壊してゆく愉快っぷりは笑えた。しかし、あまり周りでも話題は挙がらなかったし、私ももっぱら体感ゲームで遊んでいた。
そのためか、私が購入したときには既に黄色ラベルで2,980円だった。このゲームは本来縦画面だったのだが、ドラスピのようにディスプレイを横に倒してプレイするようには製作されなかった。その他、自機の移動スピードが31kHzだと妙に遅く感じる。ちなみに15kHzでプレイするとかなり動きが早い。あと辛かったのはコンティニュー制限があるところ。最後のボスは異様に攻略が面倒なので、よくそこで詰まった覚えがある。
作曲は後にコナミで活躍しているメタルユーキさんである。当時はテクモに在籍しており、多数のテクモ作品を手がけている。編曲はサコムでお馴染みの斎藤学さん。音源はローランドのMT-32、CM-64、そしてCM-64(CM-32P)の追加増設用であるドラムカード、ギターカードのバージョンの計4種に対応していた。
U110-07カードバージョンだが基本のアレンジはCM-64と同じ。ギターの音を被せただけで、場合によっては暑苦しいかもしれない。
U110-10カードバージョンは、SC-55の"power set"のスネアドラムの音に非常に近い。一部の曲においては別の音色を使っていたが、製作サイドの好みは前者だったのだろう。気になる点としては、MT-32側のスネアドラムも同時に鳴っている点。他、Round3のイントロ部分の音が歯抜けになっていたり、ネームエントリーに関してはノーマルと何ら変わらないという状況が気になる。とりあえず、ギターカードが07でドラムカードが10という番号が製品型番に登録されているが、起動時はF3がドラムカード、F4がギターカードとなっていることから、優先順位的にはドラムカードの方が上だったのではないかと思われる。ただ、ギターカード同様で、音色を置き換えただけで、期待以上の結果は得られなかった。
原曲は基本的にステージの長さに合わせて作られているようで、例外はあるがほぼ1周ループで終わる形に作られている。編曲のできは素晴らしく、作曲者の意図した曲に対する像は、こうではなかったのだろうか?と思わせる。音色もLA音源でオリジナル音色を作成しており、効果音ぽい音が曲に織り交ぜられていることが多い。また、ボスの一部ではイントロ部分の効果音がMIDIで作られている。
エンディングは往年のテクモの音色を真似て使用されており、テクモミュージック等を聞いたことがある人には、感慨深いと思われる。スタッフロールのメロディは、同様に往年のテクモを思い出させるフレーズで非常に気に入っている。イントロの雰囲気がややラピュタっぽいのは気のせいだろうか…。
ラウンド6の曲が妙にスーパースターフォースに似ていると思ったら同一作曲者であったのは、やや驚いた。私はスーパースターフォースもお気に入りだ。