A DAY IN THE LIFE OF 2049-FILE1
38万キロの虚空
対応機種 : SHARP X68000シリーズ
メディア : 5inch 2HD (4枚)
定価 : 9,800円 (税別)
発売日 : 1989年10月21日(発売予定1989年9月中旬から延期)
販売元 : システム サコム
○MIDI対応 ROLAND MT-32完全対応
(要CZ-6BMI純正MIDIボード)
目次
38万キロの虚空 for X68000
※マニュアル抜粋
PACKAGE REPRODUCTION
MIDI対応
SC計画を推進するNSCA…
妨害を企てる反対派…
ストーリー展開も君しだい
!
ノヴェルウェアの 更なる進化
西暦2049年。
地球人口は増加の一途をたどり、
まさに飽和状態をむかえていた。
増え続ける人口に対し、
居住可能土地面積は増えることはなく、
超高層化された住宅施設にも限界があった。
そして住環境以外にも、
増大した人類の生活を支えるための資源の枯渇、
自動化された産業構造の結果の失業者増など、
地球はもはや閉鎖系の一環境の
限界に達してしまったのである。
この状況を打破するために
世界各国が共同で開始した事業、
それが宇宙植民計画である。
「38万キロの虚空」を起動したその時が、
あなたの異次元への旅の出発点となることでしょう。
█標準価格 9,800円
※表示価格に消費税は含まれません。
CZ-6BM1が必要です。)
株式会社 システム サコム
〒130東京都墨田区両国4-38-16
両国桜井ビル
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『38万キロの虚空』について
◆『38万キロの虚空』概要
『38万キロの虚空』(38 man kilo no kokū)(開発時仮称『コロニー』)はノヴェルウェアシリーズ第5弾として システムサコムがSHARP X68000用に開発し1989年10月21日に発売した現在のノベルゲームに部類されるゲーム。当初は1989年9月中旬発売予定であったが延期されての発売となった。国内初の外部MIDI音源対応ゲームであり、当初はRoland MT-32、Roland U110、 KORG M1の3種に対応予定で時間の限り追加で増える予定であったが、この中ではMT-32のみの対応となった。
後に富士通 FM TOWNS版(11月20日予定から延期→12月4日発売)、NEC PC-9801VM/UV以降版(12月21日発売)に移植されている。
文字量は20万字以上、文庫本にして約2冊分に相当する作品として発表された(実際に製品化された際の文字数は不明)。また、開発途中では場面を地球上に移し、主人公である相場謙(Ken Aiba)の事件簿という方向でシリーズ化を想定していた。その「File1」を『38万キロの虚空』という主題にしているが、シリーズ化は中止された。
◆開発スタッフ
原作は多摩豊(Yutaka Tama, 1962年1月27日-1997年12月18日)。ゲーム作品の代表作として同社では『ドーム』の脚本や『ソフトでハードな物語』の一部脚本を担当。
オープニングの絵コンテや後半の脚本ストーリー分岐(コロニー肯定派・中立派部分)などは鈴木幸一(Koichi Suzuki 1972年-)が担当。ゲーム業界でのデビュー作でもある。後の作品として代表作とも言える『闇の血族』の原作・脚本を務めている。
プログラムは 樽木泰行(Yasuyuki Taruki)、関川雅道(Masamichi Sekikawa)が担当。
樽木泰行は 今作を含めなぜか一時的にスティーブン・Jとも名乗っている。X68000でのノヴェルウェアシリーズ全てを手掛けたメインプログラマー。
関川雅道は『ドーム』富士通 FM-7版の移植を手掛けている。また、X68000になり『ソフトでハードな物語』、『ソフトでハードな物語2』のサブプログラマーとして参加、翌年の『ジェミニウイング』の移植ではメインプログラマーを務めた。
ビジュアル面の原画は瀧本和是(Kazuyuki Takimoto)が担当している。瀧本和是といえば、ボーステックが開発・発売した『レリクス』(PC-9801シリーズ用がオリジナルで1986年2月25日に発売)のデザイナーを務めたことが一部界隈では有名だろうか。
『レリクス』といえば1986年当時のパソコンゲーマーならプレイしたことは無くとも名前は知られているであろうかなり有名なゲームだ。独特なデザインやパッケージ内容などが雑誌等で話題にもなっていたのでデザイン面でも優れていたことがわかる。今風に言えばレジェンドにあたる瀧本和是が関わっているというだけで一つのアドバンテージにもなったと思われるが、パッケージにも未記載で、広告にもほぼ掲載されなかった。
瀧本和是が『38万キロの虚空』に関わっていることが唯一アピールされたのは広告内のコラムで用意された「サコちゃんのINFORMATIONコーナー」だけだったと思われる。瀧本和是の名を大々的に伝えることによって興味を持つプレイヤーはそれなりにいたのではないかと思うし、後世にも話題のトピックスとして残った気がするのだ。
◆ゲームでは国内初となる外部MIDI楽器演奏に対応
『38万キロの虚空』における目玉の1つとして注目されたのは 外部MIDI音源(Roland MT-32)に対応したことだ。これは国内初となる。
国内初かどうかの検討段階でシエアオンラインからNEC PC-9801シリーズ用に移植・発売された『ポリス・クエストⅡ』の名がしばしば挙がる。当時は国内初という触れ込みで9月15日発売の予定として各種記事も早期に掲載されていた。しかし、実際のところは延期を重ね、結果として大幅に遅れた12月21日発売となった。このため、繰り上がり当選のようになるが『38万キロの虚空』が国内初となる所以である。(『ポリス・クエストⅡ』のパッケージには「日本初のMIDI音源対応のオリジナル・スコア12曲」と修正が間に合わなかったのか記載が残っている)
◆DTMの先駆けRoland MT-32
これらを踏まえてX68000とMIDIにまつわるそもそもの関係性などを調べておく必要があるかもしれない。Roland MT-32は1987年9月にローランドから定価69,000円(物品税廃止後は64,000円)で発売された音源モジュール。内蔵音色は128種、リズム音30種、8パート+リズムで最大32音を鳴らすことが可能。また10種類のデジタルリバーブを内蔵している。
1987年当時のMT-32におけるメインストリームはPC-8001、PC-8801、PC-9801シリーズ。MT-32登場時にはX68000に市販のMIDIボードは存在せず接点は一切なかった。その時代背景の中で翌年の1988年4月28日にはPC-9801シリーズ用としてMT-32とMIDIボード、ソフトウェアをパッケージングした「ミュージくん」(定価99,800円)の発売が音楽関係に興味のあるごく一部のユーザーにクリーンヒットし、当時は品不足となるほどの人気を博した。これによりデスクトップミュージックにおける音源としてのスタンダードとなる地位を確立させたと言ってもいいかもしれない。
◆X68000とMIDI
X68000でMIDIを使って一般的なソフトで演奏を行うにはMT-32登場からおよそ1年後である1988年11月頃に発売されたMIDIボードSHARP CZ-6BM1(標準価格26,800円)の登場まで待たなければならなかった。同年12月には国本佳宏(Yoshihiro Kunimoto)、佐久間正英(Masahide Sakuma)、翌年の4月には本多俊之(Toshiyuki Honda)、戸田誠司(Seji Toda)といったプロのミュージシャンがMT-32に対応した MusicStudio PRO-68K用データ集「ソングファイル」を発売。X68000にもMIDIの風を感じるようになった。ただし、聞き専のようなユーザーがMT-32を買い求める時代にはなっていなかったことは記しておく。
※X68000で最初にMIDI機器を扱うことが可能になったのは1988年9月末に計測技研が発売した「Melody Box」KGU-X68MD(X)(標準価格16,800円)というRS-232Cポートに接続する汎用のMIDIインタフェースユニット。ただし、一般アプリケーションやゲームソフトに対応していない。(詳細記事は Oh!X 1988年12月号 P.110~P112)
なぜミュージシャン御用達のような音源モジュールを1989年になって市販ゲームに対応させようとしたのかは謎のままだ。ただ、X68000のMIDIボード発売と同時期くらいから偶然にも確実にMIDIを使ったコンピュータミュージックのムーブメントは起こりつつあった。1989年2月(3月号)からは マイコンBASICマガジン の別冊付録として「LET'S PLAY!コンピュータ・ミュージック」が度々発行されている。
1989年に MIDI対応を発表したシステムサコム以外のX68000ゲーム製作会社
6月にはシステムサコムが『38万キロの虚空』(当時はタイトル不明)をMT-32対応とすることを市販ゲームとして国内でいち早く表明。同年内には、電波新聞社、シャープ、ボーステック、ヘルツなどのメーカーがX68000の一部ゲームにMIDI対応とする名乗りを上げている。これらMIDI対応と謳ったゲームでMT-32に対応しない作品は存在しない。ゲームにおいては対応音源モジュールの乱立はなく、MT-32がスタンダードなMIDI音源モジュールになっていた。
◆X68000でのMIDIシーンを牽引したシステムサコム
そして、システムサコムがSHARP X68000でのMIDIシーンを牽引することになる出来事がもう後にもう1つ発生する。同社よりSX-68M(MIDIボード)を1989年12月中旬に19,800円で発売したのだ。当時シャープ純正のMIDIボード(CZ-6BM1 26,800円)は取扱い店舗も少なくすんなり購入できるような状況ではなかったが、その販路を開拓、拡大した。加えて、一般ユーザーが使わないようなTAPE SYNC.端子や機能をカットし価格は純正に比べると定価で7,000円安く財布に優しいこともユーザーにとっては非常に大きいものだった。(難点は金属面がそのまま飛び出しているので見た目がやや不細工になるところ。後に『ストリートファイターⅡ'』でも知られる一部パートが鳴らないデータがあるという互換性の問題が発覚したくらい?)
これだけ、MIDIがPCゲーム界隈でトレンドになりながらもSX-68Mを発売後「MIDIボードには音源が搭載されておらず別に楽器が必要」ということを知らないユーザーがかなりいたという逸話が残っていることは歴史として重要かもしれない。(逆にそれだけMIDIボードが売れていたという事実も重要)
※なお、国内初と思われる音源搭載のMIDIボードは河合楽器製作所のMSB-98を含むDTMパッケージであるサウンドパレット。1990年12月1日(1990年10月19日 日経産業新聞記事参照)にPC-9801拡張スロット(Cバス)専用として発売。このためMIDIボードに音源が必要という話は1990年12月を境に変わる。
◆大人の雰囲気が地味に感じたビジュアル
ノヴェルウェアではおなじみの多摩豊を起用したことを謳い、「ノヴェルウェアの更なる進化」というキャッチフレーズと「MIDI対応」というトレンドワードを引っ提げ登場した『38万キロの虚空』。しかし、私は発売当時にMIDI機器を所有しておらず、その恩恵を全く受けられなかった。加えてストーリーが重厚でも、巨匠・瀧本和是のビジュアルであっても発売当初に感じた所感は「地味」であった。
私にとって宇宙物のSFアドベンチャーゲームのお手本といえば『ジーザス』であり、『ガルフォース』…の「キャラ絵」であった。しかし、どうみてもカワイイ女の子(ヒロイン)が出てくる絵柄ではない。ましてやちょっとエッチなシーンやカワイイ女の子(重要)が振り向いたりするアニメーションも絶対になさそうだ。と私のように一歩引いてしまったプレイヤーも中にはいたりするのではないだろうか。『38万キロの虚空』はそんな甘っちょろいプレイヤーに対して一切媚びない文学派に向けた硬派な作品なのだ。ノヴェルウェアは流行のジャンルとは言えない上、近未来SF物に区分けされる小説ジャンルの趣味嗜好も考えると余計にプレイ層を狭めることになる。発売当初に手に取った人はそれほど多くはないのではないだろうか。(私は敬遠して発売当初手に取らず、プレイしたのは1年後くらいだった)
◆練りに練られた舞台設定と背景
『38万キロの虚空』は近未来である2049年を舞台とした物語。多摩豊の考える地球の未来とテクノロジーの発展に対する予想・想像を交えて物語化したもの。多摩豊が挙げる地球上で起こるであろう問題点として、人口増加、資源の枯渇、産業の自動化による失業者の増加などを挙げ、その解決方法として導き出されたのがSF的な宇宙植民計画。それが実現したなら、というifで起こりうる問題点に焦点を当てたのが『38万キロの虚空』の世界だ。
この作品のタイトルになっている「38万キロ」という数値は地球と月との平均距離の事ではない。SC(正確には第一号植民島なのでSC1)の設置されているのが地球の軌道上約38万(4千)キロの地点という所から来ている。この位置がラグランジュポイントでもあり、地球と月の重力の関係が最も安定している場所なのだ。天体力学における円制限三体問題の5つの平衡解のうちのL5にSC1は存在する。
SC1は直径4kmの円形基部を持つ円筒で、全長はおよそ32km。第一次植民者は10万人を予定しており、最終的には500万人の居住が可能。
SCへ向かう移動手段はよくあるようなシャトルを使って地上から飛んでいくというような話ではない。地上35,800kmに達する軌道エレベーター(建物にすれば1200万階建てに相当)を使う。ただし、そのシャフトの長さは倍の72,000kmに達する。簡単な理由は軌道上から同じ長さで引っ張ってやらないとエレベータがバラバラになるからだ。
エレベータ途中にある軌道ステーションまでは所要15時間をかけ一度におよそ1,000人を運び、そこからシャトル船を使いSCまで3日かけて移動を行う。(軌道エレベータの先にSC1がくっついていると誤解されがちだがそうではない。)
◆Welcome to 多摩豊ワールド
主人公の相場謙がそれらを見て思ったり感じたりすることがメッセージとなりプレイヤーである読者にその場にいるようなリアリティーを体感させるのだ。読み進めるとどんどん多摩豊ワールドと呼べる未来の姿、世界が広がっていく。そこは明るいだけの未来ではなく時代が進んでも解決できない問題も孕んでいるところが興味深い。そういったところにメスを入れていくのが相場謙の記者としての仕事でもあるのだ。
『38万キロの虚空』は導入部を第1章とし、全8章で構成される。マニュアルにも書かれている通りSCのオープニング・セレモニーがクライマックスとなる。最初から終了場面が提示されている風変わりな作品だ。
- 第1章 宇宙への序曲(AD2049 sep.15 Morning)
- 第2章 理想郷(AD2049 sep.16 Morning)
- 第3章 予感(AD2049 Sep.16 Midnight)
- 第4章 運命の一日(AD2049 Sep.17 Morning)
- 第5章 陰謀の影(AD2049 Sep.17 Night
- 第6章 SC1の一番長い日(AD2049 Sep.18 Morning)
- 第7章 真実の軌跡(AD2049 Sep.18 Twilight)
- 第8章 モノトーンの真実(AD2049 Sep.19 Morning)
※X68000版では第1章のタイトル名と日付は表示されない。第1章の日付に関してはシャトル船で3日過ごす関係上矛盾が生じるので後付設定にも思える。9月11日あたりが妥当なラインだろう。
ゴールが見えている状態でそこに至るまでどういう状態で着地するかというのを相場謙と一緒に探っていくのが今回の目的とも言えるだろう。ただし、プレイヤー(読者)は選択により一時的に世界線を移動するようなことになるが、確定している重要な結果は変えることができない。
◆マルチエンド要素を捨て脇道を増やした『38万キロの虚空』
ノヴェルウェアは当然単なる小説ではないので文章が勝手に流れて終わりを迎えるものではない。『38万キロの虚空』では要所要所のシーンで重要な選択を迫られる場面に遭遇する。好意的であったり中立的や否定的という選択だ。ただ、これまでのノヴェルウェア作品と異なり選択内容が変わっても記事の内容と周りの反応が変わるという程度に収まっている。1つの会話や思想によって未来が簡単に大きく変わるわけでは無いという現実的な作品でもある。これは大きなネタバレだが選択によってバッドエンドに向かうフラグが立つということが無くなった。
つまり、選択肢に対して身構える必要が無くなったのだ。これがこれまでのノヴェルウェアと大きく変わったポイントの1つだ。加えて時間経過を考え行動しなければならないという面倒な要素は撤廃されている。
ただし、選択行為にも制限はある。その場にいる色々な人物と会話したり、色々な質問を行うというようなコマンド選択の総当りを行うことはできない。選択する毎にストーリーはどんどん進んでいってしまう。そういう点ではコマンドに時間経過という概念はある意味生きていると考えてもいいだろう。
選択した先に待っているのは非常に現実的な作りで、あの時あんな事を話していたら、質問していたら、どんな反応が返ってきただろうというifを試すだけであって、ストーリーがまるごと変わるというゲームのようなお話にはならない。決まった未来は変えることができないのだ。
この3択3様は良くも悪くも物語に取り込んだリアルな点であるように思える。だが前述の通りプレイヤーの印象に大きく残るような別々の話は一部を除き殆どのケースで存在しない。日常会話の様なもので、2度目、3度目とプレイしても別の選択肢でどういう内容だったか思い出すのは難しいだろう。平々凡々というリアルさはあるのだが相当なマニアでなければその内容は印象に残ることが無いはずだ。選択による緊張感のなさはこういう緩さという弊害をもたらしたのは間違いない。(だからといって『ソフトでハードな物語2』のような無茶苦茶さを肯定するわけではない)
◆1989年から見た2049年におけるテクノロジーの答え合わせ
今だからこそできる読み方(楽しみ方)もある。発売年である1989年から見た2049年は60年先の未来だ。想定された2049年まで半分を切った現在であれば例えば様々なテクノロジーに関する答え合わせができる。そして、現在のテクノロジーが想像より先を進んでいると感じる場面が多数あるのは面白いと感じるとともに想像を超えているという現実に凄さ、怖さを感じる。
例えば、ネット回線を使うのもリンクジャックにケーブルで繋ぐという行為が必須なこと。現在なら無線で高速回線のネット接続が可能になっている。また現在のようなネット環境は想定されていない。ホスト上に用意されたデータベースを閲覧するというパソコン通信を少し拡張したようなシステムだ。ネットでの会話はメールだけ。個人ホームページやSNSのように誰もが簡単に情報発信者になりうる時代もチャットも(もちろんスマホも)想定されていないことがわかる。想像はできていたとしても、SCができるよりもっと先の時代に普及する技術だと考えられていたのかもしれない。
◆シナリオ制作の舞台裏
様々なトピックスを持つ『38万キロの虚空』だが、過去のノヴェルウェア作品を体験したプレイヤーには今作も同様にベストエンドへ至るには遠い道のりを想像してしまいプレイには腰が重いかもしれない。しかし、この作品がそういった概念を取り払った初めてのノヴェルウェア作品ということは伝えておきたい。ほぼ一本道のストーリー作品でありながら、シナリオの巧みさで複数の脇道を持たせることにより、思想によって世界の見え方に変化を与え、ストーリーを起伏に富んだものにしているのだ。これは見事としか言えないだろう。ただ、残念なのは第1章や第2章で綿密に練られた架空の技術論や世界観、様々な仕掛けを生かし切れなかったように思えたことだ。
また、後半に登場する人物の関連性を調べるシーンは悪評高いのではないだろうか。多摩豊が手掛けたのが理由か分からないが、ノヴェルウェア第1弾の『ドーム』同様に問題点がある。ストーリーに殆ど出てこなかったり、全く出てこないのに世界観を構成するための人物名が出てくることだ。また、同様にその人物像を理解しなければならない造りになっている。(理解せず抜ける方法は一応ある)
加えて、インタフェースの問題も加えて凄く面倒だ。MEMOから関連性を整理し、推理を行うことができるはずだった様子が垣間見られるが未完成でリリースしたように思える。顧客名簿に関しても用意されているだけで事件に結びつく要素になっていない。かと言って関連付けに正解しなければ先へ進めないわけでも無い。駆け足気味な後半は作り込みに間に合わなかったしわ寄せが色々と見えてしまうのだ。
これらの製作過程に関してかなり参考になるバイブルが刊行されているのはご存知だろうか?2014年にマイクロマガジン社が発売した「アドベンチャーゲームサイド VOL.2」だ。ここに『38万キロの虚空』に関しての秘話が一部掲載されている。(現在でも電子書籍で購入可能)
『38万キロの虚空』といえば多摩豊の名前が一般的に浮かぶだろう。それは当然だ。広告からパッケージ、マニュアルに至るまで 多摩豊の署名を添えて解説が書かれている。その中で鈴木幸一が果たした役割が意外に大きなものだったという事を知る人は少ないかもしれない。
◆表舞台に出てこない顛末騒動
鈴木幸一は高校1年生の夏休み(1989年)にアルバイトという形で参加。多摩豊が作成した未完成のシナリオ(否定派の話のみ、分岐やスクリプトは一部、後半部分はラフ)を渡され、そこから文体を真似て肉付けし、落とし所まで作成されたという内容が描かれている(多摩豊が多忙になったという話でぼかされているが請け負った仕事を多忙で放置ということは…)。
ノヴェルウェアは発売中止になっている作品も複数存在する。『38万キロの虚空』もその中の1作になった可能性は十分考えられた。発売に漕ぎ着けることができたのは鈴木幸一の功績が非常に大きいと言っても過言ではないだろう。
ただ、色々な顛末があったことを知らない故に、当時はストーリー後半における展開の強引さはイマイチ納得できなかった。第1章や第2章ではあれだけ用意されたグラフィックも第4章の途中あたりから数枚しか無く、謎の空白を埋めるパズル部分は人任せであれよあれよという感じで進む。ストーリーに殆ど出てこなかった人物の実態や恨みつらみを語られるが、名前も顔も、どういう人物かも頭の中に浮かばない。真相は垂れ流し状態で内容がよく理解できないまま、セレモニーがどうなったかは読者の想像にお任せします、というような感じで闇に葬られる。ちょっとカッコいい洒落た終わり方なんだけど、あまりにもわからない終わり方だったのできっとこれはマルチエンディングの1つなのだと思い込んだ。そして、何度もプレイした。そういう思い出がある。(あまりにも終わり方が変わらないのでちょろっと解析したらマルチエンドでないことが判明)
顛末を知ったから情状酌量のように評価を変えなければならないという訳では無いが、終わり方には次のような理由もあったからであろうという事実と想像は伝えておきたい。
『ドーム』もそうであったが、『38万キロの虚空』も開発当初から続編を出す計画が立てられていた。しかし、その計画が中止になっている事実はほとんど知られていないだろう。理由は原作者不在(多忙)のためか、売上が見込めないという判断かは不明だ。元々のプロットがシリーズ化すると想定されていたのだから尻切れトンボのようなストーリーになってしまうのは仕方ないだろう。(PCゲーマーなら同じようなケースとしてコナミの『スナッチャー』が真っ先に思い浮かぶかもしれない。)
色々と書きなぐってしまったものの、未来に於ける問題点を創造し設定も非常に細やかに行われたこの作品はノヴェルウェアの中でもとりわけ内容が濃い印象を受けた。何もかもが現在と異なる異世界のようなSF物ではなく、大衆の思考、政治、経済、そして過激派の存在などの問題が現代と地続きであることを実感させてくれる。また、読了後も色々と考えを巡らせることも多い。1度目より2度目、3度目のプレイで世界観が更に広がる魅力的な作品でもあるということを知ってほしい。そして、少しでも興味が湧いたならばあれば是非「読んで」ほしい作品だ。
◆CD化まで果たした必聴のBGM
『38万キロの虚空』のBGMは当時のシステムサコムの顔といっても過言ではない斎藤学(Manabu Saito a.k.a マサ斉藤, 1970年1月26日-1992年10月1日)(作曲当時は20歳)が作曲からデータ作成まで担当。彼の音楽経歴で MIDI楽器に初挑戦した作品だ。製作にはMIDIの入門書とMT-32のマニュアルを片手に四苦八苦の日々が続いたと綴っている。
詳しい方ならここで頭に疑問符が浮かぶかもしれない。『38万キロの虚空』の発売より前である1989年3月に富士通 FM TOWNS専用として発売した『EVOLUTION』。この作品にCD-DAで収録されているBGMはMT-32、U-110、DX7などのMIDI楽器を使用して収録されているからだ。実は作曲こそ斎藤学であったが打ち込みは別のスタッフが行っていたのだ(『38万キロの虚空』サウンドトラックライナーノーツに記載)。
『38万キロの虚空』の開発中である1989年6月23日にはRolandからMT-32の後継とも言えるCM-32LやCM-64が登場。ボリュームダイヤルだけを残し、ディスプレイやパネルスイッチを排除。コストダウンしつつ中身を充実させデスクトップミュージックに特化したモデルだ。
CM-64はLA音源に加えU-110譲りの RS-PCM音源を追加で搭載、U-110用として発売されているサウンド拡張カードSN-U110シリーズを1枚挿入できるカード・スロットを搭載している。(CM-32PというRS-PCM音源のみ搭載のMT-32やCM-32LをCM-64と同等にするアップグレード機のような存在の機種も同時に発売されている)
『38万キロの虚空』開発中にはCM-64のRS-PCM音源に対応することは叶わなかったが、11月には通信販売のみでCM-64専用版を9,800円で販売。サウンドトラックのオープニング曲だけはCM-64版が収録されている。
38万キロの虚空/サコムサウンドチームLUI
EMIミュージック・ジャパン/1990年7月11日
メディア/価格:
CD TOCT-5725 2,530円(税込)
CT TOTT-5725 2,250円(税込)
収録曲: ①THE FAR PLACE ②STARDUST DANCING ③A PACK OF CIGARETTES ④A DAY IN THE LIFE ⑤THE FAR PLACE ⑥THE DEAL ⑦ MEMORIAL GLIDE ⑧SNAPPY TIME ⑨TWIRLY STEP ⑩A LAZY NIGHT ⑪LOOK OUT ! ⑫LOST TRUTH ⑬A boundless universe. ⑭the advent of...! ⑮In the aroma of tea. ⑯STARDUST DANCING ⑰SUNDAY PRATTLE ⑱PEACEFUL TIME ⑲SHOWERING SUNSHINE ⑳IN THE MORNING LIGHT ㉑IN THE GLIDE ㉒OVER THE SKY ㉓SILENT CAUTION ㉔Here's your CHANCE ! ㉕MOONLIGHT REQUIEM ㉖A PACK OF CIGARETTES ㉗FORGOTTEN MEMORY ㉘LAST CHASE ㉙WHO DID IT? ㉚IN A LEAFY SHADE ㉛A DAY IN THE LIFE
1988年11月18日にNEC PC-8801mkⅡSR以降用として発売された『シャティー』ではそれまでとは一味違うドラマティックな楽曲を聴かせてくれた。『38万キロの虚空』では、更にそれまでに聞いた曲調とはまた異なるさらにムーディーで大人の雰囲気が滲み出た楽曲を聴かせてくれる。そして、楽曲ではないが、音という面では静寂や緊張感といった雰囲気の場面で無音を上手く使ったのもポイントが高いように思う。
彼自身、インタビューで「あの調子(ユーフォリーやヴァルナのような曲調)のを何百曲作ったって進歩がないと判断したのも理由の一つ」とOh!X 1991年7月号「対談・GMコンポーザー」で述べている。このことから変革の作品でもあったことは間違いないようだ。全ての楽曲は『38万キロの虚空』という物語、雰囲気を踏まえた見事な仕上がりだ。だからといって映画やドラマのBGMのように、曲だけで聞いたらなにか物足りないと思わせる作品ではない。曲だけでも素晴らしいが画面とシナリオを組み合わせると明かな相乗効果が得られる、が、出しゃばりすぎていないじっくり聞かせてくれる作品群だ。思わぬ別の一面で驚きとともに彼の未来を想像させてくれた作品であった。
ストーリー
西暦2049年、地球人口は増加の一途をたどり、まさに飽和状態をむかえていた。
増え続ける人口に対し居住可能土地面積は増えることはなく、超高層化された住宅施設にも限界があった。そして住環境以外にも、増大した人類の生活を支えるための資源の枯渇、自動化された産業構造の結果の失業者の増加など、地球はもはや閉鎖系の一環境の限界に達してしまったのである。
この状況を打破するために世界各国が共同で開始した事業、それが宇宙植民計画である。太陽系小惑星資源をもとに、アメリカが主導して開始されたこの計画は、地球人類を宇宙空間へ移住させ新たな社会構造を築こうというものであった。人口の居住空間 "宇宙植民島=スペースコロニー(SC)" を作り、地球の余剰人口を軌道上の無限の空間に住ませる。最終的には月への移住をも目標とするこの計画は、様々な難関を乗り越えながら一歩一歩進められてきた。
そして2049年、計画の最初の成果であるSCが遂に完成した。ストーリーはこのSCのオープンをめぐるサスペンスである。
プレイヤーはSC取材班の一員 "相場謙" となる。大手のテレネットの記者ではなく、"パブリックネット" ONNの記者である相場謙は、比較的自由な立場でこの取材に臨むことになる。
SC計画を推進するNSCAは、本当に人類すべての幸福のためにこの計画を進めているのだろうか? 本当にSCは安全な居住空間なのだろうか?反対派はなぜSCに反対するのだろうか? そして、彼らがSCのオープンを黙って見過ごしてしまうのだろうか?
地球からSCへの旅、SCの内部を巡る取材ツアーなど、相場謙は次々と自分の知らない世界を目の当たりにしてゆく。この計画についてはほとんど知識がない相場謙は、プレイヤーとおなじ程度の知識で取材に挑む。彼が見て感じるもの、それこそプレイヤーが感じるものなのである。
そして、この取材活動の中で、SCオープンを巡る陰謀の影が……
ストーリーはSCのオープニング・セレモニーをクライマックスにして、プレイヤーの行動によって様々な展開を見せる。SCに賛成するも反対するも、プレイヤー次第なのである。そして、それぞれの立場に応じて、まったく異なったストーリー展開が用意されているのである。
2049年の世界、相場謙の目を通して、じっくり楽しんでもらいたい。
多摩 豊
登場人物
出身:日本
生年月日:2016年7月21日
血液型:AB
ONNで、社会部記事を担当している事件記者。本編の主人公であり、SC1の取材中に、思いもよらぬ事件に巻き込まれていく。
出身:イギリス
生年月日:2016年1月18日
血液型:不明
ニューヨークに本社を持つ大手テレネット、ABCの人気キャスター。
批判的なニュースを得意とし、その東洋的な整った容姿も手伝って、アメリカ独身男性陣から圧倒的支持を得ており、彼らに対する影響力には並々ならぬものがある。
ステファンとの関係が、よく噂話にのぼるが…
出身:イギリス
生年月日:2014年6月16日
血液型:B
ONNの記者で、国際政治関係の記事を担当している。
宇宙植民計画には懐疑的であり、得手とする国際政治の視点から、疑惑を暴いていこうとするが…
温和な性格で、謙の良きアドバイザー。
出身:アメリカ
生年月日:2013年3月4日
血液型:AB
ONNでは、技術系の記事を担当している。
計画には賛成論を唱え、それを支える技術、システムには絶対の信頼をおいている。
宇宙工学についての造詣が深く、又コンピューター技術者としての腕前も、かなりのもの。
デレク・クロフォード
アメリカの第46代大統領で、初代NSCA会長。
その政策は一貫して宇宙植民を中心とする新しい地球経済の創成に向けられ、一見無謀とも思えるような施策の数数を強引に押し通してきたことから、アイアン・クロフォードとの異名を持つ。
トーマス・ドジスン
SC知事。
過去に汚職事件の矢面に立たされ、しばらくの間政界から遠ざかっていたが、今回NSCAブレインチームの強い推薦でSC知事に着任した。
レイズ・マークリー
元国務長官。
NSCAには計画初期より参加しており、ブレインチームの一員。
現役中、クロフォードの右腕として活躍し、その実力を買われて、NSCAでは総合経済管理部を担当している。
操作方法
*基本操作
マウスのみですべての操作を行う。
入力のキャンセル
データベース攻略の手引き
『38万キロの虚空』で唯一ダルいと思わせるポイントがここ。これは全プレイヤーの意見が一致する場面ではないかと思う。再プレイを面倒と思わせるシーンでもあるだろう。人物を調べてMEMOに転送して、関連性の有無を決めて…と何が正解か分からずさまよっていると物語が進行するシーン。実はあっさり突破できる攻略法がある。
短時間で済ませる攻略は次の通り。「WORLD-NETWORK」の項目にある「人物調査」でデレク・クロフォードを調べると「事項調査」にNBTとドジスン問題の2項目が追加される。更に「人物調査」で レイズ・マークリーを調べると「事項調査」にベーカー島問題が追加される。最初から存在するNSCAを含む合計4項目を開く。あとは「事件解決」を3度程ゴリ押しすればドワイトの反応は別として物語は進行するゾ!
しかし、あれだ。何にもしていないのに評価を変えてくる ドワイト、結構いい加減な男だ。
トリビア
X68000版のバグ1
X68000版はバグ?があり、第7章に発生する関連付け作業でMEMOに非登場人物のデータが転送されない(カイ・レイニングスなど)ため、ドワイトにいい評価を貰えない。PC-9801VM/UV以降版ではクロフォードなどの人物調査で関連人物の調査を行った際に『NSCA関係者リストに登録されていない』というメッセージが出るが、『データはメモパッドに転送されますので、ご利用ください』というメッセージと共に転送される。また、この関連人物の調査の際に、人物調査リストに本来加わるはずなのだが、X68000版では全く加わらないために関連性を付与できない。(PC-9801VM/UV 以降版では改善されている)。ただ、全ての関連付けを行った所で、「よく調べたな」と納得してくれるだけで、ゲーム進行に全く変化はない。非常に苦労させられるのと同時に、ここでエンディングの変化が現れると疑っていたのでガッカリしたものだ(登場人員80人全員の日付なども調べたりした)
関連付け自体は文章に記載されている物をメモしておく程度で難易度としては高くない。基本的に双方向性なので片方で関連性を有りにすればいい。
関連性有り
デレク・クロフォード × アルフ・ビンセント
デレク・クロフォード × レイズ・マークリー
デレク・クロフォード × ライネル・チェーホフ
デレク・クロフォード × リチャード・ウィルソン
デレク・クロフォード × リルアス・ワタナベ
デレク・クロフォード × トーマス・ドジスン
アルフ・ビンセント × マリー・ヘイドスン
マリー・ヘイドスン × ボブ・リップマン
レイズ・マークリー × トーマス・ドジスン
レイズ・マークリー × リルアス・ワタナベ
レイズ・マークリー × アンリ・フェルソニー
レイズ・マークリー × ボブ・リップマン
関連性有り
PC-9801VM/UV以降版は下記を含む(一方通行)
マイク・アルフェイン × アルフレッド・ジグバーン
カイ・レニングス × レイズ・マークリー
カイ・レニングス × トーマス・ドジスン
ドリア・インバー × トーマス・ドジスン
X68000版のバグ2
同じく第7章に発生する関連付け作業で「MEMO」のパーソナルファイルを開く時、稀にプログラム・エラーが発生する。この時に唯一聞けるBGMが「DEAR FRIENDS!」だ。CDにも収録されておらず誰が作曲者か今のところ判明していない。
もしかしたらバグではなくランダムに発生する意図的に用意されたイースターエッグ的なものかもしれない。発生してもフリーズや操作不能に陥ることはなく、落ち着いてメニューの最初へ戻ることにより復帰することができる。
表示されるメッセージ「リテ・ラトバリタ・ウルス アリアロス・バル・ネトリール」は 天空の城ラピュタ に登場したラピュタ語の引用で「我を助けよ、光よ甦れ」という意味。
シナリオの分岐によって聞けない曲がある
全28曲あるうちの数曲はシナリオの分岐によって聞けない曲がある。
曲名:SILENT CAUTION(使用場所:第2章, 第4章)
第2章で「イザベラに直接乗っ取りの話を尋ねる」を選択したときや、ステファンに「すべてを打ち明けて相談する」選択した時、乗っ取り方向で挑発的な記事を書いたときの第4章の開始時、イザベラと共に乗っ取りの手がかりを探る進行になっている時に聴くことができるBGMが「SILENT CAUTION」だ。
曲名:THE DEAL(使用場所:第4章)
曲名:LAST CHASE(使用場所:第4章)
乗っ取りに関して突っ込んだ記事を書くと第4章でイザベラが近づいてきて尋問が始まる。その時に使用されるBGMが「THE DEAL」。そして、その流れのまま犯人を追い詰めるシーンで流れるBGMが「LAST CHASE」だ。
曲名:OVER THE SKY(使用場所:第4章)
第2章で乗っ取りの記事に関して何も書かず、特に何の問題も起こさず無難な状態で進めると第4章では見学ルートとなりSCの内側を見渡す展望窓のシーンで「OVER THE SKY」が流れる。ただし、裏で事件が発生する真相は見えない。
曲名:LOOK OUT!(使用場所:第4章)
フラグが厳しく一番聴くのが難しい曲。プレイヤーによっては知られていないであろう最も緊迫感のあるシーンで流れる。
メモのをする選択肢で「批判的立場で」を多く選択し相場を反対派へと導く。加えて2章の後半にある選択肢で「世論を使って廃止に追い込みたい」を選択(この選択肢が出ない場合は反対派になっていない)。加えて記事内容の選択肢では「感じたままを記事にする」を選択する。そうすることで、第4章の開始が他のルートと全く異なる展開でスタートし、このBGMが流れるストーリーが始まる。
1FILE なのか FILE1 なのか
『38万キロの虚空』のシリーズタイトル「A DAY IN THE LIFE OF 2049(2049年のある1日)」。そのロゴに記載されている「1FILE」とも読める文字。「FILE1」をデザイン上で見て収まり良く描いたものなのか、そうでないのか疑問に思う人がいるかもしれない。(多分いない)
その答えは製品のフロッピーディスクラベルにある。
ご覧の通りだ。正解は「FILE1」である。
PC-9801シリーズ版に加えられた第1章日付の矛盾
X68000版では第1章のタイトル表記はなくいきなりストーリーが始まる。そのため、出発した日であったりタイトルが第1章のみ不明であった。その改善のためかPC-9801VM/UV以降版には「第1章 宇宙への序曲」というタイトルと「AD2049 Sep.15」という日付が明確になった。
しかし、ちょっと待ってほしい。軌道エレベータで静止軌道まででもおよそ15時間。静止軌道からシャトルに乗り換えるという行為と時間を忘れていやしないだろうか。その時間はおよそ3日かかるのだ。逆算するとどう考えてもおかしい。というわけで、移植で付け加える際にその概念を忘れていたのであろう。多摩豊の設定は細かく行われているのである。
CDのライナーノーツから曲解説
THE FAR PLACE
オープニングの曲です。ゆっくりとした重苦しい出だしは、少々、現代曲風でもあります。SF映画のオープニングのような壮大な雰囲気を出すように努力しましたが、いかがなものでしょう?
THE DEAL
ベースが主役のこの曲は、僕がMT32で初めて作った曲でもあります。ジャズを意識して作りました。その辺の予備知識が全くない状態で作ったわりには、ソレっぽく聴こえているのでは?
MEMORIAL GLIDE
少し前、こんな感じの曲がテレビで流れていたなあ…と思いつつ、作ったのがこの曲です。時間があれば、メロディとか、もっと人間臭さを出したかったんですが…。
SNAPPY TIME
この曲、聴きようによっては、飲み屋で流れる演歌に聴こえてしまうのが困り物です。でも、一応、こういう親しみやすいメロディが好きなので、あまり気にしてはいませんが…。
TWIRLY STEP
この5拍子を聴くと、「あ、アレに似ている」と思う方がいらっしゃるでしょう。まさしく、その通りです。できれば、もっと肉付けしたかったんですが、凝り始めるとキリがないのが悪いクセなのでやめました。
A LAZY NIGHT
この曲は、何も考えずに思い付いた音符をただひたすら楽譜に置いたら出来てしまった記憶があります。実は結構気に入ってたりします。アコースティックベースに、かなり高い音域を演奏させるのは個人的趣味なんですが、どんなものでしょうか?
LOOK OUT!
ゲーム中、スリリングな場面で使われる曲です。その場を盛り上げるための "BGM" としても、そして単体の "曲" としても充実した曲を作るのは、つくづく難しいと思ってしまいます。
LOST TRUTH
一貫して、BGM的に作った曲です。ゲーム中聴くといい雰囲気なんですが、曲だけ聴くと、ちょっとなぁ…って感じです。
A boundless universe.
地上から宇宙にむけてそびえ立つ、3万8千キロメートルもの巨大な建造物「軌道エレベータ」。この曲は、その建造物のためのテーマです。「MT32だけで、よくここまで厚い音が出るなぁ」とよく言われますが、たんにストリングスの音を一度に何重和音も出しているだけだったりします。
The advent of...!
同じフレーズを、 くり返すだけの曲ですが、このような単純な曲ほどシナリオにマッチするように思えるのは僕だけでしょうか?作るのはすごく楽なんですけどね。
In the aroma od tea.
この曲は、トリルを再現するのが大変でした。機械の演奏するトリルって、どうしてこんなに硬いのでしょう??「新しい試み」としては、よく出来ているとは思いますが…。
STARDUST DANCING
「38万キロの虚空」の曲の中では、わりと気に入っている曲です。このメロディは、会社の帰りに、電車の中で思い付きました。家まで覚えて帰るのが大変でした。今回アレンジバージョンでは、雰囲気がガラリと違う出来になっています。
SUNDAY PRATTLE
おそらく、このアルバムの中で一番明るい曲でしょう。以前、「斉藤さんの曲は、明るい曲の中にも、どこか悲しいものがある」という、一般の方からの感想があったんですが、みなさんどう思いますでしょうか?(目一杯明るく作ったつもりです)
PEACEFUL TIME
この曲に限ったことではありませんが、装飾音が、キツいですねー。ステージの上にミュージシャンが何人かいて演奏している光景を思い浮かべながら作りました。
SHOWERING SUNSHINE
ゆったりした、安心感のある曲を目指しましたが、いかがなものでしょう。一部には、テンションの使いすぎだという意見もありますが…。
IN THE MORNING LIGHT
「スキー場のペンションの雰囲気だ」という意見がある曲です。そういわれてみればそうですね。ゲーム中数少ない、安心感のある場面で使われた曲なので、いいんじゃないでしょうか。
IN THE GLIDE
深刻な曲であります。終始響く 音にのせて、メロディ、内声ともに下へ下へと下り続けます。ストーリー後半でよく使われた曲です。
OVER THE SKY
宇宙空間に浮かぶ巨大なコロニー。その中を展望した時の曲です。とてつもなく巨大な空間をイメージ…にしようにも、実際には体験したことないんで、結構難しいものです。
SILENT CAUTION
シナリオ上、どうしてもこのような深刻な曲が多くなってしまって…。実際にゲームをプレイすれば、おのずと納得のいく曲です。
Here's your CHANCE !
短い時間で作ったわりには評判が良かったのがこの曲です。曲そのものの時間も短いんですが…。メロディを前半は小刻みに、後半はおおざっぱにすることでコントラストをつけました。
MOONLIGHT REQUIEM
聴いてお分かりの通り、オープニングのモティーフを引用しています。人物が殺された場合に使われます。特に凝った技法は使っていませんが、雰囲気が気に入っています。
A PACK OF CIGARETTES
一応、一番気に入っている曲です。結構、ザッと作ったんですが、意外とよく出来たと思います。ゲーム中は、「推理モード」という、主人公が今までの出来事を回想し、事件を推理する場面で使われています。
FORGOTTEN MEMORY
ピアノソロを意識して作りました。しかし、とても本物にはかなわないので、とりあえず、雰囲気だけですが…。腕に自身のある方は、ご自分で弾いてみてはいかがでしょうか。
LAST CHANCE
非常に短い、ゲーム中ワンポイント的に使われる曲ですが、ないと結構困る曲です。ためしに、ドラムの音を2つ重ねています。
WHO DID IT?
この曲も、オープニングもモティーフを使っています。問いかけるような感じを出すように努力しましたが、どうでしょうか?ゲーム中では、犯人を…おっと、まだプレイしていない人のために言わないでおきましょう。
IN A LEAFY SHADE
エンディングの一歩手前で演奏される曲です。このモティーフは、そのまま次のエンディングの曲へと導かれます。
A DAY IN THE LIFE
エンディングで流れる曲です。オープニング同様、シンフォニックな感じを出してみました。MT32のみでは結構厳しい感じですが、アレンジバージョンを聴けば、何がやりたかったか分かっていただけると思います。ちなみに、クラシック音楽に興味のある方はこの曲を聴いたあとラヴェル作曲の「左手のためのピアノ協奏曲」を聴いてみて下さい。
TRACK LIST
ラジオ収録曲(MIDI音源)
01 THE FAR PLACE (オープニング)
02 A boundless universe. (プロローグ)
03 TWIRLY STEP (最高の記事)
04 STARDUST DANCING (輸送用エレベータ)
05 SUNDAY PRATTLE (ラウンジ)
06 MEMORIAL GLIDE (シャトルへの搭乗)
07 IN THE GLIDE (宇宙開発への道のり)
08 In the aroma of tea. (取材)
09 A LAZY NIGHT (SC1の技術)
10 The advent of...! (保安上の処置)
11 SNAPPY TIME (SC1への到着)
12 IN THE MORNING LIGHT (新しい楽園)
13 SHOWERING SUNSHINE (理想郷)
14 LOST TRUTH (1通のメール)
15 SILENT CAUTION (隠された真実)
16 PEACEFUL TIME (SC1の施設見学)
17 LOOK OUT! (突然の警報)
18 THE DEAL (尋問)
19 LAST CHASE (真犯人)
20 OVER THE SKY (SC内空)
21 MOONLIGHT REQUIEM (死者の安息)
22 Here's your CHANCE! (真実の軌跡)
23 A PACK OF CIGARETTES (関連性のパズル)
24 DEAR FRIENDS! (バグ発生)
25 WHO DID IT? (推理)
26 FORGOTTEN MEMORY (モノトーンの真実)
27 IN A LEAFY SHADE -SUNBEAMS- (メールフレンド)
28 A DAY IN THE LIFE (スタッフロール)
CDとは異なりゲームの進行通りにソートしている。
合計時間 : 35:42
作曲 : 斎藤学(1~23,25~28), 24は不明
編曲 : 斎藤学, (染谷邦裕?)
DISCOGRAPHY
38万キロの虚空/
サコムサウンドチームLUI
発売日: 1990年7月11日
価格: 2,530円(税込)
商品番号: TOCT-5725
販売元: EMIミュージック・ジャパン
収録曲
01 THE FAR PLACE
02 STARDUST DANCING
03 A PACK OF CIGARETTES
04 A DAY IN THE LIFE
05 THE FAR PLACE
06 THE DEAL
07 MEMORIAL GLIDE
08 SNAPPY TIME
09 TWIRLY STEP
10 A LAZY NIGHT
11 LOOK OUT !
12 LOST TRUTH
13 A boundless universe.
14 the advent of...!
15 In the aroma of tea.
16 STARDUST DANCING
17 SUNDAY PRATTLE
18 PEACEFUL TIME
19 SHOWERING SUNSHINE
20 IN THE MORNING LIGHT
21 IN THE GLIDE
22 OVER THE SKY
23 SILENT CAUTION
24 Here's your CHANCE !
25 MOONLIGHT REQUIEM
26 A PACK OF CIGARETTES
27 FORGOTTEN MEMORY
28 LAST CHASE
29 WHO DID IT?
30 IN A LEAFY SHADE
31 A DAY IN THE LIFE
エンディングムービー
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