SPACE SIMULATION WAR
ディーヴァ【STORY7・終章 カリ・ユガの光輝】
対応機種 : NEC PC-9801VM/UVシリーズ
メディア :
5inch 2HD /
3.5inch 2HD (各1枚)
定価 : 7,800円
発売日 : 1988年3月上旬(発売予定1987年春→夏→未定→12月中旬→1月15日から延期)
販売元 : ティーアンドイーソフト
○要640ドットx400ラインの高解像度ディスプレイ
○要2HDディスクドライブ2基
○FM音源対応
○マウス対応
○要ブランクディスケット1枚
SCREENSHOTS
PACKAGE REPRODUCTION
『ディーヴァ』PC-98版について
『ディーヴァ(DAIVA)カリ・ユガの光輝』はティーアンドイーソフトによって開発され1988年3月に発売されたスペース・シミュレーション・ウォーゲーム。本来は1987年春に発売予定であったが大幅な延期での発売となった。
『ディーヴァ』は家庭用ゲーム機である任天堂ファミリーコンピュータを含む合計7機種使って計画された同一世界を使ったゲームだ。発表当初はこの『カリ・ユガの光輝』のみ機種が非公開とされていた。
ゲームデザイン・シナリオは 吉川泰生(Yasuo Yoshikawa)さん。メインプログラムは富士通 FM77AV版も担当した太田真一(Shinichi Ota)さんが担当。
ディーヴァ人物相関図
アクショー・ビア
ストーリー5ソーマの杯
for MSX2
アクショーは惑星ファンスル、スーラ族の牢獄にて屍と化していたアモーガを蘇生させる。
アモーガ・シッディ
ストーリー3
ニルヴァーナの試練
for X1
アモーガは惑星
アルジェナ消失
の鍵を握るラテ
ィーを追ってい
た。
プルシャ
アモーガの叔父が
プルシャである。
プルシャは黄金帝
マヌの側近だった。
黄金帝マヌ
ア・ミターバ
ストーリー2ドゥルガーの記憶
for FM77AV
ア・ミターバの妻サ
ティーはシヴァ・ル
ドラにさらわれ、殺
される。
サティー
ア・ミターバは妻をマータリにさ
らわれたものと勘違いし、マータ
リを追い続け、惑星マトゥラー付
近にて会う。
シヴァ・ルドラ
ラティー
アクショーは助手とし
て雇っていたラティー
にソーマを盗まれ、彼
女を追う。
ラトナ・サンバ
ストーリー4
アスラの血流
for MSX
ラトナは親友ラーヴ
ァナに裏切られ、そ
の真相究明のため、
ラーヴァナを追う。
ラトナは、アモーガの率いる艦
隊のエースパイロットだった。
マータリ・シュバン
ストーリー6ナ―サティアの玉座
for Famiry Computer
クリシュナは闇の市
場にてマータリから
鉱石船一隻を買う。
クリシュナ・シャーク
ストーリー7
カリ・ユガの光輝
for PC-9801
クリシュナは傷ついた
ルシャナの艦隊を修理
し、ヴリトラ迎撃用の
OM砲を与える。
ルシャナ・パティー
ストーリー1ヴリトラの炎
for PC-8801mkⅡSR
ルシャナは、惑星トラントラ
ンにてリュカーン教に捕われ
の身となっていたラトナを救
う。
ラーナ
ルシャナの婚約者ラ
ーナは惑星ベレナス
にてヴリトラに襲わ
れ死亡。
STORY プロローグ -流点-
インドゥーラ帝国主星、惑星アルジェナ………
淡い乳白色の光を海の上に映し、虚空に二つの月が現れる。
黄昏にあたりは燈色に染まり、闇は徐々にその波動を強めてゆく。
都市を見下ろして建つ、巨大な塔………ストゥーバ
その中腹から枝のように突き出した空中庭園に、一人の老人がたたずんでいる。
老いて白髪となった彼の頭には、王家の印である黄金の帯が巻かれていた。
「たった三日、たった三日で、わしにどうしろというのだ。」
老人は、悲しみと憤りの入り混じった言葉をはきだした。
「我がアルジェナの民、二十億を救う術はもう残されてはいない。ならば、このまま何も知らないまま滅びたほうが、彼らにとって幸せなのか………。」
闇はいつのまにか、悲痛な風音を響かせている。
老人の眼は、足元で眩い光を放つ都市から海へ、そして暗く閉ざされた空へと移された。
「陛下、脱出の用意が………、お早く。」
老人の背後に、従者らしき男が現れて声をかける。
視線を虚空に向けたまま、老人は従者に語りかけた。
「のお、プルシャよ。」
「はっ、なんでございますでしょうか。」
「おぬしは、神を………魔神をみたことがあるか?」
「神………ですか?」
プルシャと呼ばれた従者は、怪げんそうに尋ねた。
「そうだ。神だ。」
「いえ、わたくしは神も魔神も見たことはございません。それが………何か。」
「そうか………見たことはないか………そうだな。」
老人はそれだけ言うと、眼を閉じて深く息を吐き出してから振り返り、そのまま塔の中へ歩いていった。
マウトレーア歴3721年。一筋の閃光とともに一つの惑星が銀河から姿を消した。
そして………すべては惑星アルジェナ、謎の消失から始まった………………
マウトレーア歴3722年。ヴィシュヌ銀河には、かつての繁栄の姿は微塵もなかった。そこにあるものは、絶望と悲しみと、うす暗い復讐の炎。
四千年もの永きに渡って銀河に君臨してきたインドゥーラ帝国は、その主星アルジェナの消滅と黄金帝マヌの暗殺により、その高度な文明とともに終がくを迎えた。帝国の各植民星も同じく、主星消滅の動揺によって反乱が勃発し………滅びた。
残された人々は、この荒廃の影に潜む破壊者の姿を見た。
シヴァ・ルドラ………元帝国宇宙軍総司令。
STORY7 for PC-9801 ■カリ・ユガの光輝〈クリシュナ・シャーク〉
記憶を失うということは、どんなにはがゆくそして苦しいことであろうか。それは、その当事者にしか解らない苦悩であろう。"クリシュナ・シャーク" もその苦悩を持ち合わせる一人だった。そして、更にひどいことに、彼の記憶は断片的に失われていた。もちろん、出生そして両親の記憶も一切無く、天涯孤独の身であった。ただ、彼にとって幸いであったのは、彼が一艦隊の総司令官であったということだろう。それも、帝国に属していない、彼の意のままになる艦隊である。ときおり、彼は側近に自分のことを尋ねるが、彼らの返答はいつもありふれたものであり、不安げな顔を見るにつれてそれ以上の質問をやめてしまう。
クリシュナは、物資の補給は総て闇の市場にて行っていた。ある時、彼は闇の市場にて、"マータリ・シュバン" という海賊から、帝国の鉱石船一隻をまるごと買い受けた。しかしその鉱石船には、通常のγ2タイプではなくγ3タイプの、超高密度に加工された鉱石が搭載されていた。そして、船内に置き去りにされていた膨大な資料の中から、恐るべき情報を発見する。
シヴァ・ルドラは、惑星をも破壊可能な巨大な人工有機体 "ヴリトラ" を完成させていた………。正確には未だ実験段階の域は出てはいないが………最初に作られたヴリトラは、惑星アルジェナに送り込まれるが、そのエネルギー源の不安定さから細胞の異常増殖をきたし、本来の形状を形造る以前に、惑星アルジェナと共に消滅してしまう。しかし、新しく作られたヴリトラは、エネルギー源にγ3タイプを使用することによって、目的とする形状………巨大な黒竜………と破壊力を達成していた。シヴァ・ルドラは実験惑星にベレナスを選び、その辺境の地へヴリトラを向かわせていた。そしてこの実験の結果如何によって、新たなるヴリトラを製造すべく、そのエネルギー確保のため、鉱石惑星マトゥラーの全域にて、γ3の採掘を始めていた。
この事実を知ったクリシュナは、ただちにOM砲の改造にとりかかった。OM砲のエネルギー源をγ3タイプに対応させることによって、その破壊力を増大させ、ヴリトラ迎撃用として作りかえた。そして、惑星ベレナスへと急いだ…………
そこには、無数の小片が何十万kmにも渡って漂っていた。時既に遅く、惑星ベレナスはヴリトラによって、その原型を失っていた。惑星アルジェナと同じく、一瞬にして何十億もの人々が命を失い、宇宙は無数のうめき声に満ちていた。
クリシュナは唖然としてその光景を見つめていたが、その中に徐々に接近してくる小艦隊があった。その艦隊の長は、"ルシャナ・パティー" という人物であった。彼は惑星ベレナスにおいて、その星系の司政官を務めていたが、この悲劇の直前に惑星を脱出し、難を逃れていた。そして、傷ついた艦隊を引き連れ、ヴリトラへの復讐を誓っていた。クリシュナは補修船にて、ルシャナの艦隊を修理し、彼の艦に改造を施したOM砲一門を装着した。クリシュナは、ルシャナにヴリトラの抹殺を託し、その場を後にした……………
"カリ・ユガ" ………主無き暗黒の時代………主星を失い廃退の道をたどるかつてのインドゥーラ帝国。まるで悪魔に魅せられたかのように、戦乱の嵐が吹き荒れるヴィシュヌ銀河。人々は帝国の崩壊を予感し、いつしかこう呼び始めていた。そして、救世主の出現を待ち望んだ。数千年前、インドゥーラ帝国勃興の際、銀河を埋め尽くした奇跡の光。伝説が再び現実のものとなることを信じる以外、なすすべはなかった。
"クリシュナ・シャーク" ………4千年を溯る記憶。奇跡を持たらした救世主。
「ばかな!!、おれに4千年もの前の記憶があるはずがない」
「あったとすれば、おれはいったい何歳なんだ!!」
「たまに記憶が戻ったと思ったら、訳のわからん幻覚か。」
クリシュナは、最近徐々に記憶を取り戻しつつあった。しかし、それが本当の記憶なのか単なる幻覚なのかは、彼には判断がつかなかった。もし、本物の記憶だとすれば、それは時代を超越したものである……… "輪廻" 、恒星間航行をも可能とする時代においては、まったく非科学的な言葉。
………赤と青に輝く二つの星。宇宙と生命創造の星。
「冗談じゃない。こんどは、何百億年前の記憶なんだ。」
………赤い影を切り裂く群衆の光輝。
記憶は、せきをきったようにあふれ出し、そしていつしか彼の記憶の大半を占めるまでに至った。クリシュナには、既に、この時空を越えた理解しがたい記憶を辿り、結びつけようとする努力は必要なかった。それが如何に理不尽であろうと、確かに彼の記憶として存在するのだから……………
クリシュナは、ナーサティア双惑星を目指した………子供の頃から彼の記憶に存在する星、その道程さえも鮮明に残っている。
「どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。」
「おれの記憶の総ては………あそこにある。」
クリシュナはつぶやいた。
TRACK LIST
ラジオ収録曲(FM音源+SSG)
音源チップ:YAMAHA YM2203(OPN)
01 Light of KARI-YUGA [オープニング]
02 DAIVA I [スタッフロール]
合計時間 : 2:39
作曲 : 浅倉大介
編曲 : 冨田茂
DISCOGRAPHY
ディーヴァ/浅倉大介
発売日: 1987年3月4日
価格: 3,000円
商品番号: CA30-1399
販売元: 東芝EMI
収録曲
01 ディーヴァI
02 ヴリトラの炎
03 ナーサティア・ドライブI
04 ニルヴァーナの試練
05 アスラの血流
06 ドライビング・アーマーI
07 ナーサティアの玉座I
08 ソーマの杯
09 フリート・バトル
10 ドゥルガーの記憶
11 ナーサティア・ドライブⅡ
12 ディーヴァ・リプリーズ~
13 ドライビング・アーマーⅡ
14 ナーサティアの玉座Ⅱ
15 神々の星
16 ディーヴァⅡ
発売日に関して
出典:マイコンベーシックマガジン 昭和63年4月号
T&E PRESS番外編
当時の広告
エンディングムービー
■ST0RY ナ―サティア双惑星
ナ―サティア双惑星………赤と青の二つの星から成る謎の双惑星。過去何億年にも渡って人々の往来を拒み続けてきた禁断の惑星。そして、時を同じくして7人の男達が、まるで何者かに導かれるかのように、このナーサティア双惑星を目指していた。
ルシャナとラトナは、ロングセンサースクリーンに映る赤と青の点を見つめていた。二つの点は次第に大きさを増し、そのラグランジュ点(二つの惑星の動力均衡点)に向かって赤と青の帯が伸びているのが、確認できるまでになった。二人はどちらの惑星を目指すのか決めかね、とりあえずラグランジュ点に艦隊を向かわせた。このような考えをいだいたのは、彼らだけではなかった。ア・ミターバ、マータリ、クリシュナ、そしてアモーガとアクショーも、同様にラグランジュ点を目指していた。
全く奇怪なできごとであった。同時に5つもの艦隊が遭遇するなど、誰しも予想しえなかった。ラトナはアモーガとの再会を喜び、他の者達もこの偶然について話し合った。突然クリシュナが言った。
「たぶん、おれが………、おれがあなたたちを呼んだ………。」
あっけにとられる6人を尻目に、クリシュナは続けた。
「理由も解からないし、どのようにして呼んだのかさえ覚えていないが……確かにおれがここへ導いた。」
「どうしてそんな………」
ラトナがつぶやいた瞬間、かすかな振動と共に警告音が響き渡った。各艦のセンサーは正確に赤い惑星を指していた。
「ヴリトラだっ!!」
クリシュナが叫んだ。
「ばかな!!。こんなに早く作れるわけがない。」
鉱石惑星マトゥラーを壊滅状態に追いやったマータリは、信じられない声をあげた。
しかし、確かにそれはヴリトラだった。それも体長数十kmにも巨大化した3体のヴリトラが赤い惑星をバックに青白く浮き上がっていた。そして、その半透明の体を通して、無数とも思われる大艦隊が確認できた………
「おれに続いてくれ。おれの艦のOM砲は総てγ3タイプを使っている。すぐにあの化物を吹き飛ばしてやる。」
クリシュナは言い終わると、艦首をヴリトラに向け突っ込んでいった。
クリシュナの艦は、ヴリトラから伝わってくる超波動に震えながらも、徐々にその距離を詰めていった。そして計5門のOM砲がいっせいに火を吹いた。青白い放電光に包まれる化物と、幾筋もの光の矢が交錯し、クリシュナの視界は白一色に覆われた。すぐにもとの視界を取り戻すが、なにごともなかったように、3体のヴリトラが蠢いていた。
「ふっ。愚かなやつ。そのヴリトラはアスラによって命を吹き込まれた。そんなことさえ解からぬとは………。」
声の主はシヴァ・ルドラだった。そして、確かにヴリトラは以前のものと異なっていた。青白い放電光に包まれながらも、その中身は赤黒い影によって形造られていた。
「それにしても目ざわりですね。私はあなた達と遊んでいる暇などないんですよ。」
「ヴリトラよ。この邪魔なごみどもを、早く掃除しなさい。」
シヴァ・ルドラの目標は彼ら7人ではなかった。過去何百億年、いや双惑星がここに存在した時から、僅か数十万kmの距離にありながら、アスラが一度も侵すことのなかった惑星………青の惑星。今、シヴァ・ルドラは初めてその星域に足踏み入れようとしていた。
距離を詰めすぎたクリシュナは、避ける間もなくヴリトラに呑込まれ、しばらくして通信は途絶えた。
「このままじゃ、おれたちもやられる。回り込んでやつらの艦隊に突っ込むぞ!!。やつらの艦隊の中で入り乱れて闘えば、あのでかぶつも攻撃できないからな。」
マータリの声だった。そしてそれはいかにも海賊らしい戦法だった。
艦隊はどうにかヴリトラを避け、シヴァ・ルドラの大艦隊へ突入していった。
しかしヴリトラの脅威から逃れはしたものの、圧倒的大多数のシヴァ・ルドラの艦隊を相手に、劣勢は免れなかった。
「こうなったら、中からたたき潰すしかないな。」
ラトナは高速艇に乗り込み、シヴァ・ルドラの艦を目指した。そして、ア・ミターバの機とともにシヴァ・ルドラの艦の排出口への侵入に成功した。しかし、二人は捕えられそして、シヴァ・ルドラのところへ連れていかれた。
部屋は、外の壮絶な戦闘とは全く関わりのないように、静かだった。
二人の前には、シヴァ・ルドラが、幾つかの計器らしきものを備えた銀色のソファーに深く腰をおろしていた。冠をとったシヴァ・ルドラは、二人が想像していたより若く、長く伸びた髪は赤く光っていた。
「ア・ミターバとやら、またお会いすることになるとは思っていませんでしたよ。それも、お友達までご一緒とは。」
「シヴァ・ルドラは、おもしろいものを見るように二人を眺めた。」
「所詮、ディーヴァの造った下等な生物。われらアスラには及びもせんか。」
右手で赤い髪をかきあげながら、シヴァ・ルドラは腰を上げ、二人に向かってゆっくりと歩きだした。ア・ミターバの前で立ち止まると、燐光がその奥でちろちろと燃える眼を細めて、シヴァ・ルドラは陰湿な笑みを浮かべた。
「そういえばあなた、ひとつ大変な誤解をしている。」
「何を………だ。」
「あなたは妻を私に奪われたと、おっしゃっていたでしょう。」
「そうだ、おまえはサティーを2年前おれの前からさらった。」
「でも、その女がもともと私の妻だったとしたら………いかがですか。」
シヴァ・ルドラは楽しそうに言った。
「そんな馬鹿なことが、あるわけない。」
「ところが本当なのですよ。"あれ" は、私がこの醜いディーヴァの姿をしているときの妻………もちろんあの為にだけ造られた "もの" だったのですがね。ところが、私が目を離した隙に逃げ出して、いつのまにやら涼しい顔をして、あなたのものになっていたというわけです。」
確かにア・ミターバは彼女の過去を知らなかった。だが、それは彼女に始めて出会った時、すでに彼女は記憶を失っていたのだ。
「誰が………そんなでまかせを信じるものか。おまえは惑星マトウラーでサティーを殺した………俺の目の前で。いくら裏切られたとはいえ、かつて愛した女をあんなに簡単に殺せるはずが………ないだろうが。」
ア・ミターバは明らかに動揺していた。
「愛した………ですって!。"愛" 、なんと陳腐な響き、なんと不浄な言葉。あなたがたディーヴァに仕える者は、どこまで愚かしいんでしょうか。"愛" などとは偽りの感情、ディーヴァがあなたがたを拘束するための足かせなのですよ。」
シヴァ・ルドラはわざと大袈裟に叫んだ。
「………………。」
ア・ミターバは返す言葉がなかった。ラトナも黙ってことの成行きを見つめていた。
「しかたありませんね。それでは、あなたにおもしろいものをお見せしましょう。さあドゥルガー、こちらへおいで。」
シヴァ・ルドラが声をかけた方向に人影が動いた。ア・ミターバは息を呑んだ。そこにはサティーが、死んだはずの妻がそこに立っていた………
「サティー、生きていたのか。」
かすれた声が、ア・ミターバの口から洩れた。
「"これ" はね………あなたのいうサティーじゃないんですよ。"あれ" と同じ人工有機体なんですよ。もっとも、まだ "これ" は処女でして………。どうですか、あちらのほうも同じかどうか、お試しになり………げふっ。」
いきなり、どす黒い血がシヴァ・ルドラの口からあふれ、白いスーツの胸を赤く染めた。その胸には、大きな穴がぽっかりと開いていた。シヴァ・ルドラは、とても信じられないとてもいった顔つきで、鮮血に染まった自分の手を見つめ、突然悪魔の形相に変わり、後ろを振り返った。
そこには、OMブラスターを手にしたドゥルガーが立ちすくんでいた。
「ま………、まさかおまえが、私を………。」
シヴァ・ルドラは口からあふれでる血液にむせ、胸にあいた穴からひゅうひゅうと音を鳴らせて言葉を吐き出すと、その場に倒れこんだ。そして、その容姿はみるみるうちに崩れてゆき、赤黒き影となって部屋から消えていった。
「わたしはドゥルガー………。いえ、サティー………、わからない。遠い……記憶が、あります。」
信じられない出来事が起こりつつあった。ドゥルガーにはサティーの記憶が宿り始めていた。
ラトナとア・ミターバは彼女を連れ、シヴァ・ルドラの艦を後にした。暫くして艦は、二人が動力源に仕掛けた爆薬によって、大爆発を誘発した。それを機に、アモーガ達は攻勢に転じたが、その時シヴァ・ルドラの声が響き渡った。
「醜いディーヴァの肉体など失っても、どうってことはない。今こそアスラは一つになる。そろそろ終わりにしよう。」
戦場は巨大な赤黒い影に覆いつくされていた。そして、ヴリトラは敵味方関係なく、艦を呑み込み始めた。ヴリトラから逃げ惑ううちに、戦場は青の惑星の大気圏近くまで移動していた。そしてついに戦場を失ったマータリの艦に、さきほどクリシュナの艦を呑み込んだヴリトラの、数kmに及ぶ巨大な口が迫ってきた。ヴリトラから発せられる強力な超波動によって、マータリの艦はきしみ、今にも分解を始めそうな轟音に包まれていた。
しかし次の瞬間、吹き飛んだのはヴリトラのほうであった。そして巨大な青い影が現れ、赤黒い影を徐々に侵食し始めた。
「しまった!」
アスラの声が、一瞬宇宙空間に響き渡ったかと思うと、目もくらむようなすさまじい光が空間を覆い、ヴィシュヌ銀河を閃光が駆け巡った。それは、わずか数秒の出来事であったが、閃光の去った後、宇宙は平穏を取り戻していた。艦隊は動きを止め、残り2体のヴリトラは姿を消していた。ヴィシュヌ銀河全域においても数十万の人間が消えた………アスラの宿っていた者達である。
スクリーンには、ヴリトラに呑み込まれ、死んだと思われていたクリシュナの顔があった。
「私の星………、青の惑星で待っています。総てをお話します………。」
クリシュナの導きによって6人は、青の惑星へと降下していった。
■ST0RY エピローグ ⎯神々の星⎯
青の惑星………なんて心地よいところだろう。まるで、遠い昔、母の温かい胸に抱かれていたかのような、懐かしい感触が6人を包んでいた。
目の前には小さな美しい神殿があった。そしてその中央に、クリシュナがたたずんでいた。
「よかった。やっぱり生きていたのか。」
6人は口を揃えていった。
「心配してくれて、ありがとう。でも私は皆さんにあやまらなければなりません。」
クリシュナの顔からは、記憶の喪失による苦痛は消えうせ、実にすがすがしい笑みをうかべていた。それは、彼が男であるにもかかわらず、まるで女神であるかのような素晴らしい表情だった。
クリシュナは言葉を続けた。
「私がヴリトラに呑み込まれた時、総ての記憶が明白になりました。」
「私はディーヴァ。貴方がたが神と呼んでいる者です。そして、アスラは悪魔と呼ばれているんでしょ?」
6人は疑うということを忘れて、黙って聴きいっていた。
「この銀河が形成される前、ここにあったのはアスラの支配する赤い星と、ディーヴァの支配する青い星だけでした。」
「そして、アスラとディーヴァの争いの結果として、このヴィシュヌ銀河が生まれました。それ以来も、幾度となく争いが起こり、その度に私………私たちディーヴァは勝利をおさめてきました。」
「でもそれは、いつも私たちの子供………貴方がたの力によるものではなく、ディーヴァの力によるものでした。」
「こんどは、子供達だけの手で闘ってほしいと思い、貴方がたをここへ導きました。ごめんなさい。でも結果………私たちが救われることになりました。」
「まさか、アスラが私たちの星域に攻めいってくるとは思ってもいませんでした。アスラは実体化していたにもかかわらず、私たちの星域に深く入り込んでいるのを忘れていました。」
「ディーヴァとアスラは、その実態において、決してお互いの星域を侵すことはできません。あそこでアスラを倒すのは容易なことでした。」
「ところでア・ミターバ。人口有機体も立派な人間だと思いませんか。」
「はいっ。」
ア・ミターバは、やけに賢まって答えた。
「ありがとう。かわいがってあげてください。ドゥルガー、いえサティーも、私たちにとっては、孫のようなものです。」
「それと………、マータリ。約束どおり、新しい皇帝を努めて下さい。」
「これはおもしろい。昨日の海賊が明日の皇帝か。神様も粋なことをするもんだ。」
ラトナは、ふきだした。
クリシュナ、いやディーヴァは笑みを残しながら、そして静かに姿を消した。
銀河は………、新しい時代に向けて動き始めていた………………
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