Ancient Ys Vanished Omen
イース
対応機種 : NEC PC-8801mkⅡSR以降
メディア : 5inch 2D (2枚)
定価 : 7,800円
発売日 : 1987年6月21日
販売 : 日本ファルコム
○FM音源対応
○ジョイスティック対応
○1ドライブ対応
○ユーザーディスク作成にブランクディスクが1枚必要
数字ボタンを選択すると動画再生
店頭デモ
通常オープニング
目次
イース for PC-8801mkⅡSR
※マニュアル抜粋
PACKAGE REPRODUCTION
スーパーRPGの集大成!
「ザナドゥ」 「ロマンシア」に続く
スーパーRPGの集大成!
数々の謎の間から見え隠れする古文書「イース」とは・・・・・?
『イース』(PC-88SR版)について
◆『イース』(PC-88SR版)概要
『イース』(Ys)は日本ファルコムが開発し、NEC PC-8801mkⅡSR以降版をオリジナルとして1987年6月21日に発売したロールプレイングゲーム。フロッピーディスクドライブは1ドライブに対応しているので、SRやFRのmodel20でドライブを増設していなくてもプレイ可能だ。セーブのためにはブランクディスクを1枚用意する必要がある。ただし、1枚につき1カ所しか保存できないので注意だ。
PC-8801シリーズmkⅡSR以降版の発売を皮切りに7月25日には SHARP X1シリーズ版が発売。8月28日にはNEC PC-9801シリーズ版、10月6日には富士通 FM77AV版が発売されている。その後も家庭用ゲーム機やWindowsPC用としてリメイクされ数多く発売されている。『イース』はPC発端で限定すれば日本では最もポピュラーなロールプレイングゲームと言っても過言ではないだろう。
◆開発スタッフの中心人物
ゲームデザイン及びメインプログラマーは橋本昌哉(Masaya Hashimoto, 1961年5月2日-)、シナリオは宮崎友好(Tomoyoshi Miyazaki, 1968年1月18日-)が担当した。
橋本昌哉はPC-8801シリーズ用として発売した『太陽の神殿』(1986年10月12日発売)のメインプログラマーを担当している。後には同社で『イースⅡ』(1988年4月22日発売)や『ワンダラーズ フロム イース』(1989年7月21日発売)のプログラマーとしても界隈で有名だ。
宮崎友好は中央大学理工学部管理工学科在籍中にアルバイトとして1986年に入社。『ザナドゥ(シナリオⅡ)』や『太陽の神殿』のマニュアル作りを手伝っていた頃に、橋本昌哉から誘われシナリオ担当になったという。ファルコムではその後橋本昌哉の手掛けた作品に参加している。また、プログラマーとしても参加しておりMSX2版『イース』の移植を手掛けた。
◆生で初めて見た『イース』
『ザナドゥ(シナリオⅡ)』、『ロマンシア』、『太陽の神殿』とヒット作を連発していた当時の日本ファルコム。そろそろ次なる日本ファルコム作品を待ち構えていたプレイヤーも多かったに違いない。そんな春先に画面写真もなく『超・新スクープ』と発表された記事を「FALCOM CATALOG FOR NICE KIDS No.002 SPRING」という店頭配布された大型の冊子で初めて見る。それが『イース』だった。(後に雑誌広告に掲載されたものと文章も異なり、ロゴもなかった。)紹介内容は曖昧でロールプレイングゲームというジャンル以外は何一つはっきりしないということだった。正直、期待感はなかった。
『イース』の画面を見たのが広告と店頭デモのどちらが先だったのか記憶はもう曖昧だが、店頭デモを見てとにかく衝撃を受けた記憶だけは残っている。それは画面がどうとか、スクロールがどうとかいう話ではない。とにかく音楽がそれまでに聞いた PC-8800シリーズのゲームで奏でられた音の豪華さとカッコよさの次元が違っていたことだ。
いや、過去に一度だけ同じ印象を受けた作品があった。PC-8801mkⅡSR以降版の『ロマンシア』で流れたタイトル曲だ。店頭ではデモを使っているのか製品なのか不明だがプレイ画面はなかった。延々とオープニング曲が流れているだけのタイトル画面に釘付けになった。
『イース』の店頭デモでも音楽にただただ驚嘆し、草原シーンで流れた「FIRST STEP TOWARDS WARS」に一聴き惚れした。これが同じ作曲者であることは後に知ることとなる。
◆私が感じた『イース』の革命性
『イース』は実際にプレイすると最低限のパラメータ、『太陽の神殿』譲りのアイコンによる見やすい装備品やアイテムといったインタフェースなど事前に覚えることが少なくユーザーフレンドリーであることに気づく。そして、イース といえば誰もがまず思い浮かぶであろう『半キャラずらし』というテクニックが単純になりがちな経験値稼ぎを飽きさせない。これにより、少し格上で経験値の多い魔物との戦闘でもノーダメージで倒すことができ、魔物との駆け引きによる緊張感を楽しめる。また、音楽だけではなく効果音も非常によくできていて敵を倒す音が気持ちよかったのもゲームの面白さに拍車をかけた。
ロールプレイングゲームとして驚いたのは戦闘以外でも経験値が入ることだ。町や村で困っている人を助けたり依頼を引き受けると結構な経験値が入る。ゲーム開始直後のレベル上げに必要な経験値は200とやや面倒に感じるが、こういったイベントを重ねていくと実は単純な経験値稼ぎがそこまで必要ではないことに気づくだろう。
『イース』のレベルアップによる効果は非常に大きい。最初のレベルアップで倒すのに7撃必要だった魔物も2撃で倒すことができるようになるほど。これはもうロールプレイングゲームにおける快感であり醍醐味でもあった。おかげで、レベルアップに励むことが苦痛ではなくなった。ボスキャラに苦戦すればレベル上げするだけで楽に対応することが可能だったのだ。
◆難易度としては高め
レベル次第でアクションゲームが苦手でもなんとかなるという思いは、あくまで序盤だけの話であったことは先に記しておく。それは浅はかな考えであったと。
一般的に簡単だとよく言われる『イース』だが、その評価はプレイヤーによって大きく左右されるように思う。たしかに、「マイコンBASICマガジン」では山下章(Akira Yamashita)が初プレイで早解きした逸話が掲載され、「ログイン」のSOFTLOG REVIEWでは少し易しい(最終的にマイナスポイント)という評価になっている。ネット上でも散見される意見だ。
しかし、そうは感じなかったプレイヤーもここにいたということを記しておきたい。頼みの綱であったレベルは早々にカンストしてしまう。なのに、キーボード捌きを求められるボスキャラ対決は中盤に差し掛かると強烈な難易度で迫ってきた。相手の攻撃を避けて本体を攻撃という方法だけでは通用せず、ダメージを極力受けずにボスへダメージを与える方法まで模索しなければならなかったため辛酸を嘗めた。(開発中の参考記事ではあったが当時の加藤社長もヴァジュリオンは100回くらい対戦してやっと勝てたという逸話がマイコンBASICマガジン1987年7月号に記されている)
個人的評価としては『手応えがある』としたいところだが、一般的な評価はこれらを含め『イース』の評価を易しい(=優しい)としたのだ。
◆後から出てきた「優しさ」という言葉
『イース』に対して多くの人が誤解しているのは「これまでの作品と違って難易度を大幅に下げて革命的だった」などのような評価をしていることだ。確かに変に理不尽な謎解きは排除されている。だが、「誰もがクリアできるような難易度」という評価は制作陣すら想像しなかった結果論として後から付いてきたものだ。
当初は、加藤社長の「いくら山下さんでも、解くのに2日はかかるでしょう」という挑戦状のようなセリフから難易度のバランス調整は鬼ムズレベルではないもののそれなりに高めにしていたつもりの自負が伺える(もし本当に山下章でも2日かかるような難易度であれば一般プレイヤーならクリアできない層も多発する)。しかし、実際には8時間ほどでクリアされてしまう。これには開発陣や社長も内心相当焦ったのではないだろうか。半日でクリアできるようなゲームは評価が下がる傾向があるからだ。
そもそも、発売当初は広告で簡単や優しいという点にまったく触れていない。付属する山下章の記したライナーノーツや発売当初のパソコンゲームを取り扱う各雑誌でも優しさを売りにしているといった面には一切触れていない。『優しさ』の文字が出始めたのはX1シリーズ版発売後の1987年8月頃からだ。それも『“優しい”ということは、“簡単”ということではない。』と強調している。イース の代名詞代わりによく語られる『優しさ』が難しさを否定する解釈に変わったのはPC-9801シリーズ版が出た1987年9月前後からで、『優しさ』を『初心者ゲーマーでも気軽にプレイできる。』とした。徐々に表現を変え違和感を覚えさせないようにしている。
当時は買ったゲームがすぐにクリアできてしまうとコストパフォーマンスが悪いとゲームの評価が下がる風潮があった。日本ファルコムの制作陣は評価の下がるようなあっさり解ける難易度設定にしたつもりはなかったことは前述のとおりだ。しかし、世の中の平均的なプレイヤーは制作陣の想像を超えてしまったのは現在の一般的な評価を見ればわかるだろう。
つまり、後から出てきた優しさの表現は、アンケートなど各所で簡単という評価が増えてきたためそれを悪く捉えられるのを防ぐため逆手に取った広告戦略だったことが想像できる。
当時はロールプレイングゲームに限らず一般的には難しいゲームも多く、途中で挫折するユーザーもいた。そういったプレイヤーに解く感動と全員にエンディングを見てもらいたいという(願望)が橋本昌哉の発売後にテレビや雑誌で述べた開発コンセプトではあった。当時途中で投げ出される大きな要因は「謎解き」の部分であり、そこに色々と対応されているのは明らかだろう。しかし、アクション面は然程考慮されていない(先述した加藤社長がヴァジュリオンに苦戦した件を見ても明らかだろう)こともわかる。初心者ゲーマー(一般の人々)でも気軽にプレイできるというのは完成した製品を鑑みると広告戦略としては誇大であった。そして、後世で語られている「優しさ」の言葉は広告の後出しであった事実は残しておきたい。
では、優しさを感じるのはどの部分だろうか。まず1つに過去のゲームに見受けられた「先へ進むための謎が難解すぎる」とか、「ハマリ状態に陥っていて先へ進めない」などということ(皮肉にも他社を含めても強く印象に残っているのは同社の『ザナドゥ シナリオⅡ』、『ロマンシア』、『太陽の神殿』であろう)が廃されているだけでもプレイする上では安心感があった。疑心暗鬼でプレイする必要がなかったからだ。
経験値稼ぎがしんどいとか、レベルアップしてもイマイチ強くなっていないとか、宿代を稼がないとHPを回復できないとか、セーブできる地点が限られているとか、ダンジョンでは松明がいるとか、パズルゲームのように鍵の数が足りなくなるとか、食料がいるとか、何度も「無駄に」行ったり来たりを繰り返させられるなど、一部を除いて面倒な点は撤廃されていた点も大きい。(今考えれば『ドラゴンクエストⅠ』も結構該当する…)
また、これは人を選ぶかもしれないが…メモもマッピングもせずダラダラプレイしていても記憶力だけでなんとか目的地まで辿り着けるという意地悪の「少ない」マップ作りだったことも優しさを感じた1つだ。(マップの仕掛けとして神殿のアレや廃坑の通路が見えなくて迷うとか、ミラーのワープで同じ地点をぐるぐる回るとか多少はある)もちろん、マッピングすればプレイ時間短縮にはなるだろうが、一般プレイヤーはマッピングなど考えないだろう。
「なぜか鉄道チャンネルでイースを語る、近藤社長」https://t.co/Af24sCb65P
— 日本ファルコム (@nihonfalcom) July 30, 2021
イースが登場した1987年のころは、PCゲームっていうと、いまと違って「難しければ難しいほどいいゲーム」っていわれる時代だった。そこにイースは「誰でもクリアできる」を前面に打ち出したのが…画期的でした… pic.twitter.com/AY64dP0Kxc
日本ファルコムは広告のキャッチコピーを徐々に徐々に表現を変え印象操作を行っている。現在では「誰もがクリアできる優しさをコンセプトとした」またそれを「全面に打ち出した」ことに変わっている。
しかし、公に『優しさ』を謳いながらも『イース』はエンディングまで辿り着くことを断念したプレイヤーが当時それなりにいたという声を聞いたり見たことがあるのも事実だ。(下記リンク先の方も一人当時はダームの塔内で諦めている)雑誌ライターの安易な早解きや簡単といった記事、メーカー自身の「初心者ゲーマーでも気軽にプレイできる」と説いたことも突き放す結果になり自信喪失させ諦められることになった一つの原因ではないだろうか。
私が難解に思えた第1部終盤からの醍醐味はボスの攻略方法を見つけることだった。コンセプトが正しいのであれば、これが追加されるもう一つの謎解きであることを明確にしておかなければならない。ボスが倒せないのはプレイヤーの「操作」が問題なのではなく戦略の問題(ある意味これが不条理に思える謎解きだ)なのだと気づかせなければ早々に諦めてしまうプレイヤーもいるだろう。決してあなたが「ヘタクソ」なのではない、攻撃方法や戦略方法を何か間違えているのだと製作サイドは説くべきだった。それが本当の優しさだったのではないだろうか。
苦難にも思えるが、ボス攻略という謎解きを乗り越えたとき、なにものにも代えがたい充実感や達成感を得られるだろう。これが、『イース』における最大の魅力であり心に刻まれるゲームになったと私は思うのだ。(対してこの改善を行った『イースⅡ』のボスは殆ど印象に残っていない)
◆BGMについて
ミュージック・フロム・イース
キングレコード/1987年11月5日
メディア/価格:CD K30X7701 3,000円 CT K25H4701 2,500円 LP K25G7701 2,500円
収録曲: ①FEENA ②FOUNTAIN OF LOVE ③THE SYONIN ④TEARS OF SYLPH ⑤FIRST STEP TOWARDS WARS ⑥PALACE ⑦ HOLDERS OF POWER ⑧PALACE OF DESTRUCTION ⑨BEAT OF THE TERROR ⑩TOWER OF THE SHADOW OF DEATH ⑪THE LAST MOMENT OF THE DARK ⑫FINAL BATTLE ⑬REST IN PEACE ⑭THE MORNING GROW ⑮SEE YOU AGAIN ⑯DEVIL'S WIND ⑰FAIR WIND ⑱SHINING STAR ⑲DREAMING ⑳CHASE OF SHADOW ㉑CHURCH ㉒OVER DRIVE ㉓DEPARTURE ㉔CROSSROAD OF SADNESS ㉕BATTLE GROUND ㉖MYSTERIOUS MOMENT ㉗THEME OF ADORU ㉘DEAD-END STREET ㉙SUB-MISSION ㉚OPEN YOUR HEART ㉛DEVIL'S STEP ㉜TENSION ㉝IN THE MEMORY ㉞FLY WITH ME ㉟FEENA ㊱FIRST STEP TOWARDS WARS ㊲BEAT OF THE TERROR ㊳TOWER OF THE SHADOW OF DEATH & THE LAST MOMENT OF THE DARK ㊴SEE YOU AGAIN
『イース』のBGMは当時アルバイトとして出入りしていた古代祐三(Yuzo Koshiro, 1967年12月12日-)がメインで担当。PC-8801mkⅡSR以降版に収録された『ロマンシア』のオープニングテーマで頭角を現した古代祐三の出世作となった。社員の石川三恵子(Mieko Ishikawa, 1964年1月23日-)は1曲(「Fountain of Love」)のみ担当している。
ファルコムゲームミュージック
アルファレコード/1987年11月10日
メディア/価格:
CD 28XA-179 2,800円
CT ALC-22914 2,200円
LP ALR-22914 2,200円
収録曲:Y'S(イース) ①Feena ②Fountain Of Love~First Step Towards Wars ③Palace Of Destruction~Beat Of The Terror ④Tower Of The Shadow Of Death~The Last Moment Of The Dark~Final Battle ⑤The Morning Grow~See You Again ⑥Palace Of Destruction ⑦The Morning Grow ⑧太陽の神殿 ⑨ドラゴンスレイヤーⅣ(ドラゴンスレイヤー・ファミリー) ⑩ロマンシア(ドラゴンスレイヤーJR) ⑪ザナドゥシナリオⅡ
『イース』はノーマル音源であるYAMAHA YM-2203音源(FM音源3声、PSG音源3声)にフルパートで全曲対応した日本ファルコム初の作品でもあった。BGM演奏だけならまだしも、ゲームに搭載されるサウンドドライバーに当時ここまで力を入れていた(サウンドに対するCPUの使用率の占有度合いも)作品は市販品ではほぼ見受けられなかった。それに加えて古代祐三のFM音源+SSG音源における表現力が加われば鬼に金棒だ。
『イース』は数々の移植作が生まれ様々なアレンジが行われアルバムも多数発売されている。しかし、どんなアレンジを持ってこようとも私の中でオリジナル音源であるFM音源版を覆すことは不可能だ。想像すらできなかったYAMAHA YM-2203音源の表現力に打ち震えたあの体験が凄すぎたのだ。後に出た家庭用ゲーム機やWindowsPCへの移植作となった『イース』はゲームを含め非常に良い出来であると思うが、驚愕に至るまでとなれば比較にすらならなかった。それほどの体験と感動を与えてくれた。それが当時の『イース』という存在だったのだ。
『イース』は数々の試行錯誤があった作品でもあったようで採用されなかった没曲も多かった。(後に発売されたPCエンジン版のオープニングで使用されている「THEME OF ADORU」はそんな中から選ばれている。)一部機種では裏技として聴くことが可能だ。当時発売されたアルバム『ミュージック・フロム・イース』にも全曲収録されていた。没曲まで全て収録したアルバムとしては初だったのではないだろうか。
はじめに
そう、イースは、何をしなくても、ただ歩いているだけでも、何だかとても楽しい気分になれる、充実したロールプレイングゲームです。
イースには、たくさんの冒険があります。これらをひとつひとつ終らせていくことで、本当の冒険の目的を知ることができるようになっているのです。
より多くの人々との会話が、各冒険の中心となっていると言えます。町・村・野原で出会う人々と話し、あなたは、それぞれの冒険を見つけて、それを達成していくのです。
町・村・森と野原、不思議な謎につつまれた神殿、そして、一寸先は暗闇のダンジョン…イースの世界は実に広いのです。
この世界でくり広げられる数多くの冒険は、きっとあなたを満足させるでしょう。「私は、素晴らしい冒険を味わってみたい」と言うあなたなら、とっても素晴らしく胸おどるBGMを聴き、ディスプレイを眺め、イースの世界へ無理なく入っていけるでしょう。
冒険は、少しも難かしくありません。
まず、町の人々とじっくり話してください。道ばたで、酒場で、最初の冒険はすぐにわかるでしょう。あなたは、出会う人々と話して、話題や冒険の多さにきっと驚くでしょう。
イースの世界では、だれにでも冒険がすぐにできるようになっているのです。「そうか、じゃあやってみよう」と思ったことを、やりたいと思ったことを、そのまま冒険にしていけばいいのです。
本当の目的は…それは誰にも明かせません。それは、たくさんの冒険を通じて、あなた自身がひとつひとつ、数多くの謎をひもといていけばわかるのです。
謎…決してその謎はやさしいものではありません。でも、難かしいものでもありません。あなたが、自分の心からの呼びかけに耳をかたむけ、ふだんそうしているように、現実の生活で生じるいろいろな問題を解決するように、各冒険を終らせていけば、自然に進んでいくのです。
1つ1つの冒険が終わるたびに、きっとあなたは、心が洗われるようなさわやかな気分になっていくことでしょう。
さあ、イースでは、何があなたを待ちうけているのでしょうか!?
アドル・クリスティンの冒険
序文
君は、アドル=クリスティンという名前を知っているだろうか?
アドル=クリスティン――今をさかのぼること千と数百年の昔、エレシア大陸の西端、エウロペ地方の北東に位置する、名も知れぬ小さな山村に生まれ、16才の時より、63才にしてこの世を去るまで、エウロペを中心とした海外諸地域を旅してまわった勇猛果敢なる冒険家である。
貧しい農夫の子として生まれた彼は、自他ともに認める快活で何にでも興味を示す好奇心旺盛な若者であったという。
特に彼は、外の世界についてよく知りたがり、ある日彼の村に立ちよった旅人との出会いがきっかけで、自らも冒険の旅に出ることとなる。
その彼の行動範囲は、主となる交通手段が歩きと船だった当時の世界では、驚くべきものがあった。
南方はアフロカ大陸の中央部、東方はオリエッタ地方のティグレス川にまで及び、晩年は北の極点を目指した――しかし、これは失敗に終わったらしい――と言われている。
これを見る限りでは、彼の異郷の地に対する冒険心、探究心、そして憧れは相当なものだったことがうかがわれ、彼は行くその先々で起こった出来事を、冒険日誌なるものに記し、それを後世に残していった。
代表的なものとして――
『アルタゴの五大竜』
『セルセタの樹海』
『砂の都ケフィン』
――などが挙げられる。
百余冊にも及ぶそれらは、現在彼の生家の地下庫に保存され、西世界を嵐のごとく駆けめぐった彼とは対照的に、静かに眠っている。私たちは、これらの本を読むことによって、彼がどのような冒険をくりひろげてきたのかを知ることが出来るのである。これから書かれる物語は、その記念すべき第一冊目『失われし古代王国』の出だし部分を翻訳、小説化したものである。
冒険地は、今や大海の底に眠るとうたわれる国エステリア。
物語は、彼がその国へ赴くいきさつをおり込みながら進んでゆく。光と闇が、いまだ混迷を極めていた時代。彼がその肌で体験したことを、彼自身になったつもりで読んでいただきたい。
1. エステリア漂着
その日、南に大いなるドウアールの海原を望む、ホワイト・フォーンの砂浜は、昨日の嵐とは打って変わって、穏やかな朝を迎えようとしていた。
浜辺は、一面の白い霧に包まれており、一寸先すら見えぬ状態である。
その白き世界の中を、さざ波の静かなる音だけが絶え間なく鳴り響いている。
やがて、その霧の中を、山側から肌寒い風が吹き、砂浜の北に林立する木立をやさしくゆするとともに、霧を海の沖合の方へと押し流しはじめた。
途端、砂浜の視界は開け、いまだ夜の暗闇の濃い西の空に、双子の月の姿が浮び上がった。
その月に、嵐のなごりである黒雲の断片がかかり、東へ東へとだなびいてゆく。
東の空は、藍から紫、紫から朱と色を変え、今まさに陽が昇ろうとしていることを告げていた。
霧はすでに、砂浜から姿を消し、砂浜は東の朱の光にうっすらと染まっている。それはまるで、ルビーをちりばめたような鮮やかなものだった。このホワイト・フォオーンの砂浜は、エステリアの南方、トゥテップ島の南端にあり、東西に細長く、弓のようなゆるやかな弧を描いている。
その長さは、1クリメライ(約1.2km)に及ぶという。
地図にしてみると、この砂浜は伝説ある一角獣の角のように見えるため、浜に住む人々はここを〈ユニコーンの角〉とも呼んでいる。
砂浜の幅は、潮の満ち干によって20メライから40メライ(1メライは約1.2m)の間を往復し、その北側には、うっそうとしたジャングルが島のほぼ全域に渡って広がっている。(実際、エステリアはその半分以上を森でおおわれている。)
砂の色は、他では珍しい白色で、半分硬玉が含まれている。そのため日の光によく反射し、朝夕には、空が雲っていない限り、朱色に染まるのである。その朝やけによく映えだ砂浜の上に、アドルはボロボロの衣服をその身にまとい、うつぶせになって気を失っていた。そのまわりには、大小いくつもの木片が散らばり、彼は全身びしょぬれとなっている。
彼はピクリとも動こうとせず、ただ白い砂浜の上に、ぐったりと身を横たえていた。
やがて東の空より日が昇りはじめ、海を砂浜を森を、そしてはるか北にそびえ立つ岩山を照らし出した。
森の中で、ヨナキドリが『また長い昼が始まった』と高い鳴き声をあげ、自分の巣へ帰ってゆく。
エステリアは今、初夏の時期を迎えていた。今の時期、エステリアの昼の長さは夜の2倍以上となり、夏至の日には3倍になると言われている。夜行性の動物にとつては、この時ほどいやなものはなかった。
アドルが意識をとり戻したのは、その長い昼の3分の1が過ぎだたころだった。
満ち潮の波が、彼の足元をわずかにぬらし青く澄み渡った空を北へと向かういわし雲の影が、彼の上を通り過ぎてゆく。
風は暖かく、砂浜は潮の香に包まれている。
アドルは、とりあえず波打ちぎわを離れ、木立の方にむかって歩き出した。
髪の毛は、塩水にぬらしたため、バサバサに乱れ、顔は疲れきった表情を見せている。
砂浜は、上からの太陽と下の砂地の照りかえしによって、かなりの暑さになっていた。
アドルは木かげの中に入り、木の幹に手をかけるとともに、ぐらりと倒れた。
すでに動く力もなく、彼の意識は宙を浮いているかのように不安定だった。
目の前を火花が散り、吐き気がしてくる。海水をだっぷり飲んだらしい。
息は荒く、体中は何かでなぐられたかかの様な激痛が走った。
ここがどこなのか知りたかったが、とにかく今は体を休めることに彼は決めた。そして日が真南にきた頃、彼はようやく立ち上がった。いくらか体に疲れが残っていたが、なんとか動きまわれることはできた。
彼は砂浜に出て、その辺を歩いてみた。
先程、自分が倒れていた所は、満ち潮の中に隠れている。
『あのまま、気がついていなかったら……』
アドルは少し背筋が寒くなった。
水平線の上には、万年雪をかぶった山々の連なる島、いや大陸が見える。それを見た途端アドルは、ここが一体どこなのか知ることができた。彼は、おとといまでの数週間をあの大陸にある港町ですごし、昨日このエステリアへ船で渡ろうとしたのだが、途中激しい嵐にみまわれ、この砂浜に漂着したのである。
彼は、まわれ右をして後ろの景色を見た。
森のさらに奥に巨大な岩の断崖が立ちはばかっている。
『エステリアにかの山あり』と言われているプレシェス山である。その頂上には、直径が200メライという巨大なクレーターが、そしてまた、古き時代の神殿跡もあるという。アドルは、しばらくその山をにらみ続けた後、砂浜にひざをつき、その手に砂を取ってみた。
彼はここが、自分の目指して来た国エステリアであることを再確認した。
そして、大陸の方を再び見つめ、自分にここへくるきっかけを与えてくれた人々のことを思い浮かべていた。2. 回想――プロマロック
時は、アドルがエステリアに漂着する三週間ほど前にさかのぼる。
その頃彼は、白樺の多く立ち並ぶ峠道を、西の頂上めざして歩いていた。天気は上々、初夏の季節を迎えた、この辺一帯は新緑の香がいっぱいにたちこめ、空にはヤマタカの親子が、その広い羽根いっぱいに風を受け、高々と大きな円を描いて渦空している。
日はすでに南にさしかかり、山の尾根からは、かげろうが立ちのぼっている。
アドルは、道端の大木のそばで小休止すると、上にはおっていたジャンパーを脱ぎ、それをクルクルとまるめて、皮革のザックの中につめた。とてもじゃないが、上着など着てはいられないほどの陽気になっていたのだ。
ザックの中から皮革の水袋を取り出し、一口飲む。水はもう半分も残つていない。
「頂上まで持つかな!?」
そう言いながらアドルは、水袋の栓をしめザックの中にしまった。この先、水の出る所は峠の頂上にしかないと、ふもとの村で聞いていた。
ひたいの汗をぬぐい、一息ついたアドルはザックを肩にかけ、立ち上がると、再び西へと登りはじめた。故郷の村を離れて早一年半、南へ南へと冒険の旅を続けていたアドルは、すでに一つの国境を越え、当時エウロペの統一をはかっていた、ロムン帝国のグリア地方に足をふみ入れていた。
アドルは、その地方でも最も大きな港町、口ムン帝国の交通の要所であり、海外の国々と通ずる貿易の町でもあるプロマロックへとむかっていた。
アドルとしては、その西の港町には向かわず、今朝がた立ちよった村をへて、さらに南へ続く街道を進み、見渡す限り砂地だというスハラ砂漠へ向うつもりであった。が、その村で、今現在砂漠は北部を中心として激しい戦いが行われていることを聞き、やむなく西へ向かうことにしたのである。
そしてそこから船で、北西の国々や多島海へおもむく、それが彼の今後の冒険の予定であった。と言っても、これまでに彼は冒険と呼べるものは一度も体験していなかった。
ドラゴンとの戦いや秘宝の隠された城での冒険など、夢のまた夢。そんなウワサ話は、どこへ行っても聞かれず、今の彼は町から町を点々としてまわり、その町々で旅するための金をかせぐ、そんな生活をくりかえしてばかりだった。
しかし彼は、こんな生活をけっこう楽しんでいた。人々の暖かな出会いも、その一つに入るが、何といっても、あらゆる世界のめずらしい話が聞けるということが楽しかった。広大な氷原、燃える水、砂漠のしんきろう、どれもこれも彼の心を高ぶらせた。
いつか自分もその話のある国へ行ってやる。その心が、彼に旅を続けさせていた。峠の頂上にアドルが着いた頃には、日は西へかたむきつつあった。
アドルは、村人の言った、わき水の出る池のふちで水筒に水を入れ、かわいたのどをうるおしている。
小さな池のまわりは、ちょっとした展望台となっており、まわりの情景が手にとる様に見えた。南と東は一面の山で囲まれ、はるか南には万年雪をかぶった山々が連なっている。その反対、北の方にはドゥアール海が目に入り、西側にはプロマロックの港町が見えた。この陽気のせいか、町には全体的にかすみがかかり、ハッキリとした景色は見れなかった。ただ、港に停泊する船と、数えきれぬ程の白壁の家々、そして町の西の山の上に立つ灯台が、うっすらと見えるだけである。
「あれが、プロマロックの港町か」
アドルは大きく身ぶるいをした。
町の大きさと、そして何よりも見はてぬ海の広大さに、これから何か起きそうな期待が胸の内からこみ上げてきたのだ。
彼はザックを肩にかつぐと足早に、ふもとの町をめざして歩きはじめた。その町にアドルが着いたのは、日も沈み終えた頃のことだった。
町の家という家の玄関先にたいまつがかかげられ、モザイクタイルの道が明々と照らし出される。
アドルはこの町にきて、まずこの道に目をくぎづけにされた。様々な色づけのされた細やかな石は、すき間なくしきつめられ、鮮やかな模様を作り出すとともに、どこへ行けば何があるのか、どの家に誰が住んでいるのか、などの標識や表札のかわりをはたしていたのである。
これなら初めてこの町へ来た人でも迷う事はないだろう。
アドルは感心しながら、宿の絵の描かれてある方向へ進んだ。今日一晩は、ゆっくりと休み、翌日町の散策をするつもりだった。
宿に向う途中アドルは、この町には異邦人の多いことに気が付いた。
肌の色の黒いアフロカ人。
顔の半分を布でかくした女性は、オリエッタの出身だろう。
中には、顔にイレズミをし、異様な言葉を話す者もいる。
彼らのほとんどは、この町に商談にやって来た商人たちであった。彼らは、このロムンや海外の珍しい品を求めてやってき、それを安く買い取ろうと必死なのだ。
また、道化師や奴隷たちの姿も多く見られた。道化師たちは、人のよく集まる中央の広場や港で、手品や動物を使った芸を見せて人々をわかせている。奴隷はアフロカ人に多く体のあちこちにムチの打だれた跡が、痛々しく残っていた。
そんな人々の行き交う大通りをアドルは、宿屋へと向かっていった。「いらっしゃい」
宿屋の主人は、読みかけの本を閉じ、ロビーへ入ってきたアドルを笑顔でむかえた。
石の柱に板ばりの床と壁の粗末な宿屋である。ロビーには、アドルと主人の他には誰もいなく、中央に小さなテーブルといすがあるだけだった。泊まり客もそんなにこいないようだ。外のにぎわいとうって違って、ここはシンとしていた。
しかし、こんな宿屋でも、アドルの村の家と比べれば、豪華なものであった。
「一晩だけ泊まりたいのだけど」
アドルは、主人のいるカウンターにつくとザックを肩から降ろした。
宿屋の主人の名は、ビクセンと言った。
歳はもう40は越えているだろう。腹は、まるで妊婦のようにふくれあがり、その口とあごに白まじりのひげをたくわえている。
「泊まるだけなら30デニル、夕食と朝食を付けるのなら、それに5デニル上のせだ」
体のわりには、かなりの高い声である。
「それじゃ、食事付の方がいいや」
アドルは、ふところから金を出し、カウンターの上に置いた。手持ち金は、あと10デニルにも満たない。
「どこから来たのかね?この国の者ではないようだが……」
アドルが宿帳に名前を書いている時、ビクセンは彼のなりを見ながらたずねた。
麻地のシャツとズボンに牛皮のジャンパーという姿は、この辺ではあまり見かけないと言う。
ロムン帝国の人々は、主として、絹や毛綿で作られた、長くてゆったりしたものを身にまとっている。ビクセンにしても毛綿のシャツの上に絹のトーガをはおっている。
「北東に遠くはなれた国から」
「ほう、どのくらい遠いのだね?」
「馬で10日といった所かな」
「それはまた、さぞかしここまで来るのに苦労したじゃろう」
「そうでもなかったよ」
アドルは宿帳から顔をはなし、ビクセンから部屋のカギをもらった。部屋は3階だと言う。
「それで、これからどこへ向かうつもりなのかね!?」
部屋へ案内するビクセンが、階段をのぼりながら間いた。
「一応、北西の方に向かおうかと思っているけど」
「そうかい、だったらエステリアだけはよしておいた方がいいぞ。何しろ、あそこは呪われた国だからな」
「呪われだ国!?」
部屋に着いた時、下の方で声がした。客が来たらしい。
「興味があるのだったら、夕食後ロビーに来なよ」
そう言ってビクセンは、早足で階下へ降りてゆく。宿自体、相当のボロなので、歩くたびにミシミシと音がする。
アドルは、とりあえず夕食まで部屋でゆっくりすることにし、カギを開けて中へ入っていった。
夕食を宿の一階にある食堂ですませたアドルは――ちなみに今日のこん立は、タラのムニエルにホタテのスープ、パン2きれとミルクであった――さっそくビクセンの待つロビーへと向かった。
ビクセンは、小さなテーブルの上に紅茶を用意し、エステリアの事について、彼の知る範囲で教えてくれた。
エステリア、そこはこのプロマロックの港町と、ドゥアール海をはさんで北に40クリメライの所にある小さな国である。
この国の北側には、驚くべき景観が広がっている、と宿の主人ビクセンは言う。
「実際に見た訳じゃないが、あの国には直径200メライもの巨大な穴が広がっているそうだ。しかもそれは何かが落ちたせいで出来たワケではないそうだ」
「では、一体何だって言うの」
「そこまでは、わしも知らんよ」
ビクセンは、お手上げといった身ぶりをして見せ、続けて話した。
「あの国が、呪われた国と言われはじめたのは半年くらい前からだった」
エステリアは、その巨大穴を囲む断崖の山に、いくつかの坑道を持ち、銀や他の鉱物の産出地として名を上げていた。つい最近までは、このプロマロックとも貿易を続けていたという。しかし、いつの日にかそれは、糸が切れたかのように、プツリと終ってしまったのだ。
「おかしなもので、工ステリアにむかう船はみんな、嵐にあって海のもくずと消えてしまうんだ。商人であの国と取り引きしようなんて奴はいなくなっちまった」
ビクセンは、紅茶を一気に飲み干し、もう一杯自分のものにつぎたした。
アドルは、ただ呆然としている。
「気にせんでくれ、これはサービスのうちだから。それとも酒の方が良かったか?」
アドルがさっきからあまり紅茶を飲んでいないのを気にして言った。
「あ、いや、こっちでいいよ」
あわててアドルは、紅茶を飲んだ。ビクセンの話に夢中になって、そんな事はすっかり忘れていたのだ。
「それで、原因はわからないの?」
アドルの問いに、ビクセンは首を横にふった。
「だめだね。何人もの奴らが、それを調べようと、あの国へ向かったさ。しかし誰一人として戻ってこなかったよ。」
しばし沈黙が続き、やがて話題を変えようとビクセンが口を開いた。
「ところで、明日からはどうするんだい!?」
「この町で仕事を探すよ。ここから北へ向かうとなれば、当然船賃はかかるだろうし、どこかいい所、教えてくれないかな!?」
ビクセンはあごひげをなでながら考える。
「そうさなあ、もし力に自慢があるんなら、港の船の荷物を倉庫に運ぶ仕事がいいだろう。俺も昔はよくやったが、あれはいい金になる」
ビクセンはニヤッと笑う。
「じゃあ、それにするよ」
「明日、オレが港まで案内してやるよ。今日は早く眠った方がいいぜ。なにせ、行ったその日から働くことになるからな」
そう言ってビクセンは、紅茶の入ったポットとコップを片づけはじめた。
アドルは彼の言葉に従い、自分の部屋へ向かっていった。翌朝アドルは、久しぷりのベッドの上で、目を覚ました。ベッドの上で寝るなど1ケ月ぶりのことで、いつもは野原や家畜小屋の片隅の干草の上で一夜をすごしていた。
窓を開けると、まばゆい朝の光が差しこんできた。海が近くに見え、沖合には朝の漁から戻ってきた漁船の群れが見えた。
また、大型の貨物船が、沖の方へ出航してゆくのも見えた。アドルは、水平線を横へとながめ、やがて北の方角で視線をとめた。
北の水平線に異様な形のした物が浮かんでいた。それは島だった。島の中央には、何やら塔のようなものが見える。
「あれは……悪魔の塔!?」
アドルは昨日のビクセンの話の中に、クレーターの近くに立つ岩の塔のことを思い出した。そこはプロマロックの人々から“悪魔の塔”と呼ばれていた。
ドアがノックされ、ビクセンが中に入ってきた。
「おう、おはよう。ずいぶんと早起きなんだな。朝食が出来とるぞ。さめないうちに降りてきな。今日は港へ……J
と言う間もなく、ビクセンはアドルに腕を引きよせられ、窓辺についた。
「これは珍しい。エステリアをこうもハッキリと見られるとは」
ビクセンは本当に驚いたといった声を出した。このプロマロックとエステリアをはさむドゥアール海は、別名“かすみの海”とも呼ばれ、エステリアはいつもかすみを通してでしか見ることができなかったのだ。今日みたいにハッキリと見えるのは、月に1、2度。悪い時は3ケ月もの間、かすみしか見えないという。
「いったいあの塔は、高さはどれぐらいあるの!?」
おもむろにアドルはきいてみた。
「船のりの話では、だいだい2、300メライはあるって言うぜ」それにしても、あまりのに巨大。昨夜聞いた時、彼はそれほど大きなものではないだろうと思っていた。実際あんなものだとは……。
アドルのエステリアに対する好奇心はますます高まっていった。昼すぎ、アドルはビクセンに連れられ、港を訪れていた。そして、そこの責任者であるノートンに会い、しばらく働かせてもらう事にした。
ノートンは、ビクセンよりは若く、立派な体格を持っていた。気さくでほがらかな性格は、他の水夫たちに好かれ、信望も厚かった。
そんな彼に、アドルはすぐになじみ、気軽に話し合える仲になっていった。
仕事が終り、夜となるとノートンは、水夫たちを囲んで、その昔船で海外を旅したことを話して聞かせていた。アドルは、いつもその集いに加わり、ノートンの旅の話にいつしか聞きほれていた。
そんな生活が何日か過ぎた頃、アドルは、ぼんやりと水平線の上に浮かぶ工ステリアの影を見つめるようになった。
魔の住む島と言われようとも、一度は行ってみたい。そう思うようになっていた。
「何だ、何か変なものでも見えるのか!?」
アドルの背後から、ノートンが首を出した。
「いや。すぐ仕事に戻るよ」
アドルは、倉庫へ戻ろうと走り出した。
ノートンは、アドルの見つめていたをものをしばらく見つめ、そして走り去るアドルを目で追い続けた。
その夜、多くの水夫たちでにぎわう港の食堂で、ノートンはアドルの横に腰かけた。
食べながら、ノートンは話しはじめる。
「今日、エステリアの方をながめていたな」ノートンのいきなりの質問に、アドルは少し面くらったが、やがて静かにうなづいた。
「やめときな。あの国へ行きたいなんて思うのは。下手すると命を落としちまう」
アドルは、夕食を食べる手をとめた。
ノートンは、かまわずガツガツと食べ続け再び話しはじめる。
ビクセンカら聞いたろ!?あそこへむかおうとする奴は、みんな嵐にあって海のもくずになっちまうんだ。あの嵐の結界をぬけることなんか、とうてい無理なんだよ。」
ノートンは、口の中のものを腹におさめると、ナプキンで口をふいた。
「それでも……」
ノートンの方をふりむいて、アドルが言う。
「それでもオレ、行きたいんだ」
ノートンは、アドルの目を見つめた。その目は真剣になっている。
やがてノートンは小さく笑う。
「気に入った。その目を信じてやろうじゃねえか。お前に船を一隻与えてやるよ」
アドルの表情が明るくなった。
「ただし…」
ノートンは、顔をこわばらせる。
「それ以上は手伝わないからな。明日になって、やめるなんて言いだしたら、船の代金を払ってもらうぜ。ちょうど、お前がこれまでにかせいだ金と同じ額だ」
「やめるなんて言わないよ」
アドルは少し大きな声を張り上げて言った。まわりの水夫たちが「何だ、何だ」と言ってアドルの方を見つめる。アドルは顔を赤らめ、隣ではノートンが声を押し殺して笑っている。
その日は、そうして暮れてゆき、翌朝港に1隻の小さな船が浮かべられた。
船の側では、話を聞いた水夫たちが、アドルを見送ろうと集まっている。
アドルはすでに船に乗っており、オールにその手をかけていた。
「まだ名前のついていない、出来だての船だが、そう簡単にはこわれないと思うから、安心して行ってくれ」
「ありがとう、何て言ってお礼をしたらいいのか、言葉が出ないよ」
「気にすることはない。もし無事生きて帰れたら、あの国で何が起こったのか教えてくれよ」
ノートンは手をさしのべ、アドルと握手をした。彼の背後で、十数日間生活を共にしてきた水夫たちが、アドルに激励の言葉を投げかける。
アドルは静かにオールをこぎはじめ、港をはなれていく。
ノートンたちは手をふり、船の行く先をいつまでも見つめている。
小一時間ほどで小船は、豆粒くらいの大きさになり、ついにはかすみの中へかくれていった。
と、その時、沖合の空に暗雲がたちこめ、風が吹きはじめた。
「ちくしょう。案の上、あらわれやがった」
ノートンは、暗雲をにらみ、その下にいるアドルのことを思った。アドルの小船は、大波にゆられ、どしゃ降りの雨は、船の中の水かさをどんどん増やしていった。
このままでは、いつが転覆するか沈んでしまう。しかし、アドルになす術はなく、ただ帆柱に自分の体をひもでしばることぐらいしか出来なかかった。こうしておけば、激しいゆれにあっても、船から放り出されることはない。ノートンから、そう教えられていた。
と、そこへ大波が、船をもろに打ちつけ大破させた。アドルは、船とともに水中へと沈んだ。
藍色の海の中をあぶくが、上へ下へと動いてゆく。アドルは、そんな情景を見ながら、次第に意識を失っていった。3. 死闘
時は現在に戻る。
アドルは、暖かい陽気のホワイト・フォーンの砂浜を、東へ歩き続けていた。
長さ1クリメライしかないこの砂浜は、20分もあれば、全てを歩くことができた。
アドルは、砂浜の東端に立ちはばかる赤茶けた岩肌の見える崖の前に立っていた。
崖はそこよりカーブを描いて、さらに東につづいている。
この先がどうなってるのか調べてみたい、と彼は思ったが、かわききったのどがそれを許さなかった。ヒリヒリと火傷を負ったような痛みのするそれは、彼の声を出すことすらできなくさせていた。
やむなくアドルは、泉を探すため足を森の中へむけさせた。
『最初からこうすればよかった』
アドルは、そんなことを心の中でつぶやきながら、すずしげな森の中へと入っていつた。
確かに森の中はすずしかった。
森には主として針葉樹が多く、地面は昨日のあのどしゃ降りで相当ぬかるんでいた。
森はシンと静まりかえっていた。普通こういった所では、鳥のさえずりなど聞こえるものだが、ここでは、彼のぬかるんだ地面を歩くピチャ、ピチャという音しかしない。
そのまま奥へ歩いているうち、水の流れる音が彼の耳に入ってきた。先を急いでみると案の上、小川が右から左へと流れていた。
足でまたいで渡れるほどの小さな川は、手にすくっててみると冷たかったが、ひどくにごっていた。
アドルは、右手に川の源にむかって歩き出した。数分もしないうちに森が開け、泉が彼の目の前にあらわれた。
直径5メライ程の円形の池。その底からはこんこんと水が湧き出ている。
アドルは泉のふちにひざまづき、両手いっぱいに水をすくって、飲みはじめた。
冷たい水が、のどをスーッと通り、腹の中に注がれる。その冷たさは、アドルの頭が痛くなるほどだった。
水をたらふく飲み、一息ついた彼は、そのまま後ろに腰を降ろし、ぬれた手をボロボロになった服でふいた。そして、よく見ると体中に小さな傷を負っていることに気が付いた。
多分、海の中で船のもくずと、もまれた時についたのだろう。
「ちよっとしみるな」
アドルは上着を脱ぐと、それを泉で洗い、タオルがわりにして、体についた塩をぬぐいはじめた。いくら小さな傷でも、消毒ぐらいしておかなければ、あとで破傷風にかかってしまう恐れがあるからだ。
それが終ると、アドルはベルトにつけていたナイフを取り出した。
そして、それで真っすぐに伸びだ細長い、木の枝を切り落とし、樹皮をはいだ。彼はその樹皮で繩を作ると、枝の先にナイフをつけ、それを巻きつけた。
簡単なやリを作ったのである。プロマロックの港町で働いている間、彼はエステリアに関するいろんな情報を、水夫や商人たちから聞いていた。その中に、エステリアには、様々なモンスターや猛獣が至る所にうろついている、というものがあった。彼らはエステリアを我がもの顔で動きまわり、人々を襲っているという。
エステリアへ行くなら、武器が絶対必要だ。誰もがそう話した。手作りのヤリを片手に、アドルは今度は、小川を下りはじめた。
この川の下流に、民家があるに違いない。そう自分に言い聞かせて歩いてゆく。
小川は、ゆるやかに下り、ほんの少しだが左へ弧を描いて流れている。アドルは、その流れに従って進んでゆく。
森の中は、あいも変わらず、シンとしており、川のせせらぎとアドルの歩く音が鳴り渡っている。.
その静けさが、あまりにも不気味だったため、アドルは早くこの森をぬけようと、歩くテンポを速くした。
と、その時、右手の方でガサッとしげみのゆれる音がした。
アドルは、思わずヤリのほこ先を音のした方にむけ、身構えた。が、背中に何かがよりかかり、彼は前のめりに倒れた。
彼の背中には、赤い毛の大犬が乗っており、その鋭い牙を、彼の首もとに立てようとした。
とっさに彼は飛び起き、背に乗った犬狼、リーボルをふり落とした。と、同時に背中に激痛が走る。
リーボルは、ふり落とされる寸前、爪を立て、アドルの背中に6本の細長い傷をつけたのだ。
背中が、ほてるように熱くなり、脈打っているのをアドルは感じていた。リーボルは、アドルの目の前に2匹、3匹とあらわれ、6匹目で終りとなった。彼らは、のどの奥から不気味なうなり声をあげ、いかくしている。
この状況は、どう見てもアドルの方が不利だった。
刻一刻ヒアドルの血は、地面に吸いこまれてゆき、しばらくすれば出血多量で意識不明となり、リーボルのえじきとなるだろう。
アドルと6匹のリーボルは今、小川をはさんでむかいあっていた。
アドルは、ヤリを6匹の方にむけ、一歩一歩後ずさっていった。
今は戦うべきでなかった。人のいる所へ何としてでもたどりつき、そこで応援を頼む以外、彼に勝ち目はなかった。
慎重に慎重に、彼は後退を続けてゆく。
背中から流れ出る血が足をつたわって落ち、彼の足跡の中に、たまっていく。リーボルの一匹が、たまりかねて、アドルに飛びかかった。
アドルは、腰をかがめ、リーボルののど元めがけてヤリを突きさす。それは見事に命中し、先走ったリーボルは、声にならない叫び声をあげ、地面に倒れた。これを見た他の5匹は、一瞬たじろいだが再びジワリジワリとせまってきた。
アドルは、額に汗をにじませ、息を荒くしていた。あと10分もたてば、彼は動くこともままならない状態になるだろう。
リーボルたちはそれをねらっていた。
小川は、すでに遠くに離れていた。彼らは砂浜の方へ、ゆっくりと歩いていく。
カッと日差しが、まばゆくなった。砂浜に出たのである。
アドルはすでに、歩くこともつらくなっていた。息はさらに荒くなり、全身汗まみれになっている。
『こんな所で死んでたまるか』
そう心の中で叫ぶアドルだが、体力はもう限界に近かった。
リーボルたちは分散して、アドルを囲もうとしていた。一気に飛びかかり、とどめをさそうというのである。
アドルのまわりをリーボルたちは、ぐるぐると回り始める。アドルは歩くことをやめていた。ヤリを水平に構え、どの方向から襲われてもいいように、神経を集中させた。
1匹がほえると同時に、5匹はアドルに飛びかかった。
アドルは、最後の力をふりしぼって横に飛び、真一文字にヤリをふる。1匹の目と、もう1匹の腹部を、ヤリは横に切りさいた。致命傷には至らなかったが、その2匹は戦意消失し、身もだえして砂の上をはった。
しかし、これでアドルの意識も遠のき、彼はその場にグラリと倒れた。
残った3匹のリーボルの口元から、よだれが流れはじめ、3匹はアドルに近よろうとした。が、その時、西の方ら大音響が鳴り渡ってきた。
そこには、十何人もの男たちが、手に手にドラや太鼓を持って近づいてくるのが見られた。中には、もりのや剣を持っている者もいる。
思わぬ新手に三匹はアドルから離れ、足速に森の中へと逃げていった。
遠のく意識の中で、アドルは誰かに抱きかかえられるのを覚えた。
「おい、しっかりしろ」
うす目を開けて見るが、ぼやけていて何も見えない。ただ声だけが聞こえる。
「これは、ひどい傷じゃ」
しわがれた声が言った。
「とにかく家に連れていこう。今なら、まだ助かるかもしれん」
よく通る男の声を最後に聞き、アドルはそのまま意識を失った。4. バルバドの港
長い混池としだ眠りから覚めた時、アドルはふかふかのベッドの上に寝かされていた。
「おお、気がついだがね」
ベッドのわきに座っていた白髪の老人が、アドルの顔をのぞきこんだ。
「こ、ここは……!?」
アドルは、自分でも驚くくらいのガラガラ声を出した。
「バルバドの病院じゃよ」
老人は、しわがれた声で答えた。それは、あの砂浜で聞いた声と同じものだった。
「オレは、助ったのか!?」「ああ、町の見張り番が、お前さんを見つけてな、急いでかけつけたんじゃよ。えらい災難じゃったな」
老人は、廊下に顔を出し、看護婦にかゆを作ってくるよう言いつけ、アドルに何か食べたいものはないかと聞いた。しかし、アドルはそれほど食欲もなく、首を横にふった。
老人は、何か栄養のつくものを2、3つけて持ってきてくれとつけ足してドアを閉めた。
「少しは栄養になるものを取らんと、元気にならんぞ」
老人は心配そうな顔をして、いすに腰かけた。
「そういえば、まだ互いの自己紹介まだであったな。わしは、このバルバドの町を治めておるブルドーじゃ」
「オレはアドル。アドル=クリスティン」
「アドルは、どこからきたのかね!?」
「南から、プロマロックの港町から」
ブルドーは、それを聞いた途端、信じられないといった顔をした。
「プロマロックじゃと!?……あの嵐の結界を破ってきたというのか!?」
アドルは静かにうなづく。
「信じられん、あれを越えてやってきたなど……、一体どうやって」
と、そこへ体格のよい、日に焼けた肌を持つ男が入ってきた。
「父さん、あの若者が目を覚ましたんですつて!?」
「おう、スラフ。早かったの。漁の方はどうであった!?
「大漁です。それより、彼は……」
ブルドーは立ち上がって、その大柄な男をアドルに紹介した。
「わしの息子スラフじゃ」
「僕を抱きかひかえてくれた人ですね。あの時はありがとうございました」
アドルは手をさきしのべ、スラフと握手した。
「すっかり良くなったみたいだね。安心したよ」
スラフはニッコリとほほえんだ。
「僕はアドルです」
「なんと、プロマロックから来たそうじゃ」
ブルドーの言葉に、スラフの顔から笑いが消え、驚きの表情になった。
「何ですって!?プロマロックから!?……それじゃ、あの嵐の結界を……」
「越えてきたそうじゃ」
スラフは、しばらくポカンと口を開いていだが、やがてポツリと言った。
「よほど、運がいいとしかが言えないな」
「そうであろう、そうであろう」
その時、ドアがノックされ、看護婦が食事を運んできた。
「今日は、だっぷりと食事をとって眠るといい。明日また見舞いにくるでな」
ブルドーは、そう言うとスラフとともに部屋を出ていった。ホワイト・フオーンの砂浜の西端、そこにエステリア唯一の港町バルバドがある。
人口100も満たないこの小さな町は、かつては海外からの商人たちが多く出入りし、この国でとれる鉱物の取り引きなどで、にぎわっていたという。
しかし、あのドゥアール海に“嵐の結界”が出来てより、バルバドの町は、もとの寂しい漁業の町となっていた。
アドルはその町の高台に建てられた石造の小さな病院の一室で背中に受けた傷の手当てをされていた。
医者が言うには、もう半刻ほど止血が遅れていたら、アドルはこの世の者ではなくなっていたということだった。そして傷が完治するのに、三日はおかるだろうとも言った。
「体調が戻るまでゆっくりと静養していけばよい。金のことなら心配いらん。この町は、旅人に対しては親切だからな」
翌日、アドルを見舞いに来たブルドー親子は、そう言った。
「それで、1つ聞かせてもらいたいのだが」
ブルドー言う。
「ここへは何をしに来たんじゃ!?この国が、魔の住む国として恐れられているのは、わかっておろう」
父親の言うことにスラフも同意見だった。そこでアドルは、故郷の村を離れ、諸国を旅してまわっていることを話しはじめた。そして、プロマロックでエステリアの謎について聞いた事も。
「多くの人々が、その謎を調べようとして、命を落としていったそうです。僕も、その謎とは何なのか調べようと思って……」
「この国へ来たというのか!?」
ブルドー親子は、呆れた顔でアドルを見つめた。
「一体、この国はどうなってしまったと言うんですか!?」
「詳しいことは、わしらにもわからんのだよ。突然怪物たちがあらわれ、わしらを襲うようになった。そんなわかりきった事実しか話せんのだ」
ブルドーは苦い顔をして答えた。
「この北にある砦の町ミネアに行けば、何かしら知っている者がいるかもしれんが、あてにはならんだろう」
「しかし……」
スラフがつぶやいた。
「このまま何もせず、ただじっとしていても怪物たちは、いつが我々をほろぼし、この国を乗っとるに違いない」
アドルは、そう思うのなら何故、原因をつきとめようとしないのかと問いた。
スラフは苦笑いして答えた。「それは、何回も考えたさ。しかし、私はこの港の人々を守ってやらねばならない義務を持っている。私一人のわがままで、皆を死に追いやりたくはない」
スラフは席を立ち、漁に出かけると言って部屋を出ていった。
「あれもあれで苦しんでおるのだ」
ブルドーは窓から、病院をはなれてゆく息子を見つめながらつぶやいた。
「己の心の中で、謎を調べたいという欲望を村を守らねばという信念でおさえつけておるのだ。もし、わしがもう10ばかり若ければ、あやつを旅に出させてやるのだが」
アドルは、ブルドーとスラフの心の内を知らなかったといえ、彼らを苦しめてしまった事をくいた。それから3日後、アドルの傷はすっかり治り、その日彼は港の方へと歩いていた。
バルバドの港は、プロマロックと比べるとかなり小さく、かつて鉱物でいっぱいつまっていた石造の倉庫は、半分くちはてている。
船つき場には大型の船はなく、小さな漁船が20隻ほど仲良く肩をならべて停泊している。
漁船をながめているアドルに声をかける者がいた。
スラフである。
彼はこの港の責任者であり、全ての漁船の面倒を見る網元でもあった。
漁船は、日の出前と日の入り後にしか漁に出ず、昼間はずっと港につけっ放しにされているとスラフは、アドルに教えた。
「この辺じゃ何がよくとれるんです!?」
「何でも取れるよ。皮肉にも嵐の結界のおかげで至る所の魚が、ここらの沖合に流されてくるんだ」
「やっぱり、ここらプロマロックへむかおうとすれば嵐にあってしまうのか」
「ああ、10日位前にミネアの町ひらきた男が勝手に船を持ち出してな、あっけなく巻き込まれちまったよ。」
2人は静かな昼下りの港を倉庫の方へと歩いていった。
水平線の上に、ボンヤリとグリアの山々が見える。そのふもとには、プロマロックの町が広がっているはずだが、はっきりと見えるわけではなかった。
「プロマロックの様子はどうだったね。初めてだったんだろ、ああいう所は!?」
スラフは、グリアの方を見ながら言った。
「けっこうにぎやかでしたよ。町には、色んな国の人々がいましたし、港は入る船、出る船でごったがえしてました。はっきり言ってめんくらいました。あのようなにぎやかさは自分の村では秋の祭りの時ぐらいだったから」
「それじゃ、あの港町では、君は毎日お祭り気分だっだワケだ」
「それはいくらなんでも、毎日がお祭りだったら疲れてしまいますよ」
「それもそうだ」
2人は、ふき出して大声で笑った。
と、その時、町の中央のやぐらの上でドラの音が響いた。
「いかん、怪物どもが来たぞ」
スラフは、すばやくやぐらの方へ走ってゆき、アドルもこれについていった。「どの方角からだ、数は?」
スラフは、高さ20メライのやぐらをスルスルと昇り、ドラを打ちならした男にだずねた。
「北の方角、カーロイドが20人です」
スラフは、遠眼鏡でその方向を見つめた。青白い体の小人族カーロイドガ2列になってミネアとバルバドを結ぶ道を進んでくる。
「奴らめ、まだこの前のことに、こりていない様だな」
スラフは遠眼鏡をアドルに預けた。
「私は、これから戦いの指揮をとるため、皆の所へ行く。君はここで待つててくれ」
「オレにも戦わせて下さい」
スラフは、ニッコリ笑ってアドルの頭をなでだ。
「気持ちだけ受けとっておくよ。君はこの町の客人だ。その客人を危険な目にあわせたくない。わがってくれ」
アドルは、しかたなくうなづいた。スラフは再度笑顔を見せ、やぐらを降りていった。
スラフは、中央の広場に集まった男たちに何か話し、武器をその手に持つと、皆を引き連れて北の方へとむかっていった。
やがて怪物たちとスラフたちは、道の上で激しい戦闘が始まった。相手20に対し、こちらは30。力の面でもこちらの方が上まっており、戦闘は一気にこっち側が有利、怪物たちはバラバラになって北へと逃げていった。
アドルは、やぐらを隆り、スラフのいる辺りへ走っていった。
スラフたちは、それぞれが軽いケガをした程度ですんでいだ。
アドルが近づいてくるのを見て、スラフは手を上げて振った。
「以外と、あっさりケリがつきましたね」
「なに、私たちにかかれば、あいつらなんか赤子も同然さ」
スラブは、そう言って笑い、自分の家へ引き返していった。
しかし、怪物らの襲撃は、その日だけに限らず、連日連夜続くようになった。しかも、日をおうごとに、それは強いものになっていつた。
「奴ら、この町を全面的につぶすつもりなのか!?」
スラフだけでなく、町の誰もがそんな不安を抱きはじめた。
怪物たちのねらいは、沖合の漁場と港の船であった。彼らは、食料を獲得するとともに海をはさんだエウロペの世界へ渡るつもりだった。そのため、この港だけは、何としてでも死守し、怪物たちの足をくいとめなければならなかった。そんな戦いの日々の続く中で、アドルは、ついに北の町ミネアへ行くことを決めた。何の恩返しもせず、バルバドをはなれるのはつらかったが、とにかく、この怪物たちのあらわれた元凶を調べ、たたかなければ、真の平和はおとずれないと判断したのである。
アドルは、ブルドーから服と食物、そして1000ゴールドをもらい、港町から旅立っていった。5. 始まり
バルバドとミネアを結ぶ道を北へ進むこと約30分、アドルの目の前には高さ10メライ、四方をとりかこむ防壁があらわれた。
あれが別名、砦の町と呼ばれるミネアであった。
この町の入口は北側に1つしかなく、南の方角からきた彼は防壁に沿って北側にまわるしかなかった。
しかしそこはまた、崖沿いの道でもあり、一歩踏みはずせば、10メライ下の岩のだくさん突き出ている海に落ちてしまう危険な所であった。アドルは、慎重に1歩1歩進んでゆき、何とかして北の入口の前まで、たどりついた。
町の入口から北へは、1本の橋がかけられていた。
橋は、やはり海面から10メライほどの高さの所にあり、対岸も崖になっているのが見える。
とりあえず、アドルは、町の中へ入ることにした。
町の中は、整然としており、人々の姿も通りのあちこちによく見られた。多分バルバドよりは、人口は多いであろう。しがし、活気はそれほどあるとは思えなかった。家という家はひっそりしていて、店はあるものの、客の姿は多く見られなかった。l
とにかく今日からは、ここがアドルの新たな旅の出発地点となるのである。アドルは再び町の入口の前に立ち、北にそびえる巨大な塔を見上げだ。あの塔には、何かがあるに違いない。
そんな思いが彼の心の奥底からしてきた。
アドルは、町の中へと入ってゆく。そしてこれから始まる冒険の旅に大きな期待をふくらますのだった。
操作方法
テンキー〈移動〉
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生命力。
これが0になると死ぬ。
生命力の上限。
キャラクターのレベルアップで増える。
戦闘時には、下に戦っているモンスターの生命力を示すバーが表示される。
モンスターを倒して得られる経験値
これらが増えると、キャラクターがレベルアップする。
トリビア
◆生産時の不手際発生
一部生産加工のミスで重要アイテムが入っている宝箱が最初から開いており中に何も入っていない製品が存在し交換対応が行われた。生産加工のミスということはコピープロテクトチェックに引っ掛かった状況になっているということだろだろうか。(ダームの塔でドギが助けに来ないという話はよく聞くが)
その場まで達して保存されたユーザーディスク(広告では『Cディスク』と記載)には開けた宝箱のデータが保存されているためか、ユーザーディスクを再度作成し直して最初からプレイするように記載されている。
裏技の紹介
◆イース未使用曲集を聞く
ドライブ0 に ディスクB、ドライブ1 に ディスクA を入れてYSを押しながら起動する。
TRACK LIST
ラジオ収録曲(FM音源+SSG)
ノーマル音源
音源チップ:YAMAHA YM2203(OPN)
01 Feena (タイトル)
02 Fountain of Love (町)
03 The SYONIN (店1)
04 Tears of Sylph (店2)
05 First Step towards wars (草原)
06 Palace (神殿1)
07 Holders of Power (デカキャラ)
08 Palace of Destruction (神殿2)
09 Beat of the Terror (廃坑)
10 Tower of the Shadow of Death (塔)
11 The last moment of the Dark (塔の最上階)
12 Final Battle (最後のデカキャラ)
13 Rest in Peace (戦いの後)
14 The morning grow (エンディング1)
15 See you again (エンディング2)
16 GAME OVER
合計時間 : 16:50
作曲者 : 古代祐三, 石川三恵子
DISCOGRAPHY
ミュージック・フロム・イース
発売日: 1987年11月5日
価格: 3,000円(税込)
商品番号: K30X7701
販売元: キングレコード
収録曲
01 FEENA(タイトル)
02 FOUNTAIN OF LOVE(町)
03 THE SYONIN(店1)
04 TEARS OF SYLPH(店2)
05 FIRST STEP TOWARDS WARS(草原)
06 PALACE(神殿1)
07 HOLDERS OF POWER(デカキャラ1)
08 PALACE OF DESTRUCTION(神殿2)
09 BEAT OF THE TERROR(廃坑)
10 TOWER OF THE SHADOW OF DEATH(塔)
11 THE LAST MOMENT OF THE DARK(塔の最上階)
12 FINAL BATTLE(デカキャラ2)
13 REST IN PEACE(最後の戦いの後)
14 THE MORNING GROW(エンディング1)
15 SEE YOU AGAIN(エンディング2)
16 DEVIL'S WIND(悪魔の風)
17 FAIR WIND
18 SHINING STAR
19 DREAMING
20 CHASE OF SHADOW
21 CHURCH
22 OVER DRIVE
23 DEPARTURE
24 CROSSROAD OF SADNESS
25 BATTLE GROUND
26 MYSTERIOUS MOMENT
27 THEME OF ADORU
28 DEAD-END STREET
29 SUB-MISSION
30 OPEN YOUR HEART(X1版 タイトル)
31 DEVIL'S STEP(X1版 廃坑)
32 TENSION(X1版 塔)
33 IN THE MEMORY(X1版 エンディング1)
34 FLY WITH ME(X1版 エンディング2)
35 FEENA(タイトル)
36 FIRST STEP TOWARDS WARS(草原)
37 BEAT OF THE TERROR(廃坑)
38 TOWER OF THE SHADOW OF DEATH & THE LAST MOMENT OF THE DARK(塔と塔の最上階)
39 SEE YOU AGAIN(エンディング2)
ファルコムゲームミュージック
発売日: 1987年11月10日
価格: 2,800円
商品番号: 28XA179
販売元: アルファレコード
収録曲
■イースオリジナルゲームサウンドトラック
01 Feena
02 Fountain Of Love
03 First Step Towards Wars
04 Palace Of Destruction
05 Beat Of The Terror
06 Tower Of The Shadow Of Death
07 The Last Moment Of The Dark
08 Final Battle
09 The Morning Grow
10 See You Again
■オリジナルゲームサウンドトラック
11 太陽の神殿
12 ドラゴンスレイヤーIVドラスレファミリー
13 ロマンシア
14 ザナドゥシナリオⅡ
■イースPC88サウンドボードⅡバージョン
15 Palace Of Destruction
16 The Morning Grow
当時の広告
エンディングムービー
■エンディングムービー