イー・アル・カンフー MSX版 について
KONAMI LOOK '97秋号(9月上旬配布)
イー・アル・カンフー(Yie Ar KUNG-FU)は MSX 用に開発され1985年1月10日にコナミより発売されたリアルタイムアクションゲーム。同日(1985年1月10日)に同タイトルのアーケード版も稼働している。コンセプト的に共通部分が多いものの別物だ。
MSX 版 イー・アル・カンフー は当初のタイトルが「皇帝クレイヤー」(買うてくれやぁ~)だったことが1997年にコナミより発行された冊子 KONAMI LOOK により明かされている。
ゲームデザインは 正垣亮平(しょうがきりょうへい)さんが担当。後に 夢大陸アドベンチャー(1986年10月28日発売) や ガリウスの迷宮(1987年4月18日発売)、シャロム(1987年12月23日発売)などのゲームデザインを手掛けている。
▲ アーケード版もMSXと同日発売のソース(ログイン 1985年5月号)
MSX 版は業務用の移植という話も見受けられるが、個人的見解では開発・稼働時期からそれに当たらないと考える。1985年4月22日には MSX 版の移植として任天堂ファミリーコンピュータ版が発売されている。
なお、カシオブランドからもカシオMSXソフト・ライブラリー第8弾として、イーアルカンフー(表記が イー・アル・カンフー でないことに注意)がOEM発売。(ゲーム内容はコナミ版と同じ)また、1988年11月15日にコナミから発売された コナミ ゲームコレクション Vol.1 にはSCCカートリッジ対応の イー・アル・カンフー が収録されている。
▲ コナミコンピュータソフトウェアカタログより(発売前)
MSX 版とアーケード版では主人公の名前も異なるが、MSX 版開発途中のストーリーや画面では主人公の名前がアーケード版と同じ ウー・ロン だ。ただし、MSX 版のアルファベット表記は "WOOLON"、アーケード版のアルファベット表記は "OOLONG"。(開発途中の女手裏剣士は "メンタンピン" という名前だったようだ。)製品化に伴って復讐劇というバックグラウンドは消去されたが、発売後の1985年2月発行カタログもストーリー表記だけはそのまま(主人公名も ウー・ロン)だった。
MSX 版イー・アル・カンフーの開発に用いられたランのラフスケッチ。ツインリングの髪型が特徴。
MSX 版とファミリーコンピュータ版で唯一異なっているキャラクターが女手裏剣士である 藍(ラン)のデザイン。ファミリーコンピュータ 版はアーケード版の手裏剣使いである スター のデザインを踏襲しているようだ。お団子ツインの髪型や肩出しコスチュームと完全に MSX 版と異なっている。
開発中のスケッチからも "女手裏剣士" というコンセプトはアーケード版と共通であってもデザインは完全に別で独立して行われていたことが分かる。
▲ 初期出荷パッケージ(MSX オリジナルデザイン)
▲ 通常出荷パッケージ(アーケード版準拠デザイン)
パッケージは珍しく完全にデザインが異なる2種類のパッケージが存在する。コミカルタッチなデザインが初期出荷のパッケージで、およそ4か月経過した5月頃の出荷分(3次ロット?)からアーケード版のイメージイラストへ変更された。MSX 版はパッケージに描かれた "Yie Ar KUNG-FU" のロゴは紫色だったが、カラーリングもそれに伴いアーケード版完全準拠となった。理由は不明だ。
誤解が起こりやすいパッケージで イー・アル・カンフー を取り扱ったブログでも逆の記載をよく見受ける。駿河屋では現在逆で登録されている。
新バージョンは「中段」の炎や手裏剣を正拳で撃ち落とせる。(上下段はバージョン関係なく可能)
パッケージだけではなく、アルゴリズムの違う別バージョンの イー・アル・カンフー が後に出回ったことが確認されている。大きく異なるのは、桃(タオ)が吐く中段の炎や 藍(ラン)の投げる中段の手裏剣を正拳(パンチ)で撃ち落とせるようになったことだ。(上段と下段はバージョンに関係なくキックで落とすことが可能)なお、コナミ ゲームコレクション Vol.1 に収録されている イー・アル・カンフー はアルゴリズムに変更のあった新バージョンだ。
▲ MSX 版 の "藍(ラン)" は太り過ぎ。功夫が足りないんじゃないの?
キャラクター操作は MSX 版とアーケード版で完全に異なる。これが別ゲームと捉える所以の1つだ。アーケード版のウリでもあった「16種類の必殺技」など存在しない。
カーソルキーとスペースキーのみで行うハイキック、正拳、ローキック、そして飛び横蹴りのみだ。ハイキックやローキックはスペースキーを使用しないカーソル斜め押しとややコツがいる。これは、ジョイパッドなどを想定すると操作ミスが起こりやすそうだが、キーボードのカーソルキーとは親和性が高く意外に思われるが非常に使いやすい。
▲ (参考画像)スーパーストリートファイター X68000版
個人的には画面レイアウト(ファミリーコンピュータ版は除く)に注目したい。対戦格闘ゲームは当時でも ザ・ビッグプロレスリング、アッポー、カラテカ や 空手道 など数々存在した。しかし、イー・アル・カンフー は、その中でも後に一世を風靡した対戦格闘ゲームの先駆けであったと言える。画面上部中央に "KO(ノックアウト)" を配し、左右にキャラクターの体力ゲージ。ほぼ同じような画面レイアウトを後の対戦格闘ゲームに見ることができるのだ。
▲ くさり使いの "陳(チン)"。くさりの伸び具合と収納のスムーズさに驚いた。
MSX 版 イー・アル・カンフー は アーケード版と異なりプレイヤーの想定年齢を低く見ていたのか割と誰にでも遊ぶことができ、シンプルだが様々な攻略法のある奥の深いゲームに仕上がっている。当時コナミから発売された グラディウス や ツインビー と比べればシリーズ化がなく短命に終わったが、当時のプレイヤーには印象に強く残るゲームであったといえるだろう。
▲ 1985年12月作品 イーガー皇帝の逆襲(イー・アル・カンフーⅡ)
MSX ユーザー以外にはほとんど知られていないと思われるが イー・アル・カンフー と同じ1985年に イーガー皇帝の逆襲 という続編が早々に発売されている。これが集大成となれば名作中の名作になったのかもしれない。しかし、イー・アル・カンフー の開発段階で没になったボーナスステージの構想(小敵隊が登場する)を通常ステージに加えた状況はややブレた感があり残念だった。
▲ 自らが飛ぶという…ある意味飛び道具。謎の男 "呉(ウー)"。(最後まで何が謎なのか明かされず)
イー・アル・カンフー の音楽は当時のプレイヤーに限ればコナミ作品の中で一二を争うくらい有名だろう。作曲はコナミを代表する作品となった グラディウス の作曲者である 東野美紀 さんがアルバイト時代初めて作った曲とされている。アーケード版とはニュアンスこそ似ている(一部フレーズは共通)が全く異なることからも同タイトルながら別作品として開発しようとしていたことが想像できる。
今時のゲームであれば、対戦相手によってBGMが変化するのは当たり前。そうでなければ手抜きとも称される時代だ。しかし、30秒に満たない1曲がボーナスステージに至るまで使用されている。一般的な中国のイメージをうまく昇華した作品ゆえ、脳に刷り込まれやすくなり イー・アル・カンフー のイメージ曲といえば1つに絞られるのである。