『イー・アル・カンフー』MSX版について
◆『イー・アル・カンフー』MSX版概要
『イー・アル・カンフー』(Yie Ar KUNG-FU)はコナミが開発を行い、MSX用として1985年1月10日に発売したリアルタイムアクションゲーム。現在では格闘ゲームに位置付けられるジャンルだ。同日(1985年1月10日)に同タイトルのアーケード版も稼働している。コンセプト的に共通部分が多いものの別物だ。1985年4月22日にはMSX版の移植として任天堂ファミリーコンピュータ版が発売されている。
『イー・アル・カンフー』は当初のタイトルが『皇帝クレイヤー』(買うてくれやぁ~)だったことが1997年にコナミより発行された冊子「KONAMI LOOK」により明かされている。
ゲームデザインは正垣亮平(Ryohei Syogaki)が担当。後に『夢大陸アドベンチャー』(1986年10月28日発売)や『ガリウスの迷宮』(1987年4月18日発売)、『シャロム』(1987年12月23日発売)などのゲームデザインを手掛けている。
MSX版は業務用アーケードゲーム版の移植という話も見受けられるが、個人的見解では開発・稼働時期からそれに当たらないと考える。
なお、カシオブランドからも後に「カシオMSXソフト・ライブラリー第8弾」として、『イーアルカンフー』(表記が『イー・アル・カンフー』でないことに注意)がOEM発売。(ゲーム内容はコナミ版と同じ)また、1988年11月15日にコナミから発売された『コナミ ゲームコレクション Vol.1』にはSCCカートリッジ対応の『イー・アル・カンフー』が収録されている。
◆アーケード版とMSX版の関係
MSX版と業務用アーケードゲーム版では主人公の名前も異なるが、MSX版開発途中のストーリーや画面では主人公の名前がアーケード版と同じウー・ロンだ。ただし、MSX版のアルファベット表記は"WOOLON"、業務用アーケードゲーム機版のアルファベット表記は "OOLONG"と微妙に異なっている(開発途中の女手裏剣士は "メンタンピン" という名前だったようだ。)。製品化に伴って復讐劇というバックグラウンドは消去されたが、発売後の1985年2月発行カタログもストーリー表記だけはそのまま(主人公名もウー・ロン)だった。
MSX版とファミリーコンピュータ版で唯一異なっているキャラクターが女手裏剣士である藍(ラン)のデザインだ。ファミリーコンピュータ版はアーケード版の手裏剣使いであるスターのデザインを踏襲しているようだ。お団子ツインの髪型や肩出しコスチュームと完全にMSX版と異なっている。
開発中のスケッチからも「女手裏剣士」というコンセプトはアーケード版と共通であってもデザインは完全に別で独立して行われていたことが分かる。
◆大きく異なるパッケージデザイン、バージョン違いがある
パッケージは珍しく完全にデザインが異なる2種類のパッケージが存在する。コミカルタッチなデザインが初期出荷のパッケージで、およそ4か月経過した5月頃の出荷分(3次ロット?)からアーケード版のイメージイラストへ変更された。MSX版はパッケージに描かれた "Yie Ar KUNG-FU" のロゴは紫色だったが、カラーリングもそれに伴いアーケード版完全準拠となった。理由は不明だ。
誤解が起こりやすいパッケージで『イー・アル・カンフー』を取り扱ったブログでも逆の記載をよく見受ける。駿河屋では現在逆で登録されている。
パッケージだけではなく、アルゴリズムの違う別バージョンの『イー・アル・カンフー』が後に出回ったことが確認されている。大きく異なるのは、桃(タオ)が吐く中段の炎や藍(ラン)の投げる中段の手裏剣を正拳(パンチ)で撃ち落とせるようになったことだ。(上段と下段はバージョンに関係なくキックで落とすことが可能)なお、『コナミ ゲームコレクション Vol.1』に収録されている『イー・アル・カンフー』はアルゴリズムに変更のあった新バージョンだ。
◆アーケード版と別物のMSX版
キャラクター操作はMSX版とアーケード版で完全に異なる。これが別ゲームと捉える所以の1つだ。アーケード版のウリでもあった「16種類の必殺技」など存在しない。
カーソルキーとスペースキーのみで行うハイキック、正拳、ローキック、そして飛び横蹴りのみだ。ハイキックやローキックはスペースキーを使用しないカーソル斜め押しとややコツがいる。これは、ジョイパッドなどを想定すると操作ミスが起こりやすそうだが、キーボードのカーソルキーとは親和性が高く意外に思われるが非常に使いやすい。
◆格闘対戦ゲームに見られたレイアウトの元祖?
個人的には画面レイアウト(ファミリーコンピュータ版は除く)に注目したい。対戦格闘ゲームは当時でも『ザ・ビッグプロレスリング』、『アッポー』、『カラテカ』や『空手道』など数々存在した。しかし、『イー・アル・カンフー』は、その中でも後に一世を風靡した対戦格闘ゲームの先駆けであったと言える。画面上部中央に「KO」(ノックアウト)を配し、左右にキャラクターの体力ゲージ。ほぼ同じような画面レイアウトを後の対戦格闘ゲームに見ることができるのだ。
◆短命に終わったが印象に残る素晴らしい作品
MSX版『イー・アル・カンフー』は業務用アーケードゲーム版と異なりプレイヤーの想定年齢を低く見ていたのか割と誰にでも遊ぶことができ、シンプルだが様々な攻略法のある奥の深いゲームに仕上がっている。当時コナミから発売された『グラディウス』や『ツインビー』と比べればシリーズ化がなく短命に終わったが、当時のプレイヤーには印象に強く残るゲームであったといえるだろう。
MSXユーザー以外にはほとんど知られていないと思われるが『イー・アル・カンフー』と同じ1985年に『イーガー皇帝の逆襲』という続編が早々に発売されている。これが集大成となれば名作中の名作になったのかもしれない。しかし、『イー・アル・カンフー』の開発段階で没になったボーナスステージの構想(小敵隊が登場する)を通常ステージに加えた状況はややブレた感があり残念だった。
◆中国のイメージを見事に具現化した名BGM
『イー・アル・カンフー』の音楽は当時のプレイヤーに限ればコナミ作品の中で一二を争うくらい有名だろう。作曲はコナミを代表する作品となった『グラディウス』の作曲者である東野美紀(ひがしのみき)がアルバイト時代初めて作った曲とされている。アーケード版とはニュアンスこそ似ている(一部フレーズは共通)が全く異なることからも同タイトルながら別作品として開発しようとしていたことが想像できる。
今時のゲームであれば、対戦相手によってBGMが変化するのは当たり前。そうでなければ手抜きとも称される時代だ。しかし、30秒に満たない1曲がボーナスステージに至るまで使用されている。一般的な中国のイメージをうまく昇華した作品ゆえ、脳に刷り込まれやすくなり『イー・アル・カンフー』のイメージ曲といえば1つに絞られるのである。