『夢大陸アドベンチャー』について
◆『夢大陸アドベンチャー』概要
『夢大陸アドベンチャー』(英題:PENGUIN ADVENTURE)はコナミが開発を行い、1986年10月28日にMSX専用として発売したロールプレイング+シューティングゲーム。現代のジャンルに置き換えればアクションゲーム(+シューティング要素+RPG要素)に当てはまる。コナミのメガロム第二弾となる作品だ。
ゲーム内容は1983年12月にMSX用として発売したペンギンを主人公とした3Dタイプのゲームデザインである『けっきょく南極大冒険』で採用されたゲームシステムをモチーフとしている。
◆『夢大陸アドベンチャー』の開発スタッフ
ゲームデザインは正垣亮平(Ryohei Syogaki)が担当。過去にはMSX版『イー・アル・カンフー』(1985年1月10日発売)、後には『ガリウスの迷宮』(1987年4月18日発売)、『シャロム』(1987年12月23日発売)などのゲームデザインを手掛けている。
メインプログラムを担当したのは福井博幸(Hiroyuki Fukui)。後に『メタルギア』(MSX2版)や『スナッチャー』(MSX2版のメインプログラムも担当している。
開発者に関して耳にすることのある誤解は、1987年に『メタルギア』を手掛けることになる小島秀夫(Hideo Kojima)が最初に手掛けた(デザインした)作品と言われること。しかし、これは直属の上司(師匠)であった正垣亮平の下でサポートという形でアイデアを求められ出したという程度の関与で大きく関わったものではない。映像で述べられているのはボスシーンで登場するフリーザウルスの前にあるピンを踏んで地割れを起こして倒すというのがアイデアの一つと述べている。また、Twitterにて、スロットマシンに関しても述べられている(当サイト右側サイドバーに転載)が全てなのか一部なのか述べられていないので詳細は不明だ。
◆『夢大陸アドベンチャー』は『けっきょく南極大冒険』の続編ではない
また、夢大陸アドベンチャー に関しても誤解が稀に見受けられる。それは『けっきょく南極大冒険』の続編、もしくは同じ世界線であると思われているプレイヤーも多いということだ。(後に発売された パロディウス では世界線が共通となっている)もちろん、どう見ても けっきょく南極大冒険 がモデルであるのは誰が見ても明らかであることは事実だ。
ただし、注意して観察してほしいことがある。発売当時の雑誌ではたしかに紹介で『続編』という記事が確認できる。しかし、コナミから発行された広告、パッケージ、ユーザーズマニュアルなどを含む媒体に『続編』という表記やそれを匂わせた表記は一切ない。私が調べた範囲では2006年5月31日配信開始の携帯アプリ版ですらも確認できていない。
コナミオフィシャルとして「続編」の表記が確認できたのは 任天堂 Wiiバーチャルコンソールでの配信時(2009年11月24日)だ。紹介文に『「けっきょく南極大冒険」の続編』と記載されている。ただ、オフィシャルであるコナミが発信した情報とはいえ20数年を経て記載された内容なので後付感は否めない。(プレイ人数も間違えて記載されている。正しくは1人)
本来、ネームバリューを考えれば『けっきょく南極大冒険2』とする(舞台は南極ではないけど…)のがわかりやすく、プレイヤー全般からの注目度も上がりやすいのは目に見えている。役員などからの要望も挙がるのが一般的ではないだろうか。しかし、コナミはそれを行わなかった。完全な推測だが、これに関してはあえて避けるよう開発陣の強い意思と要望があったのかもしれない。
◆ロールプレイング+シューティングとは?
『夢大陸アドベンチャー』のウリはゲームジャンルとしてコナミが述べている「ロールプレイング+シューティング」という点だろう。目新しさを狙った表記だったが実質はアクションゲームだ。なお、1996年時点ではコナミも正式にジャンルをアクションゲームと位置付けたことを確認している。(『けっきょく南極大冒険』もジャンルを「教育ゲーム」としていたが同様にアクションゲームと修正した)
記載されているシューティング要素は1つ。宝物の「ガン」を入手したときのみ撃てるショットを表している。ただし、連射は効かないし遠方までショットは飛ばないので爽快感は一切ない。ショットボタンを押しっぱなしにしていてもガンは発射され続けないので、手動で連射する必要がある、そのためキーボードでジャンプとショットを同時に制御するのは非常に困難だ。連射機能付きのジョイパッドを用意しなければ連射しながらジャンプ時間を調整することは非常に難しいだろう。また、ガン の有効範囲が狭いのは奥行きだけではない。高い場所に浮遊している敵には全くの無力なので限定的だと言える。
ロールプレイング要素はお金の代わりとなる魚によって宝物(先述の「ガン」を含むアイテムや装備品)と物々交換でき、交換した宝物によって主人公であるペンギンくんがどんどんパワーアップ(成長)していくことや、謎解き要素を組み合わせたことに端を発していると思われる。
◆MSXでここまでできるとは誰が想像できた!?
『夢大陸アドベンチャー』の凄い点はシューティング要素でもロールプレイング要素でもなかった。写真だけでは伝わりにくい3D視点で見せる圧巻の移動シーンだ。このグラフィックが処理落ちすることなくMSXでグリグリ動くこと。そしてメガロムの恩恵もあってか、多彩なステージが用意されており、プレイヤーを飽きさせない。そして軽快でテクニカルなBGMの数々。これで興奮しないプレイヤーはいるのか?と疑う出来栄えだった。
内容もMSXゲーム黎明期の1983年12月からおよそ3年に渡る経験を裏付けるかのような高い完成度だった。『けっきょく南極大冒険』のように氷上のステージを進むだけではなく、森林やツンドラ、渓谷のような左右に背景が描かれ圧倒されるシーンも多く3D視点感をさらに強めてきた。移動手段も氷上を滑るのに加えて、地表では走るし、水上や水中、宇宙などは遊泳する芸の細かさ。また、隠し要素や前述のロールプレイング要素などアイデアの限りを詰め込んだように思えた。
もちろん、見た目だけではなくゲームとしても十分面白い。全人類にオススメできる数少ない作品だろう。お茶の間での軽いプレイスタイルならそこそこのステージまで進める親しみやすさがある。特に序盤はおじゃま敵も出てこないので小さなお子様でも十分遊べる難易度に仕上がっている。かわいらしいペンギンの移動シーンやゴールインした姿には普段ゲームをしない人でも親しみを持って迎えられるだろう。
◆エンディングを目指すなら難易度は激辛レベル
ただし、この作品はプレイヤーを選ぶ危険性を孕んでいる。エンディングを目指すという目的になれば地獄を見るのだ。特に後半は高い難易度にも関わらずコンティニューが標準で用意されていない点がプレイヤーを苦しめる。多くのプレイヤーが投げ出さすにエンディングを見られるようなゲームではないのだ。
加えて、ロールプレイングゲーム的ともいえる攻略のためのマッピング(小さな地割れ位置把握のため)が必要なこと。プレイヤーストックがおじゃま敵や弾、障害物などの衝突によりあっさり失われることなどが挙げられる。
雑誌でコンティニューの裏技が公開されるまでの発売からおよそ2か月の間は、あまりの高難易度から『コナミのゲームを10倍楽しむカートリッジ』(これにより、プレイヤーの残り数を99にする)が必須と思われた。ノーコンティニューでクリアすることは不可能に思えるほど難しい上で、更に各種の謎を解き明かす必要があるのは理不尽にさえ感じた。
また、発売後に発覚するが、当時としては珍しいマルチエンド(ハッピーエンドとバッドエンド)を採用していたのが特徴でもあった。しかし、この分岐方法が悪名高いことは一部の界隈で有名だろう。ゴールが遅すぎてペン子姫はすでに亡くなってしまっているエンディングを迎えることがほとんどなのだ。
MSXマガジンではエンディングに関してデマのヒント記事が公開され、多くのプレイヤーは混乱したはずだ。ハッピーエンドを迎えるにはプレイ中にポーズした回数が「1か4の倍数+1」のとき(コンティニューした場合は回数がリセットされる)だけという訳のわからないフラグで条件分岐している。(2匹以内でクリアするとハッピーエンドを迎えられるという情報もあるがノーミスクリアでも不可だった)長く遊ばせるための戦略であったのだろうか。それにしてもヒドイ。
今なら攻略情報はネット上で簡単に見つかる。それなりに努力すればエンディングを見ることは可能だろう。しかし、『夢大陸アドベンチャー』は必ずしも目を三角にしてプレイしなくてもいいのではないだろうか?誰もがエンディングに到達することができるゲームだけが名作である条件ではないのだ。
◆漢字にはルビが振られているのに英語表記という矛盾
ただ、個人的に『夢大陸アドベンチャー』には大きな不満がある。それはメッセージが全て英語表記であることだ。パッケージに "I love 英語"(教育シリーズ)とでも記載されていれば洒落としてまだ理解できるのだがそうではない。
例えば、画面表示の "BARTER" を理解できている日本人プレイヤーがどれだけいるだろう。答えは「物々交換」であるが、『夢大陸アドベンチャー』では、人の名前や愛称と勘違いされて使用されているケースが多い。
パッケージや取扱説明書を見て欲しい。ほとんどの漢字にはひらがなのルビが振られている。つまり、漢字の読み方がわからない小さな子供が遊ぶことを想定していたはずだ。そこに矛盾を感じる。漢字も読めない日本人の子供は基本的に英語を理解していないのだ
子供にとって救世主は大人だ。画面に表示されたメッセージを見て、何を書いてあるのかわからず親を引っ張ってきたら、その画面はとうに消えていたなんて経験はないだろうか?早く来てくれないからだ!と親に当たり散らした経験はないだろうか?(ないだろう)
メッセージが全てひらがなで表示されるようになっていれば印象も変わり、もっと親しみやすいゲームソフトになっていたに違いないと思うのだ。
◆BGMもこれまた究極のデキ!
『夢大陸アドベンチャー』のBGMは佐々木嘉則(Yoshinori Sasaki)と松原健一(Kenichi Matsubara)の2名で制作されている。(松原健一が効果音のみの担当という可能性もある)佐々木嘉則はモアイ佐々木という名でも親しまれ、『コナミのピンポン』(1985年5月発売)で効果音を担当してからはMSXのコナミミュージックシーンを牽引してきた一人だ。
この『夢大陸アドベンチャー』に関してはPSG音源を使用したMSXオリジナル作品の中でも最高傑作に位置付けたい。基本的に新曲であるが、フリーザウルスを倒した時のファンファーレに『けっきょく南極大冒険』のステージクリアBGMがアレンジされ1曲だけ使用されている(作曲者不明)。そのため、厳密に記載すると作曲者は3名となる。
特徴的なのはPSG音源3つのチャンネルの内、3チャンネル目をほぼリズムに割り当てている贅沢な作りな曲が多いことだ。またPSG音源にも関わらずハイハットやタム、シンセドラム(スネアドラム)、一部ではオープンハイハットやシンバルの音までうまく再現している。『イーガー皇帝の逆襲』(音楽担当は佐々木嘉則)で初めて聞かせてくれたセクションが大幅にグレードアップされている。残念なのは、これだけ素晴らしい出来のハイハットの音が聞こえにくいことだ。細かい打ち込みなのでリズムセクションだけで聞いていても飽きない。
画面について
〈ゲーム画面〉
① 残りタイマー
② 残り距離
③ 魚の持数
④ スピードメーター
⑤ 宝物
⑥ おじゃま敵
⑦ 敵の弾
⑧ 障害物 岩
⑨ 障害物 地割れ
⑩ プレイヤー
〈ポーズ画面〉
① レベル
② ステージ
③ プレイヤー残り数
④ ハイスコア
⑤ スコア
⑥ ペンギン王国
⑦ マップ
⑧ 赤いライン:通過した区間
⑨ ポイント黄
:ステージクリアのポイント
⑩ ポイント赤
:"フリーザウルス"のいるステージクリアのポイント
⑪ リンゴの木
〈物々交換シーン〉
① 交換人
② 宝物
③ スロットマシン
④ 魚の持数
⑤ 現在持っている宝物
⑥ メッセージ
⑦ 矢印
⑧ プレイヤー
⑨ 交換レート
⑩ エンド